10 パーティー(後編)
「それでは、我らがラルフの新たな門出を祝して、かんぱ~い!」
パーティーは、フェリックスさんの乾杯の音頭で始まった。
今夜はもう、いつもと全然違う食堂だった。
たくさん人が来るからってことで、イスを片付けて立食形式にしてあるけど、それでもスペースに余裕はあんまりないくらい。
うちの常連さんたちはもちろん、主役のラルフさんはこの街の人だから、ご近所さんもたくさん来てるみたいなんだ。
これだけたくさんの人がいると、ご飯やお酒もすっごい勢いで減っていく。
クルトさんはある程度、作り置きをしていたけれど、もちろんそれで足りるわけがないから、今も厨房で調理中。
あたしもできたものを運んだり、空になったお皿を片づけたり厨房と食堂を行ったり来たりで大忙しだけど、パーティーの雰囲気はすごく盛り上がってて、楽しくお給仕してた。
「ミア、大丈夫かい?そっちのテーブルの隅に、飲み物と簡単につまめるもの置いてあるから、適当なところで休憩していいよ。」
何度目かに厨房に戻ったとき、クルトさんがそう言って奥のテーブルを指差した。
調理だけでも大忙しのはずなのに、あたしの分まで用意してくれるなんてクルトさんすごすぎる!
「ありがとです!でもまだ空のお皿とか結構あるから、もうちょっと運んでくるね。」
「今日のミアは、いつも以上に張り切ってるね?」
「だって、あたしの恩人の方たちだもん!」
「そうだったね。まぁ、無理はしすぎないように頼んだよ。」
「はーい!」
厨房から食堂に新しい料理を運んでいくと、フェリックスさんのお話にみんなが注目してた。
「それでは本日の主役、ラルフからの皆様への挨拶です!」
「あー、どうも、ラルフです。今日はたくさんの方々に集まっていただきありがとうございます。」
ちょっと緊張した感じでラルフさんが喋りだした。フェリックスさんが「ラルフ、ガチガチだぞ~」って言って、ラルフさんに叩かれてる。
「今日をもって、俺は鍛冶に専念しようと思います。今までの冒険で得られた知識や素材を存分に活かせるようにがんばりたいと思います。
リックたちもそうですが、お世話になった冒険者のみなさん、近所のみなさんたちに、1日も早く鍛冶屋としてお役にたてるようになりたいと思っています。
まだまだ親父がメインですが、うちの鍛冶屋を御贔屓にお願いします。」
食堂全体から歓声と拍手が上がった。そっか、ラルフさんはお家の仕事を継ぐんだね。
隣にいるのはお父さんかな?ちょっとうるうるしてる…
「あ、それと」
思い出したように言葉を続けるラルフさん。食堂がまた静まりかえった。
「貴重な素材を手に入れた方もぜひ俺に!」
一瞬の静寂の後、今度は笑い声で食堂が満たされた。
「ちゃっかりしすぎ!」とか「おめぇじゃまだはえぇよ!」って声も飛んでた。
「それじゃ続けて、ラルフの鍛冶の師匠でもある、親父さんからっ!」
フェリックスさんの案内でラルフさんのお父さんが前に立った。
「今日は倅のために、かくも多くの方々にお集まりいただきありがとうございます。
後を継いでくれることは、親としてもとてもうれしく思っておりますが、あとは早いこと所帯を持ってほしいと思っております。」
また笑い声が上がり、ラルフさんは赤くなってた。
「みなさんのこれからに幸多きことを願いまして、乾杯させていただきます。
乾杯っ!」
2度目の乾杯も、すごく盛り上がってみんな楽しそうだった。
長く続いたパーティーが終わってしまうと、食堂はいつもと同じように静かになった。
今は、フェリックスさんたちと、マリーさんとクルトさんとあたししかいない。
片付けも終わって、ゆっくりお茶してるところなんだ。
「みんな、今日は本当にありがとう。正直こんなに大きなものになってるなんてびっくりしたよ。」
ラルフさんが、ちょっと照れくさそうにフェリックスさんたちに話してる。
「マリーさんもクルトさんも、こんな無茶を聞いてくれてありがとうございます。」
「まぁ、かわいい後輩のためだしね。」
「うちもお世話になってるんだし、持ちつ持たれつだよ。」
頭を下げるラルフさんに、マリーさんもクルトさんも笑って答えてる。
「それから、ミアちゃんも本当にお疲れさま。ありがとう。」
「あ、あたしも楽しかったです!」
ラルフさん、あたしにまでお辞儀してくれてびっくりした。
でも、ほんとに楽しいパーティーだなってすっごい感じた。
みんながとっても楽しそうで、たくさんの楽しいが集まって、何倍も何倍も楽しい雰囲気になってた。
そして、今もまだその楽しいが残ってる気がする…
今日のお茶会は、いつもよりちょっと賑やかで、いつもよりだいぶ遅くまで続きそう、かな♪
いつもよりちょっと長めになりました。
でもいつもが短いからそんなに変ったように感じないでしょうか…