115 とてつもない衝撃?
あたしがアリサさんにほめられてるのを真ん丸な目で見てる3人の中で、一番最初に立ち直ったのはオーウェルさんだった。
「ミ、ミアさんや…お主、治療師じゃったな…?」
「一応冒険者ギルドでは治療師で登録してもらってます。」
「ということは白色魔法が使えるんじゃな?」
「はい、使えます。」
「ちなみに今使った魔法は…赤、黄、青の3色合成じゃったが…」
そう言われてみれば、《絶対防御》って、攻撃を止めるときに赤と青と黄色の光が出てたよね。
「そっか、だから3色に光ったんだ…」
「…いやいや、そこが重要ではないんじゃよ、ミアさん。
お主、白色のほかに、赤、青、黄まで使ったんじゃぞ?」
「はひ…たくさん使えるようになりました。」
あたしの答えになぜかこける魔法士ギルドの3人…
アリサさんは相変わらずニコニコしてる。
事の成り行きを見守ってる感じかな?
オーウェルさんが何か難しい顔して、しゃべろうとしてまたやめて、って繰り返してる。
その後ろから、ネイルさんが急におっきな声をあげた。
「つまり、人は白色と他の色の素質を同時に有することはないはずなんです!」
「ほへ…?」
「神話はご存じないですか?
光の陣営に加わった人族は、白もしくは赤、青、黄、緑の素質を持つ可能性があり、闇の陣営に加わった妖魔族は、黒、もしくは赤、青、黄、緑の素質を持つ可能性がある、そんな風に力を与えられたという話です。」
そいえば、前にそんなお話をしてもらったことがあったよね。
いつだったかな…
「そして、白と黒は、他の色と同時に素質を持つことはできないはずなのに!」
「ネイル、落ち着きなさい。」
だんだんと興奮してまくし立てるネイルさんを、ジョルジュさんがやんわりと止めてくれた。
でも、これってあたしのことちゃんと話さないと説明できないっぽいよね…信じてもらえるかは別だけど…
「ミアさんや、ネイルが失礼したのは謝らせていただこう。
ただ、ワシらにとっても不思議じゃ。
確かに今まで、白、黒と他の色を同時に使えたという話は聞いたことがないからの。
じゃが、お主が話したくないというなら無理は言わん。
別にワシらがそのことでお主に対して不利になるようなこともせぬと約束しよう。」
オーウェルさんが、優しい口調でそう言ってくれたのを聞いて、あたしは話してもいいかなって思った。
アリサさんを振り返ると、全部わかってるって感じでうなずいてくれた。
「信じてもらえないかもしれないですけど、あたし、戦乙女みたいです。」
「…何じゃと?」
「え、えと…戦乙女…だったみたいなんですけど…」
あー、さっきと一緒だ…3人とも固まってるよ。
でもオーウェルさんは割とすぐに戻ってきてくれた。
「戦乙女とは…しかし、それならば高度な魔法を使えることも納得できるのう。
これ、いつまで呆けておる?」
そう言いながら、オーウェルさんはジョルジュさんとネイルさんの肩をぽんぽんと叩いてる。
2人はまだ戻ってくるのに時間がかかりそうかもしれない。
「ワシらが聞いていいのはそれくらいかの?」
「えと…1つお願いがあります。」
オーウェルさんに聞かれて、あたしはマリーさんのことを思い出した。
あたしの魔法で何とかなったと思うけど、これからもし何かあったら大変だし、しっかり見てもらえるなら助かるから。
「実は…マリーさん、悪魔にやられて…」
「何と……これは辛い話をさせてしもうたな…」
「あ、いえ…その…あたしの魔法で生き返ることができたんですけど…」
「うむ…ギルドを代表してお悔やみの……
何じゃと?!」
「ひうっ!」
オーウェルさんが急にすっごい大きな声を出したから、思わず首が縮んじゃった。
迫力、すごいな…さすがはギルド長?
「生き返ったじゃと…?
さすがにそれは勘違いなんじゃ…少しでも息があれば、強力な治癒の魔法で治る可能性はあるわけじゃから…」
「でも…あ、アリサさんはどう思います?」
「生き返ったでー、間違いないとー、思いますよー。
だってー、白とー、黒のー、合成魔法なんてー、見たことなかったですからー。」
「白と…黒じゃと…まさに神の領域、か…」
すっかり考え込んでしまったオーウェルさんを見てると、だんだん不安になってきた。
やっぱりいわない方がよかったのかな…
できればマリーさんのことを見てもらいたかったんだけど。
「むう…とにかく、今のことは安易に広めぬ方がよいじゃろう。
ワシらの扱える範囲をとうに超えておるわい。
で、この話をしたということは、何か思うとるところがあるんじゃな?」
「あ、はい、マリーさんの様子を見てもらえないかって思って…
今はアリサさんに見てもらってるんですけど、アリサさんも忙しくなると思うし…」
「なるほど…それに関しては何とかできるじゃろ。
ジョルジュ、手配を頼むぞい。」
ジョルジュさん、首を縦に振って答えてる。
びっくりしすぎて、声がでないとかだったりして。
「とにかく、今の件に関しては、ギルドの方でも話をさせてもらいたいから、少し時間をいただけるかの?
もちろん、機密保持ができる導師にしか話さんよ。」
「はい、わかりました。」
「それではこちらも緊急で動きたいので、ひとまずこの場はお開きじゃ。」
あたしとアリサさんは、オーウェルさんに見送られて、部屋を出た。
ジョルジュさんとネイルさん、最後まで固まってたよ。
「とりあえずー、一度ー、白枝亭にー、戻りましょうかー。」
「そですね。」
アリサさんの提案に賛成して、ギルドを出たところで、白い鳥があたしのほうに飛んできた。
前はびっくりしたけど、セルヴィアナさんの使い魔だってすぐわかったから今度はだいじょぶだった。
鳥はそのまま、あたしの肩にとまった。
(ティスミア様、ご報告に上がりました。)
「あ、ありがとーございます…えと…」
(レアトキステスです。
これはわたくしの役目ゆえ、お礼の言葉をいただくほどのことではありません。)
「んー…でもありがとーです…レアさん?」
(…どのように呼んでいただいても構いません。
あなたの使い魔のミディアドーレですが、こちらへ戻るのは明日になります。
それまではその腕輪を肌身離さず持っていてほしいと申しておりました。)
「そっか…じゃ、分かったって伝えてもらえますか?」
(かしこまりました。
それでは失礼いたします。)
そう言うと、レアさんは飛び立って、あっという間に見えなくなってしまった。
ミディアドーレ、帰ってくるの明日なんだー…ちょっとさみしいな。
「ミアちゃんー、もしかしてー、今ー、鳥さんとー、お話してたんですかー?」
「ふぇ?あ、えっと、あの子もミディアドーレと同じで使い魔なんです。
別の戦乙女さんの。」
「そうなんですかー。
何だかー、素敵ですねー。
わたしもー、お話してみたいですー。」
そのあとも、ミディアドーレがどんな風に話すのかを説明したりしながら、あたしたちは白枝亭への帰り道を歩いていった。
こんな風にお話しできるのは、ほっとする。
でも、考えて見れば、昨日は同じ道を、大慌てで帰ろうとして、帰る途中で悪魔に襲われて、帰ってからも…すごい1日だったんだよね。
白枝亭に戻ると、食堂には誰もいなかった。
奥に入ると、厨房でクルトさんが夕ご飯の準備をしてるとこだった。
「ただいまです。」
「ミアもアリサもおかえり。
そうそう、ちょうどユーリエちゃんが来てくれてるよ。」
「ユーリさんもう来てくれたんだ。
お店も忙しそうだったけど…」
「うん、一段落したっていってたよ。
ところでミア、手が空いてるなら手伝ってもらえるかな?」
「はーい。」
アリサさんは一旦休んでもらうことにして、夕ご飯の準備のお手伝いに。
しばらくすると、厨房にユーリさんが顔を出してくれた。
「クルトさん、一応お薬飲んでもらったから、後はご飯食べてしっかり体力つけてもらってくださいね。」
「ああ、ありがとう。
お茶を入れるから、ちょっと休んでてくれるかな?」
「はい。
あら、ミアちゃん帰ってたのね。」
「ただいまです。
ユーリさん、わざわざ来てくれてありがとです。」
「ううん、あたしもお世話になってるからね。
体力の消耗が激しいけど、お薬もあるし、ご飯は食べられるみたいだから大丈夫よ。
後でお薬の説明するから、向こうで待ってるわね。」
クルトさんが、手早くお茶を用意してくれて、あたしもクルトさんもお薬のことを聞くために、いったん食堂に向かうことにした。
部屋で休んでるアリサさんも、一緒にお茶するために呼んできて、いざお茶を淹れようとしたとき、玄関の扉が勢いよく開いた。
「ただいまー。
あ、ミアちゃんやっぱり先に帰ってたー!」
「エステルさん、おかえりなさい…」
って、そうだ、あたしたち一緒にギルドに行ったんだった。
何かだいじょぶだと思って先に帰ってきちゃったけど…
「ミアちゃんもアリサさんも、まだギルドにいると思ったから結構探したんだよー。」
「はう…ごめんなさーい…」
「あららー、すみませんー。」
うー、うっかりしてた…
とりあえずみんなの分のお茶、用意しなきゃ…
「あれ、エステルさん…」
「ん、何?」
「レイアさんと、エメットさんは?」
「あ…」
あ…って、まさかね…
急にきょろきょろと周りを見るエステルさん…
「えっと、その、アハハ…呼んでくるね…」
しばらくたって、レイアさんとエメットさんと3人で戻ってきたエステルさんは、夕ご飯のときに、2人から、何で置いていったのかって、ずいぶん攻められてたんだよね…
あたしも反省しなきゃ…