第八十章 傭兵と妖孤Ⅲ
―永遠亭上空―
「…さて、こうして叩き落とした訳だが、この程度では済むと思えないな。にしては何の反応もないし、もしかして倒したのか?」
シュウは上空で永遠亭の残骸を見下ろし、一人考え込んでいた。はたして倒したのかどうか。そうしていると遠くから地響きのようなものが上空にまで届いた。振り向くと巨大な萃香が暴れている様だ。
「どうやらウサギたちはまだいるようだな。ちょっくら狩りにいきますか」
シュウは考える事を止め、ひとまずウサギ兵士を狩ろうと地表に向けて降下を始めた。その時になってシュウはようやく異変に気が付いた。
「…なんだこの妖力は?」
そう一人呟いた直後、周囲の木々がざあぁっと音をたてた。永遠亭の方を注視すると、藍の姿がなかった。
(しまった、やはり仕留め損ねていたか。ここで動揺を見せるのは得策じゃない…。まずは周囲の状況の確認だ)
周囲に満遍なく気を配る。そうして暫くの時間が過ぎた時、再び風が吹いた。今度は妖力の乗った風だ。シュウは風の来た方向を振り返り、直後背後に大きなチカラを感じた。
「ッ!?」
咄嗟に上空に避難する。すると先ほどまでシュウがいた空間で数十もの木片が衝突しあっていた。
「流石にこれはよけるか。まぁ、その程度の歯ごたえがなければ面白くもない!」
永遠亭の方から藍の声がしたかと思うと永遠亭は残っていた部分が一斉にバラけ、大量の木片へと化していた。それらの木片は皆一様にシュウの方に切っ先を向けており、その中心には藍がこちらを見据えていた。
「あぁ、そうかい。殺し合いを楽しめってか?」
「これほどの力ある者との戦いは久方ぶりなものでな。愉しまずにはおれないんだ。それは同じだろう?」
藍の問いかけにシュウは自らの血が沸くのを感じ取った。戦闘狂、と言う単語が脳裏をかすめる。
「そう、かもな」
「だったらとことん愉しむのが筋だろう?」
「生憎、遊びじゃないんでな」
シュウは口ではそう言いつつも口角が上がっていた。かつて戦場に居た頃の感覚がよみがえってくる。
「そうかい。それでは、こっちは愉しませて貰うさ」
藍はそう言うとシュウを指差して叫んだ。
「さぁ!宴の始まりだ!」
藍の傍に控えていた木片が散り散りに展開し、シュウを取り囲んだ。それらはある程度の塊を形成しつつ、ランダムにシュウを貫かんと攻撃を仕掛けてきた。必ず木片はシュウの死角から飛来するようだ。
(ちっ。かわせない事はないが、これではキリがない。少しずつ数を減らすべき、だな)
シュウはそう決心すると木片を一つ手で受け止めると同時に木片をチカラに分解した――ハズだった。
―ガッ―
「!?」
直後、シュウの身体を衝撃が襲った。確かに木片は分解されて姿を消したハズなのに消えた木片に被弾したのだ。木片についていた式がそのまま妖力弾となって直撃した為だ。その所為でシュウは体勢を崩し、その間に別の木片がシュウの太ももをかすめ、皮膚を浅くさいた。シュウは吹き出す鮮血に顔を顰めつつも上空に退避していく。しかしその先には藍が待ち構えていた。
「シュウよ!さぁ来い!」
藍は左手に妖力を充満させつつ叫ぶ。体勢を崩し、ロクに身構えていないシュウは正面からぶつかっては勝ち目がないだろう。しかしシュウは右手を引き絞ると藍に向かっていった。そして両者が拳を振るう。拳と拳がぶつかる寸前、シュウは人差し指と親指を伸ばして藍の拳を指差しつつ、左手に隠していたスペルカードを発動した。
狙撃「スナイプ・バレット」
藍の表情が驚愕に染まる。藍の拳を差している指の先端から亜音速で銃弾が飛び出し、それは藍の拳と正面からぶつかり、貫いた。しかし、藍は咄嗟に軌道をずらした。そのため、拳を貫通した弾丸は腕を通らず、手の甲から飛び出して空に消えていった。もちろん軌道をずらしたため、その拳はシュウを捉えずにシュウを追ってきた木片の一つを砕くに終わった。予想外の展開に体勢を崩す藍。シュウはその背後に回って木片をやり過ごしつつ、距離を取って体勢を立て直した。
そうして永遠亭上空にて二人は再び対面することとなった。但し、今度は互いに鮮血を滴らせ、歪んだ笑みを顔に張りつけながら―。
ついに八十章ですか。ながかったですね、ふりかえると。
まぁ、終わってないですが。
なんか気が付くとここ最近日付の一の位が0の日に更新してますね。
次回は二十日までに上げられればと。
(あくまで目安ですので)