第六十七章 傭兵と罠
シュウ達は永遠亭に到着した。門に鍵は掛っていない…かと思いきや、門の内側にへし折られた閂がが転がっていた。どうやら無理やりに開けたようだ。よく見ると扉に爪のあとの様な傷が残っていて、表札には銀のナイフが突き立てられている。屋敷の壁には切り裂かれた時につくような血しぶきが付いており、咲夜とレミリアがこの門を突破した事が分かる。…ただ、シュウや早苗が知っている咲夜はもっと温厚だった気がするが、ナイフなどの物証があるので中に居るのは確かなようだった。
「…かなり荒れてたみたいだな」
『本当に本人たちなんでしょうか?』
「ナイフの柄に刻印がしてある。これは紅魔館のもので、銀のナイフを使うのは咲夜だけだ」
『…。ここで話していても解決する訳ではありませんし、詳しくは本人に聞きましょう』
そうしてシュウと早苗は永遠亭の中に乗り込んだ。
―白玉楼―
「…遅いなぁ。シュウどうしたんだろ?」
妖夢は幽々子に報告を済ませ、二人で縁側に並んでシュウの帰りを待っていた。その表情は不満げで、さみしげだった。
『すみませーん』
門の方で声がしているが、幽々子に聞き覚えはなかった。妖夢はシュウが気がかりでならないのか、聞こえていないようだ。
「妖夢」
「へ…?あ、はい。なんですか?」
「さっきからお客さんが呼んでいるわ」
「すみません…。いま出てきます」
そう言って門に向かう背中は小さく見えた。
「あのー。いませんか?」
「すみません。遅れてしまって。…どちらさまで?」
妖夢が門の外に出ると小柄な赤い髪の少女が背中の羽をはばたかせて浮かんでいた。飛ばせたままと言うのもなんなので中に入ってもらい、屋敷に向かって歩きながら話を聞く。
「あ、私は紅魔館の図書館で司書手伝いをしている小悪魔です」
「はぁ。どんな御用で?」
「ちょっとある情報を集めてまして」
そう言って小悪魔は二枚の似顔絵を取り出した。そこには咲夜とレミリアが描かれている。
「この二人なんですけど、こっちのメイド服の人が十六夜咲夜さんで、こっちがレミリア=スカーレットさんなんですけど、見てないですか?昨日人里に居たところまでは確認出来てるんですが…」
「人里から先の消息がないと…?」
「はい」
小悪魔の耳と頭についている小さな羽がシュン…としおれた。
「私も人里までしか知りませんね…。それも直接見た訳じゃないですし」
「そうですか…」
ちょうどその時に白玉楼の屋敷についたので幽々子に紹介してから咲夜やレミリアについて質問するが結果は同じだった。
「…それで、皆目見当がつかないのかしら?」
「はい。今はパチュリー様が紅魔館に本部を構えて、美鈴さんと私が情報収集をしてますね。あと、シュウさんと早苗さんと言う方が永遠亭に調査に向かってくれています」
「シュウ…なんで私に一言もくれずにいっちゃったんだろう…」
「美鈴さんが屋台に情報集めの為に顔を出した時に西行寺さんを探しに来ていたシュウさんと、彼を探していた早苗さんに事情を説明して、その場の流れで行く事になった。と聞いてますが…」
妖夢は暫く考え込んでいたが、なにかを決心した様で幽々子に向き直った。
「幽々子様、私も永遠亭に―」
「駄目よ」
即答だった。妖夢にとってこれは意外だったようで目を丸くしている。
「な、何故ですか?」
「今の永遠亭は危険だわ」
「…なにか知っているのですね?」
幽々子は黙り込んでいたが、口外厳禁と言う条件で話し始めた。(ちなみに小悪魔は頑なに聞こうとしたがなんとか帰ってもらった)
「紫がね、帰ってきてないのよ。もうすぐ一カ月になるかしら、『最近永遠亭で結界の揺らぎが多くなっている』って言って式の藍をつれて永遠亭に行ったっきり。家を訪ねようとしたらマヨヒガもなくなってたわ。橙はついて行ってないはずなんだけど、彼女も見つからない。つまり今、八雲一家がいなくなっているの。それを聞いた霊夢は調査に行ったけど、彼女も行方不明。これがどれだけ異常な事態かわかるでしょう?」
「私がシュウを連れ戻しに行ってきます!」
「駄目と言ったでしょう」
「見捨てるんですか!」
そう言って妖夢は幽々子の胸倉をつかむ。従者としてあるまじき行為であったが本人にとってそんなことはどうでもよかった。
「相手が永遠亭にすむ月人だけとは限らないわ。それに目的も原因も分からない以上は冥界が狙われている可能性も考慮しておかなければならないわ。私たちには冥界を守る責任があるの。分かって」
「それでも見捨てる事なんて…」
「それに誰が見捨てるって言ったかしら?私はシュウなら帰ってくると信じて何もしないと判断したのだけど。妖夢はシュウが信じられない?シュウの強さは貴女が一番そばで見ているでしょう?」
「それは…そうですけど…ッ!」
二人の表情は苦しげで、複雑だった。
明日公開予定の次話の前後に以前の「真実 襲撃の因果」をよんでおくと今後の背景がわかりやすいかと。