第七十六章 傭兵と目的
―永遠亭・応接間前廊下―
『なんとか行ったかな…』
早苗はシュウが応接間に飛び込んでいくのを確認してホッとしていた。ウサギ少女たちはシュウの創り出した壁を突破しようと試みているようだった。
[enemy:出現]
唐突にオペレータがメッセージを展開した。早苗は再び気を引き締めてリロードを行う。そして直後、データ通りにウサギ達を従えててゐが現れた。その姿を見てから周囲に居た者達も早苗の方を向いて止まった。
『なんの用?』
「いたのかい…?私はてっきり二人で入って行ったものだと思ったんだけど」
てゐは計算が狂ったとても言いたげに頭を掻くと、早苗を見据えながら指示を飛ばし始めた。
「アイツが居なくなった以上は戦う意味はない。そこのロボットを足止めしながら進軍を始めるよ」
『進軍…?』
「答える義理はないね。さあ!お前たち!もうひと働きしてもらうよ!」
てゐの号令で一斉にウサギが散開し、一目散に外へと駆けだした。直後、てゐと周囲に残ったウサギが早苗に特攻を仕掛ける。
「ちょっとでも長く留めな!」
『話が見えないんだけど…。今は考えるのをじゃましないで!』
早苗は一番手前にいたウサギを殴り飛ばし、てゐ達に向かって内蔵のランチャーを放った。そして着弾と同時に屋根が吹き飛んだ。充満する煙に残ったウサギと危機を察知して下がったてゐの動きが止まる。それらをNVG(熱源可視化ゴーグル)で捕えた早苗が手早くしとめ、状況を確認すべく上空に向かった。すると先ほど飛び出したウサギ達が竹藪にまぎれて出ていくのが見えた。
『狙いは…外!?』
[call-Base-]
[聞こえるかい!?早苗!]
早苗がウサギの動向に気が付くと同時にオペレーション回線からにとりの声が聞こえた。
『にとり?どうして――』
[やっと繋がったよ。こっちとの連絡をつなぐようにってシュウに言われてね]
にとりの声には多少の疲れが滲んでいるようだった。
『そうなんだ…。そんなことより大変なの!』
[そっちの状況はOSから聞いてだいたいは分かってる。でもそんなに焦る様な事でもないでしょ?]
にとりのあくまで楽観的に思える発言に早苗は声を荒げた。
『何言ってんの!?ウサギの部隊が外に向かって進軍を始めたの!』
[その可能性もシュウから聞いてたから、迎撃準備は出来てるのさ。だからそっちでも足止めしとくれよ]
にとりの発言に早苗は絶句した。
『シュウさん…。どこまで見越してるんですか…』
[私らが聞いてるのは可能性の話だよ。それを危惧して動いてるのはこっち]
『………』
[とにかく、足止めと数減らし、頼んだよ]
にとりはそう残すと音声回線を切った。
『ったく…。にとりの自分勝手な所は変わってないんだから…』
早苗は一人ごちて視界にとらえたウサギ少女に照準を合わせ。そしてため息一つ、引き金を引いた――。
事態は大きく広がって行く…!?