108 一夜が明けて
昨日の夜は、近くの大工さんに来てもらって、宿の壊れ具合を確かめてもらったんだけど、目立つ被害は食堂の壁くらいで、建物自体に問題はないことがわかったから、とりあえずみんなに休んでもらうことになった。
建物が崩れる危険とかがあると、泊ってもらうわけにいかないもんね。
白枝亭の付近は、(あんなすごい戦いがあったのに)割と被害が少なかったみたい。
大工さんのお話では、大きな通りや、広場に面した建物が結構被害を受けたって言ってた。
それと、アリサさんが念のためってことで、マリーさんに付き添ってくれるって申し出てくれてた。
今朝は、何だかいつもと同じような朝。
いつも通りに目が覚めて、いつも通りに着替えて、部屋を出ようとすると、ミディアドーレが扉の前で座ってた。
「ミディ、おはよう。」
(おはようございます。)
ミディアドーレともっと仲良くなりたいって思って、昨日の晩寝る前に愛称で呼びたいって言ったら、普段はそれで構わないってことだったから、こんな風に呼ぶことにしたんだ。
そしたら、記憶を封じられる前のあたしも、同じようにミディって呼んでたみたいで、ちょっと驚いてた。
とりあえず普段から鎌のままだと目立つしおっきいから不便だろうってことで、ネコの姿でいてもらうことになったんだ。
「じゃ、行こ。」
扉を開けて部屋から出ると、ミディアドーレもてこてことついてくる。
食堂に降りると、いつもよりもちょっと寒い。
応急修理してもらったけど、完全にはふさがってないってことだったから、風が入ってきたりするのかなあ?
いつもならここであいさつしてるはずだけど、今日は誰もいないからそのまま厨房に行く。
「クルトさん、おはよーございます。」
「ああ、おはよう、ミア。
しっかり眠れたかい?」
「うん、ちゃんと眠れたよ。」
「そうか、それならよかった。」
昨日はほんとにベッドに入ったあとの記憶がないくらいぐっすりだったもんね。
クルトさんは、ちょっとお疲れ気味かな?
たぶん、アリサさんと一緒にマリーさんを看てたんだと思うけど。
今日は手伝えること、いっぱいがんばらなきゃね。
「さて、まずはみんなの分の朝食を準備してしまおう。
食堂の方は1人でいけるかい?」
「うん、任せてー!」
食堂の掃除をした後、ミディアドーレはそのまま食堂の隅っこで丸くなってた。
あたしは厨房に戻ってクルトさんの調理をお手伝い。
しばらくすると、食堂の方から声が聞こえてきた。
みんな起きてきたっぽいね。
「ミア、もうすぐ準備できるからって伝えてきてくれるかな。」
「はーい。」
食堂に向かうと、アリサさんとエステルさん以外の人がそろってた。
アリサさんは、マリーさんについてるとして…エステルさんはどうしたんだろ?
「あの、朝ごはんもうすぐできますので、お掛けになってお待ちください。」
あたしの声に、みんながそれぞれ座っていく。
んー…エステルさん、お疲れなのかな?
そう思って、階段の方に目を向けたけど、降りてくる気配はない。
「ミアちゃん、エステル、お寝坊だからいいわ。
何度か起こしたんだけどね…
食事の準備ができるくらいにはきっと降りてくるから。」
そういうレイアさんに、フィランダーさん以下、グループの人たちがうんうんとうなずく。
一度や二度のことじゃないみたいだね…
厨房に戻ると、クルトさんが盛りつけに入ってた。
昨日から材料になるものは変わってないはずなのに、いろいろできるんだ…さすがクルトさん。
大きなパンは昨日食べちゃったから、薄焼きパン。
厚切りのベーコンに、お芋のお団子入りスープ、お豆のサラダ。
今日もとってもおいしそう。
「ミア、できた分から運んでいって。」
「はーい。」
さすがに一度に全部運べないから、盛りつけの終わった分からどんどん運んで行く。
最後のプレートを運んで行ったとき、2階からエステルさんが降りてきた。
まだ寝巻っぽいけど…
「おなかすいたぁー…
どーして起こしてくれなかったのよぅ…」
「ちゃんと起こしたけど、エステルが起きなかったんじゃない。」
「ぶー…」
「ちゃんとご飯はあるから、着替えてらっしゃい。」
「はーい。」
レイアさんの慣れた対応、フィランダーさんたちの動じない姿…
固まってるフェリックスさんたち…
うん、何かエステルさんの知っちゃいけないとこを知っちゃったかもしれない。
あたしも今日はみんなと一緒に食べることになったから、最後に自分の分を持ってきて座る。
もちろんミディアドーレの分も。
ほんとは食べなくてもだいじょぶみたいだけど、食べた方が何となく調子がいいんだって。
クルトさんは、マリーさんとアリサさんの分を用意して、こっちはこっちで食べてるよって言ってたし。
ほどなくしてエステルさんもちゃんと着替えて降りてきて食事に加わる。
みんながそろったところで、フェリックスさんが口を開いた。
「とりあえず、俺はこの後ギルドに報告に行くけど…みんなはどうする?」
「俺も同行させてもらっていいか?
国の方に連絡も入れておきたいし。」
「ああ、構わない。」
「それなら僕もご一緒させてください。」
フィランダーさんとクレメンテさんも冒険者ギルドに用事があるみたい。
次に口を開いたのはエリカさんだった。
「私は…街の片付けの…お手伝い。
魔法が役立つこと…あると思うし。」
「自分もエリカさんと同じっす。」
「ん、了解。
俺も報告終わったらそっちに合流するわ。」
エリカさんとレックスさんはお片付けっか。
あたしも一緒に行こうかな…
あ、でも…宿の方も大変だよね。
何て考えてたら、レイアさんに声を掛けられた。
「ミアちゃん…昨日魔法士ギルドにいってましたよね?
わたしも昨日行ってたんですけど、追加で相談したいこともできたので、よかったらご一緒してくださいませんか?」
「ふぇ…
あ、えとクルトさんに確認してみます。」
「すみません、そうですよね。
もしお時間が許すようなら…で結構ですので…」
申し訳なさそうなレイアさんを見てると、何だかあたしも申し訳ないって思っちゃう。
後でクルトさんに聞いてみよう。
ちょっとくらいならだいじょぶだよね…
「ミアちゃんが無理でも、わたしがついていってあげるから。
もう1人暇そうな子もいるしね。
ね、エミーって痛いっ!何で叩くのよぅ…」
エミーって呼ばれた瞬間に、エステルさんの後頭部にエメットさんのげんこつが…
でも、手加減してるね。
エステルさん、泣きまねしてるけど、そんなに痛くはなさそう、かな?
「じゃ、今日もまだごたごたするだろうけど、お互い何かわかったらまた報告でよろしく。」
というフェリックスさんの一言で締められた。
食後のお茶を準備している間に、レイアさんとエリカさんが食器を運んでくれてた。
洗うのまで手伝ってくれそうな勢いだったけど、お客様にさせるわけにはいかないから、お茶を準備して一緒に食堂に戻ってもらう。
みんなにお茶を注いで回って、そのままあたしは厨房に戻ってお片付け。
いつの間にかミディアドーレも厨房の隅っこに座ってた。
お茶で一服したら、みんなそれぞれ今日の活動開始だね!