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弾丸と幻想郷  作者: 紀璃人
傭兵と終りなき終焉
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第八十二章 傭兵と風祝の引き金

―迷いの竹林・道中―


 早苗はにとりから受け取った位置情報を頼りに竹林を駆け抜けていた。が、急ごうとすればするほど進行方向に竹やウサギが現れ、上手く進めないでいた。前方にすきまを見つけ、飛びこんでいくとウサギが横から飛び出してきた。反射的に右手を払って吹きとばした。機関銃は使い過ぎによるオーバーヒートを起こして使いものにならなくなってしまった。ガトリングも同様である。レールガンは複数を相手取るには不向きなため、直接殴り飛ばす事にしていた。暫くすると日が落ちて周囲が薄暗くなり始めた。悪くなり始めた視界に顔をしかめ、暗視補正のスイッチを入れると、突如視界上にウィンドウが展開され、椛の姿が映し出された。

[早苗さん!急いでください!]

『わぁかってますよ!』

 早苗は言葉を返すと同時に竹に蹴りを入れてしならせる事で道を開いていく。椛のいる物見やぐらの方でも戦闘が始まっているのか、彼女の顔には返り血が張り付いていた。

[こちらでも戦闘が激化してきているのでこれ以上状況を伝える事が出来なくなります。ただ、シュウさんがかなり追い詰められ始めています!それでは、私も出撃しますので!]

 そう言うと回線が切られ、ウィンドウが消えた。それを見て早苗は一人ごちた。

(早く出来るものならしてるってば…)

 ふと目線をあげると視界の先にはウサギ達がスクラムを組むようにたちはだかっていた。その背後では竜巻が炎を巻き上げていた。その所為で燃えた木々が飛来している。ウサギ達は一斉に攻撃を開始した。これまでの比にならないほどの弾幕が行く手を阻む。この状態では前に進む事は困難であり、機体も無傷ではすまないだろう。早苗は面倒に思う反面、燃え上がるものを自分の中に感じた。やってやろうじゃないか、と。

『止まってらんないんですよ。だから、私の邪魔を、するなあぁぁ!!』

 早苗は叫ぶとスーツの出力上限を解除して一気に速度を上げた。同時に防御障壁を目の前に展開して突き進んでいく。出力過剰による警告がいくつも展開されていくが無視して突き進んでいく。行く手を阻む竹はへし折り、ウサギは轢き、木片や弾幕は弾いて絶叫と共に猛然と駆け抜ける。途中でいくつかの弾幕が障壁を潜り抜けてスーツに着弾する。そのたびに視界は揺れ、衝撃が身体に伝わる。それはまるでこれ以上進む事を拒まれている様で、それゆえに早苗は意地を張る様に出力を上げた。途中ウサギの頭が激突し、ゴーグル部分にひびが入った。視界がさらに狭まる。

『やああああぁぁぁぁぁぁ!!!』

 しばらくそうしていると竹林を抜け、開けたところに飛び出した。出力を切り、地面に足を突き立てて停止する。早苗は爽快な気分で晴々と空を仰いだ。

(どんなもんですか!この程度で私を止められるとでも!)

 すると視線の先では上空でシュウが藍に捕えられていた。藍がシュウの喉元にゆっくりと手を伸ばしていく。

(え?あれって、拙くない…?)

 晴々とした気分は一瞬で消えさり、頭のなかを焦燥感が支配する。助けに行こうとして、目の前が警告ウィンドウでいっぱいになった。


[駆動部システムダウン]

[脚部エネルギー残量0%]

[機体損壊度95%]

[飛行システム損壊率100%]

[ライフセービングシステム異常発生]

[左半身制御システム反応なし]


 次々と警告文が現れ、スーツの出力が落ち、身体が強く圧迫される。圧迫された部分は重力に磔にされた様に動かなくなっていく。つまり長時間の戦闘に加え、先ほどの出力過剰によってスーツが半壊したのである。動かせるのは首と右腕だけだった。

(どうしよう…。動くのは首と右腕。シュウさんがやられるのを見てろと?)

 そこまで考えたところである事が思い浮かんだ。咄嗟にそれが実行可能か確認をとる。電力は充分。「実行可能」。早苗はその一言だけを見ると右手を降りあげ、”レールガンを展開した”。そしてありったけの電力をつぎ込み、シュウを手に掛けようとする藍に照準を合わせた。OSを動かす電力までもそちらにつぎ込む。OSが落ちたことで全身が圧迫、固定されて身体はビクともしなくなった。

(動かない…でも、これで好都合!狙いはぶれない!)

 早苗は全電力の充填が完了したと思われる頃を見計らって引き金を引いた。直後、早苗の身体をもの凄い反動が襲い、頭が激しく揺さぶられた。完全に動かなくなったスーツの限られた視界のなかに”右腕の無い藍の姿”がうつった。

(中心をはずした…?もう、駄目。助けに行く事も、動かすことも出来ない…)

 早苗を大きな絶望が襲う。すると耳元でバチィッっと電気の爆ぜる音がした。早苗の背中を嫌な汗が伝う。その音は次第に回数を増やし、ついに早苗の身体に電流が走った。決して長くはなかったが、意識を刈り取るには充分だった。早苗は薄れゆく意識の中で、白銀の輝きが伸びるのを見た気がした。


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