111 ようやくミルファム教会へ
ミルファム教会につくと、前の広場はごった返してた。
ケガをした人も結構来てるみたいだけど、炊き出しなんかもやってるからかな。
近づいていくと、知ってる顔を見つけた。
「シャルテさん、こんにちは。」
「ミアさん、どうなさったんですか?
もしかしてお怪我を…」
荷物を運んでる途中だったみたいだけど、わざわざ足を止めてくれた。
ちょっとタイミング悪かったかも、ごめんなさい。
「あ、違います違います!
治療のお手伝いができればって思って。」
「そうですか。
ミアさんは治療師でしたね。
お怪我は自分で治されるのに、わたしったら…」
シャルテさんの顔がちょっと赤くなった。
きっとすっごい忙しいんだね…いつも落ち着いてるシャルテさんだもん。
でも、照れてるシャルテさん、ちょっとかわいかったり。
「他にも魔法士ギルドから治療師さんに来ていただいてるんです。
治療は中でしてもらってるので、一緒に来ていただけますか?」
「はい、あ、あたしも運ぶの手伝います。」
「すみません、ありがとうございます。」
アリサさんと手分けして、3人で持つと楽に持てるんだけど、これ1人で運ぶのは大変だよ…
シャルテさんについて教会に入り、荷物を置いてから、奥の部屋に通された。
3人の治療師さんたちが、順番に並んだ人たちを診てるけど、ケガの程度を確認して魔法を使うか使わないかを考えてるみたいで、なかなか進んでいかないみたい。
「こんにちはー、お手伝いにー、来ましたよー。」
「おおっ、アリサさん!」
3人の治療師さんたち、すっごいほっとしてる…
よっぽど大変だったのかな?
アリサさんが3人の治療師さんのうち、一番年上っぽい人と何か相談してる。
「あの女の子も治療師なのか?
…ふむ、ギルドに所属していないのか。
知らないはずだ。」
「でもー、頼りになりますよー。」
「アリサさんがそう言うなら間違いないのだろう。
ではすぐに変わってもらえるかな?
昨日、怪我のひどい人を順に見ていたのだが、3人ともマナが尽きてしまってな。
今日来ている人たちは、昨日来たけど我々が持たなかったので、教会の人たちに応急処置だけしてもらって、今日また来てもらえるようにお願いした人たちと、新規の人たちになると思う。」
「もしかしてー、今日もー、たくさんの方がー、いらっしゃったのですかー?」
「ああ、朝から割とな。
おかげでそろそろ我々は限界が近い。」
「それでー、怪我のひどい人からー、順番にー、見ようとしていたのですねー。」
「ああ、だが、アリサさんならもう少し持つだろう?」
「はいー、大丈夫ですよー。
ミアちゃんもー、いますしー。」
治療師さんと目があったから、ぺこりとお辞儀をしておく。
とにかく、3人の治療師さんたちには休んでもらうことにして、あたしとアリサさんで後を受け持つことになった。
「それではー、手分けしてー、当たりましょうー。」
「はーい。」
今いるのは20人ほどかな?
また増えるかもしれないけど、とりあえずアリサさんと10人ずつくらいになるのかな。
そのとき、ちょっと思いつくことがあった。
「ね、ミディ?」
(何でしょうか?)
「昨日アリサさんが使ってた魔法って、使っちゃっても大丈夫だよね?」
(昨日といっても、いくつも魔法を使っておられたようですが…
「ほら、みんな同時に治しちゃう魔法だよ。」
(なるほど、まあよいでしょう。
乱発しない限り、不振がられるほどでもありますまい。)
「…詠唱文、わかる?」
ミディアドーレったら、やれやれって感じでため息をついた。
ネコのため息って…何か変だよー。
(私に触れて念じれば、浮かんでくるでしょう。
以前は使えた魔法ですし。)
「ありがと、ミディ。」
アリサさんの方はもう始めてたから、あたしの方に並んでくれた人たちがまだかまだかって待ってた。
とりあえず集まってもらった方がいいよね。
「それでは、並んでいるみなさん、あたしの近くに集まってもらえますか?」
みんな不思議そうな顔をしながらも集まってくれた。
腕に包帯をしてたり、足に当て布をしてたりと、それぞれケガの程度は違うけど、そんなにひどいケガの人はいないみたい。
よっし、それじゃやってみよう。
ミディアドーレの頭に軽く右手を添えて、自分の胸に左手を当てて集中する。
頭に浮かんできた言葉をそのままなぞってみた。
「〈優しき光、我が手より広がりて、数多の傷を癒す助けとなれ…《範囲治癒》〉」
魔法が発動して、あたしの周りにやわらかい光があふれた。
効果もばっちりだったみたいで、集まってた人たちも、おー、とか、わー、とか言ってる。
「まだケガが治りきってない人はいませんか?」
という問いかけに答える人は誰もいなかったから、ちゃんとみんな治ったみたいだね。
アリサさんの方は1人ずつやってたみたいだけど、あたしよりも取りかかるのが早かったから、もう終わりそうだった。
あたしの周りにいた人たちは、それぞれお礼を言って帰っていったから、それを見送ってアリサさんの方に寄っていく。
アリサさんが担当した人たちもみんな帰って、とりあえず一段落だね。
「お疲れさまでした。」
「ミアちゃんもー、お疲れさまー。
それにしてもー、いきなりー、あんな魔法をー、使っちゃうなんてー、やっぱりすごいですねー。」
「あんな魔法って…《範囲治癒》ですか?」
思わずミディアドーレの方を見たけど、ミディアドーレも首をかしげてる。
何かやっちゃったかな…?
「あの魔法ー、結構ー、マナの消費がー、多いでしょうー?
だからー、1人ずつの方がー、楽だったりしませんかー?」
「ふぇ…そうだったんですか。」
「もしかしてー…ミアちゃんにはー、あまりー、負担にならないのかしらー?」
(主よ…アリサ殿の観点は人としての観点ですから…
あなたには当てはまらないところもあるということです。)
んー、何か嬉しいような、嬉しくないような…
ま、もうちょっと待機して、ケガをした人が来ないか様子を見ることになった。
それが終わったら、一度白枝亭に戻らなきゃね。