第六十章 傭兵と魔法使いの絶望
パワードスーツの本領発揮!
『それではお二人とも、弾幕勝負をはじめましょうか』
早苗はそう言ってオペレータのスイッチを入れ、右腕を振った。すると腕の装甲から棒状のデバイスが飛び出してきて、それを正面に構えた。
そのデバイスは細長い円柱状で、機械仕掛けの白銀の魔法の杖、と言った印象を受ける。しかし先端には薄い板が付いており、その板には札と同じ印が刻印されている。にとりと神奈子曰く、「信仰の力を電子制御した結果」だそうだ。
アリスはその様子を見て魔理沙に忠告しようとした。
「魔理沙、相手がどういうものかが分からない以上、下手な手は打てな―」
「先手必勝、一撃必殺!と言う訳で私から行くぜ!」
「ちょっと、魔理沙!?」
が魔理沙は聞いておらず、早苗の斜め上に陣取るとスペカを発動した。
星符「ドラゴンメテオ」
魔理沙は上から押しつぶす様に極太レーザーを撃ちおろした。もし被弾してもけし飛ぶことはないだろうと思い
魔理沙は普段の様に絞る事をせず思いっきり撃った。しかし、レーザーを放ちながらも嫌な予感がしていた。直後、アリスの声が聞こえた。
「魔理沙!上!」
「上がどうしたっていうん…だ…。あぁ!?」
奇跡「白昼の客星」
魔理沙が上を向くと同時に強烈な光が降り注ぎ、軽く目を焼かれてしまった。そして見計らったかのように弾幕が滝の様に落ちてくる。魔理沙は視力が回復していないので見る事が出来ず、高度を下げながら箒の上で蹲るぐらいしか出来なかった。背中に大量の弾幕を浴びながら降下してきた魔理沙の前に早苗が現れた。装甲には煤一つついておらず、寧ろ淡い光を帯びている様に見えた。(魔理沙には見えていないが)
『魔理沙さん。そんなにゆっくり下りてくるなんて、狙ってくれと言っているよなものですよ?』
「ッ!?」
早苗は魔理沙の耳元でそう囁くと距離を取って、左腕の装甲を開けて、レールガンを展開した。と言っても、これは弾幕用ではない(威力が高すぎる)ので、絶対的に有利な状況から生まれた「威嚇射撃でビビらせてみよう」と言った一寸した悪戯心だったのだが、それを見たアリスは(表情が見えないので)本気だと勘違いした。魔理沙は八卦炉と箒をぎゅうと握りしめ、早苗が弾幕を放つ気配を感じてから逃げようとしていた。
『ふふふ…。魔理沙さん、絶体絶命ですね』
「魔理沙!危ない!」
戦符「リトルレギオン」
アリスはスペカを発動すると早苗に人形騎士を突撃させると同時に、魔理沙を回収するための手ぶらの人形を紛れ込ませた。早苗はアリスの事が頭から抜け落ちており、今から他の行動を取るには時間が足りないと判断した。そのためレールガンの弾倉に弾を多めに装填し、人形の迎撃に宛てた。
早苗が一度目の引き金を引く。すると同時に人形が爆散した。その後の空間には砕けた盾と柄だけの剣、微かな焦げた繊維しか残らなかった。早苗はその威力に驚くだけの余裕もなくリロードと迎撃を繰り返した。
アリスはその間に魔理沙を人形に連れてきてもらっていたが、レールガンの威力に戦慄していた。なぜならあの人形騎士に持たせている盾と剣と鎧は魔力強化を施したもので、並みの弾幕程度ならば防いだり切り伏せたり出来る仕様になっているはずだった。それがいとも簡単に壊れ、鎧に至っては跡かたもなくけし飛ぶなんて思いもよらなかったのだ。
だからアリスはこの光景を唖然として見る事しか出来なかった。
「アリス、あの音は何なんだぜ…?」
「……」
「アリス?」
読んでも反応しないアリスに魔理沙は若干回復し始めた目で訝しげに見つめた。
「え?あ、魔理沙。目は大丈夫かしら?」
「なんとか少しずつ回復してきたぜ。それよりアリス、ありゃどう言う状況だ?」
魔理沙は回復し始めた視界の中に、聞いた事のない音とともに光る早苗の左腕と、同時に爆散する人形がぼんやりと見ていた。
「レールガン…」
「なんだって…?レールガンって前に河童が持ってた、山に穴をあけたあの砲台か?」
「それを小さくして左腕に隠してたのよ。今はそれを連発してる」
「嘘…だろ…」
二人の間に絶望が広がっていた。