第七十九章 傭兵と集う少女
「恨むなよ?だってこれは『弾幕勝負じゃない』からな。そうだろ?」
藍の頭上からそんなシュウの声が降ってきていた。藍は背中に刺さった木片による激痛に顔をしかめながらシュウの様子をうかがう。するとシュウは辺りを見回しており、こちらに気が付いている様子はなかった。
「この程度では沈まぬと言ったのが分からないのか…っ!随分とナメてくれるな」
そう言うと藍は背中の木片を抜き取り周囲に散らばる木片に式を打っていった。
[Warning]
スーツ内蔵の機関銃でウサギ兵士を狩っていた早苗のディスプレイに警告が表示された。それと同時にウィンドウが二つ展開される。一つはにとり、もうひとつは椛である。
[早苗!そっちに異常な妖力を観測したよ!注意しておくれ!]
[早苗さん、シュウさんの下で偽物の妖孤が不穏な動きを見せています!注意を促してください!]
早苗はその二つの情報が異なる事を差しているとは思えず、嫌な予感が脳裏をかすめて顔をしかめた。そのためさらなる情報を求める事にした。
『了解、にとりは観測地点の座標を頂戴。それで椛、不穏な動きって?』
[何やら永遠亭の残骸と思われる木片に妖力を流しています…何をしているんでしょうか]
『…とりあえず現地に行くべきかな。椛はそのまま待機、なにかあったら教えて』
[はい、了解です]
[早苗!座標送信したよ!ちょっと離れてるから急いだ方がいいかも!]
『了解!二人とも、情報ありがと!後は何とかするからにとりは仕事に戻って!』
早苗は通信回線を切ると送られてきた座標目指してウサギを蹴散らし駆けて行った。
―迷いの竹林・入口付近―
白玉楼を飛び出した妖夢は迷いの竹林の入り口に差しかかっていた。その頃になると前方で戦闘が行われているのが視認できるようになっていた。少し離れたところからは銃声が響いており、目を向けると巨大化した萃香が楽しげに地団駄を踏んでいた。…おそらく足元は大惨事であろう。
「あややや?妖夢さんじゃありませんか」
「いつぞやのブン屋…?」
妖夢は今まさに飛び込んでいこうとしたところで文に声を掛けられた。文は扇から手帳に持ち替えるとにやりと笑った。ちなみにその間も周囲には風が吹き荒れており、ウサギ達が宙を舞っていた。
「はい、清く正しい射命丸です!…にしても何故貴女がここに?白玉楼の防衛に居るんじゃ?」
「私はシュウの傍に居ないといけない気がするんです!」
「こんなときでもお熱いですねー」
文は半分あきれ顔でそう言うと背後を指差した。
「シュウさんなら今頃永遠亭の内部で大暴れしてるんじゃないですかね?」
そこまで言ったところで木々をへし折る音とともに轟音が響いた。ふりむくと竹林の方に巨大な柱が立っていて、その上に二人の人影が確認できた。
「…シュウ」
「あれもシュウさんですか。相変わらず規格外ですねー…。さっきから爆発音やらレールガンの音やら…」
妖夢は話が長くなる予感がしたので強引に話の流れを切る事にした。
「私行きますので」
「そうですか。道中のウサギは斬っちゃってくださいね。際限なく湧いてくるんで。ただ、『二度と出られないかも知れなくてもいい者以外は入るな』っていう命令が天狗には降りてますから相当危険だと――」
「危険だろうと行きますよ」
妖夢はそう残すと竹林の中へと駆けて行った。その様子を見た文は手帳に何やら書き込むと扇に持ち替え、一人ごちた。
「走らずに飛べばすぐに着くんですがねぇ…」