100 そのとき…
「ふぉっ?!」
声を上げたのはオーウェルさんだった。
目を開くと、光は消えてる。
でも、何も思い出せてないよね…
「ギルド長!
大丈夫ですか?」
「あ、ああ…
とんでもない反動じゃ…危うくやられるところじゃったわい…」
「すぐに治療します。」
「すまぬがよろしく頼むよ…」
ジョルジュさんがオーウェルさんの手のひらを看てる。
その手は火傷してるみたいになってた…
一体何があったの…?
ジョルジュさんが魔法を使ってオーウェルさんの手のひらの火傷を治していく。
あたしはただその様子をぼーっと見てた。
「ミアちゃんー…大丈夫ですかー?」
「ふぇ?…あ、はい…」
いつの間にか近くにきてたアリサさんがあたしの前にしゃがんで声を掛けてくれた。
アリサさんが立って手を差し出してくれたから、その手につかまって立ちあがる。
「いやはや…とんでもない魔法でもかかっておるのかの…
ワシも久々にびっくりしたわい…
ミアさんは大丈夫かな?」
「はい、だいじょぶです。
えっと…どうなったんですか?」
「うむ、どうも記憶にかかっている封印か呪いか、まあそう言ったものが非常に強いものみたいじゃな。
ワシ程度の腕ではどうにもならんようじゃ。
力になれんですまんのう…」
オーウェルさんはこんな風に言ってくれたけど、ちょっとほっとしてるとこもある。
んー、ワシ程度…って、オーウェルさん、ギルド長っていうくらいだから、すごいんだよね、きっと。
いったいあたしの記憶にどんな秘密があるっていうんだろ?
うーん…わかんなすぎる…
あっ!そんなことより、オーウェルさんの火傷…
「オーウェルさんはだいじょぶですか?」
「ああ、ジョルジュが治してくれたから問題ないわい。
無理やり魔法を解こうとすると、その強さに応じた反動があるものじゃが…とびきりの反動じゃな。」
「すみません…」
「いや、ワシが無理やり頼んだことなんじゃから、気にせんでほしい…と言っても気にはなるかの…
まあ大丈夫じゃ、杖がほとんど受けてくれたからの。」
杖…あれ、そういえばオーウェルさんの杖はどこに?
改めて見回してみると、さっきオーウェルさんが立ってたあたりに何か青や緑や黄色の破片みたいなものが落ちてる…
もしかしてあれ、杖…だったものかな…?
「さて…ジョルジュ、導師召集の連絡じゃ。
一応話はしておかねばならんからの。」
「ギルド長、一応などという言い方は…」
「ほほ、まあかたいことを言うでない。」
少し困った顔でそう言って、ジョルジュさんは部屋を出ていった。
ジョルジュさんを見送ったオーウェルさんは、あたしたちの方に向き直った。
「アリサや、お主はミアさんを送ってやりなさい。
あと、[根源たる色彩]の契約者たちにも一応忠告をしておいてくれるかの…」
「はいー?忠告ですかー?」
「うむ、赤の契約者に伝えたんじゃが、6つそろえば門をも封じる力があると伝えられておるから、2つでも合わせることで封印の力を強めあうことができるのかもしれん、という話をしたのじゃが…
2つが同じ場にあることでどうなるかは、ワシらは何も知らんのじゃ。
安易に合わせることは控えた方がええかもしれん…
今のようなことが起こらぬとは限らんからの。」
んー、そっか…
何が起こるかなんてみんなわかんないんだね。
でも、何も起こらなければ一番いいんだけどね…
「わかりましたー。」
「それではミアさんや、またいろいろとお話を聞かせてもらいたいんじゃが、よいかの?」
「ふぇ?は、はい…宿が忙しくないときなら…」
「ほほ、働き者じゃの。
受付には話を通しておくから、またいつでも来るとよい。
それでは、今はここまでにしようかの。」
オーウェルさんについて部屋を出たところで、もう一度向き直る。
アリサさんがお辞儀したからあたしもならってお辞儀した。
「ギルド長ー、ありがとうございましたー。」
「あ、ありがとうございました。」
「いやいや、こちらこそありがとう。
気をつけて帰るんじゃぞ。」
オーウェルさんに見送られて、最初についた白い部屋に戻る。
今度も一緒かな?
部屋の模様の真ん中に立つと、アリサさんが笑顔でうなずく。
合ってるみたいだね。
アリサさんと手をつないで目をつむって待ってると、アリサさんの声が聞こえた。
「〈入口へ我らを導け〉」
来たときと同じように、体が一瞬ふわっとした。
目を開けると白かった壁が灰色になってる。
戻ってきたみたいだね。
部屋を出ると、ちゃんと受付がある。
受付のお兄さんにあいさつをしてギルドを出ると、空がちょっと曇ってきてた。
「あらー…何だかー、雨にー、なりそうですねー。」
「ほんとだ…ちょっと急いで戻りましょう。」
「そうですねー。」
何だかあんまり急いでる感じがしないけど、とにかくちょっと急いで宿への道を歩きはじめたとき、何かを感じた。
強い力を…でもマナとはちょっと違う、何て言ったらいいんだろ…
「ミアちゃんー?
どうかしましたかー?」
「あ…今何かおっきな力を感じたんです…」
「力ー…ですかー?
わたしにはー、わからなかったですがー…」
「えっと、どう言ったら…
あ!アリサさんあっち!」
あたしが指さした方で、赤と白の光の柱のようなものが立ってる。
アリサさんもそれを見て驚いてる。
光の柱はすぐに消えてしまったけど、あれは…白枝亭の方?!
「アリサさん、行きましょう!」
「はいー!」
あたしたちは走り出した。
でも、宿まではそんなに近くないから、全力で走るときっと持たないから、少し急いで小走り。
細い道を行くと危ないから、大きめの道を進むことにした。
広場に出たとき、あたしはまた強い力…ううん、気配を感じた。
それはさっきとは全然違う、とっても嫌な感じ…
「ア、アリサさんっ…」
「ミアちゃんー…ちょっとー、休みましょうー。
顔がー、真っ青ですよー…」
アリサさんが心配して止まってくれる。
感じる気配はどんどん強くなっていく…それに、とっても数が多い気がする…
「どうしたのですかー?」
「体は…だいじょぶです…
何かとっても嫌な感じが…たくさんの…悪意…?」
「悪意ー…?
わたしにはー、よくー、わかりませんけどー…」
嫌な気配に押しつぶされる気がして、あたしはその場にしゃがんでしまう。
アリサさんが肩を抱いてくれてるけど、震えが止まらない…
「熱はー、ないようですねー。
困りましたー…おんぶしましょうかー?」
「だ、だいじょぶです…
でも…もう来ます…」
「来ますってー…いったい何がー…」
そこで、アリサさんの言葉も詰まった。
聞こえるの…キイキイとうるさい声が…
「ミアちゃんがー、感じてたのはー、この悪魔のー…
街にー、こんなにもー、来るなんてー…
仕方ありませんー、魔法をー、かけるのでー、受け入れてー、くださいねー。
〈その心に光を、その心に力を、優しい光よ、励みとなれ《鼓舞》〉」
魔法がかかると、少し気持ちが楽になった。
悪意は消えてないけど、押しつぶされることはない。
「ありがとです。」
「さあー、いそぎましょうー。」
空には小さな不気味な姿の悪魔たちがたくさん飛びまわってる。
遠くの方で降りていく姿も見える…
急がなきゃ!