99 2回目のチャレンジ
アリサさんとジョルジュさんと3人で、一度転送陣のあった部屋まで戻って、今度は別の扉の方へ。
そこには『ギルド長室』って書かれたプレートが付いてた。
ジョルジュさんが扉を開けると、また廊下が続いてる。
けど、今度はさっきのとこより短くて、扉も左右に1つずつと正面に1つしかない。
ジョルジュさんはそのまま正面の扉の方へ歩いていった。
あたしもアリサさんと一緒に後についてく。
扉の前で、ふう、と一息ついて、ジョルジュさんがノックした。
「ジョルジュです。」
「入りなさい。」
中から返事が返ってきて、ジョルジュさんが扉を開ける。
ジョルジュさんがいた部屋よりもちょっとおっきいね。
応接間みたいになってて、豪華そうなソファーとテーブルがある。
その奥にはやっぱり大きな机があって、本や置物が乗っていた。
「失礼します。」
「失礼しますー。」
「あ、し、失礼します。」
ジョルジュさんが最初に入って、アリサさんが続いて、あたしが最後に入った。
中にいたのは、ジョルジュさんよりも年上の、おじいさんって言ってもいいくらいの人だった。
でも、背筋はピンと伸びてて、動きもきびきびしてる。
「ふむ、アリサと…そちらの方は?」
「アリサがよく世話になっている宿の方です。」
おじいさんがあたしの方を見て、ジョルジュさんが説明してくれた。
そして前を開けてくれる。
「白枝亭でお手伝いしているミアです。」
「ようこそ魔法士ギルドへ。
ワシはタレイアのギルド長を務めておるオーウェルじゃ。
まあ、座るとええ。」
オーウェルさんに促されて、ソファーに座ると、オーウェルさんは机の上の置物を取り上げて何かつぶやいてる。
そして、すぐに置物を元に戻して、あたしたちの向かい側のソファーに座った。
「さて、急にどうしたんじゃ?」
「ギルド長、[根源たる色彩]のことですが…」
「ああ、あとで招集をかけるつもりじゃったが…
赤…[揺らめく赤]と銘打たれておったな…本物に間違いないよ。」
「いえ、そこではなく…
午前中にいらっしゃった方からどのような報告をお受けになられましたか?」
ジョルジュさんが詰め寄るような感じで尋ねたのを、手で制してるオーウェルさん。
何だかジョルジュさんの焦りみたいなのが気になるよ…
そのとき、扉がノックされる音がした。
「入りなさい。」
「失礼します。」
入ってきたのは、お姉さん。
持っているトレーにカップが乗ってる。
そのカップをテキパキとみんなの前に置いていく。
中身は…お茶かな?
いつもあたしが飲んでるのとはちょっと香りが違うけど…
「失礼しました。」
「ああ、ご苦労じゃった。」
カップを配るとすぐにお姉さんは出ていってしまった。
オーウェルさんはお茶を少しすすって、またこっちに向きなった。
「さて、報告の内容じゃが…
アンフィトからの冒険者グループで、向こうで封印を解くための情報を手に入れたと言っておったな。
情報は正しかったようで、問題なく封印を解いて持ちだしたが使い方がさっぱりであったと。
それが、白の元所有者に話を聞いて、契約まですませたということじゃったな。」
「なるほど…
契約に関しては詳しい話は?」
「最初に別の者が契約をしてしまって、引継ぎを行ったそうじゃな。
追って詳しく報告するとのことじゃったが…」
あれ…っていうことは、もしかしてあたしたちが詳しく報告することになるのかな…?
って言っても、あたしはよくわかってないんだけどな…
「そうですか…ではアリサ、報告を頼む。」
「はいー、わたしもー、聞いただけですがー。
実はー、[揺らめく赤]をー、ここにいるー、ミアちゃんがー、持っただけでー、契約がー、なされてしまったとー、いうことですー。」
「ふむふむ…
…ん?
……何じゃと?!」
ひうっ!
オーウェルさん、急におっきな声出すんだもん…
びっくりした…
「ですからー、ミアちゃんがー、[揺らめく赤]をー…」
「アリサ、もういい。」
「はいー…?」
固まってるオーウェルさんに、話を続けるアリサさん、それを止めるジョルジュさん…
ああ、何だか分んなくなってきた…
「ギルド長、大丈夫ですか?」
「…
……あ、ああ、すまぬ。
しかし…ミアさんじゃったな…お主、魔法士か?」
「え、いえ…あの…白色魔法が使えます。」
「むう…白か…ますますわからんのう…」
「どういうことですかー?」
アリサさんもよくわかってないみたい…それじゃあたしにわかるわけないよね。
何かちょっとだけほっとした…
何か考え込んだままのオーウェルさんに代わって、ジョルジュさんがアリサさんに答えてくれた。
「そうだな…遺跡などでも発見される武具や道具の中には、それ自身に封印が施されているものもある。
現在確認されている[無垢なる白]、[高鳴る黄]についても、同じような封印が施されていたということなので、他の[根源たる色彩]も同じような封印が施されていると考えてまず間違いないんだ。
現に、[揺らめく赤]も最初何も反応していなかったようだからね。」
「でもー、封印を解いてー、[揺らめく赤]をー、手に入れたのではー、ないのですかー?」
「おそらく、彼らのといた封印は、[揺らめく赤]自体の封印ではなく、[揺らめく赤]が置いてあった場所の封印だったのだろう。
[根源たる色彩]は、かつての封印に用いられた後、6色の光となって世界へ散らばったと伝えられているが…誰が何のために封印したかはわかっていない。」
とにかくあたしがさわっただけで封印が解けちゃったことは、やっぱり変、みたいだよね…
そのとき、ようやく考え込んでいたオーウェルさんが復活したみたい。
「封印を破るには、青と緑の力を使わねばならぬが、ミアさんは白色の使い手ということじゃったな。
何か大きな力に係ったりしたことはないじゃろうか?」
「えと…わかんないんです。」
「わからぬとは?」
「あう…」
「ギルド長ー、ミアちゃんはー、記憶喪失なんですー。
前にー、わたしがー、調べたときはー、封印かー、呪いのようなものをー、感じたのですがー…」
どう説明しようかって思ってたら、アリサさんが代わりに説明してくれた。
正直、どういう風に伝えればいいのかがぜんぜんわかんないもん…
「ふむ、その失った記憶の中にもしかしたら手がかりがあるやもしれぬが…」
「ギルド長なら封印を破ることもできるのでは?」
「まあ、やってみなければわからんが…その前にミアさん本人の意思じゃな。
ただ事が事なもんでな…最近の悪魔族に関する報告を聞いていると、ただ事ではなさそうじゃし、[根源たる色彩]に係ることとなれば、悪魔族の封印にも係ってくる。
そうなると、できれば協力を願いたいところじゃが…」
オーウェルさんとジョルジュさんがそろってあたしを見る。
もし、これで記憶が戻ったらどうなるんだろう…
今のままじゃいられなくなるのかな…でも思い出さなきゃいけないことがもしかしたらあるかもしれないんだよね…
「ミアちゃんー…マリーさんたちにー、一度相談してみますかー?」
「ん…ううん、いい、あたし、やってもらおうと思います。」
「いいんですかー?」
「うん、もしかして、わかることがあるなら、きっとその方がいいと思うし、マリーさんもクルトさんも、きっとそうした方がいいって言ってくれると思うから。」
きっとそうだよね。
悪魔を何とかできるかもしれないなら、きっとみんなそうした方がいいっていうはず。
あたしはオーウェルさんの方を向いてお辞儀した。
「よろしくお願いします。」
「いや、ワシが無理やり頼んだようなもんじゃ、ありがとう。
すまんがすぐにでもかかりたい。
こちらへ来てくれるかの?」
オーウェルさんは、部屋の奥にあった立派な杖を持って部屋を出ていく。
あたしもオーウェルさんに続いて部屋を出てると、オーウェルさんが廊下の左側の扉の前で立ち止まった。
もちろん、アリサさんとジョルジュさんも一緒に来てくれてる。
オーウェルさんが部屋の扉に手をかざして念じると、扉は勝手に開いちゃった。
部屋の中に入ると、そこは床に複雑な模様が描かれていた。
来るときに使った転送陣と似てるかな?
「そこに座るのじゃ。
気持ちを楽に、ワシの魔法を受け入れるようにしていれば問題ない。」
「はい。」
オーウェルさんに言われた通り、模様の真ん中に座って、気持ちを落ち着かせるために目をつむった。
息をおっきく吸って、ふーっとはき出す。
うん、だいじょぶ。
目を開けると、オーウェルさんが両手で杖を持って集中してる。
「では始めるとしようかの。
………なるほど、封印とも呪いともつかない、変わったものじゃ。」
そいえば、封印と呪いってどう違うんだろう?
ふとそんなことを考えてしまったけど…
「〈彼のものにかけられし縛めを解き放ち、彼のものを自由にせんと欲す…《魔封解放》」
オーウェルさんの持っている杖が緑と青の光に包まれ、床の模様も同じ色の光を放ちはじめる。
そして、その光がどんどん強くなっていって、あたしは思わず目をつむった…