第五十四章 傭兵と蟲の嵐と星の嵐
「う、うわああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああ!」
喧嘩を吹っ掛けておきながら睨まれて錯乱したかの様に見えたリグル。しかし完全に忘我していた訳ではなかった。(ちなみに錯乱はしている)
(拙い拙い拙い!相手は格上二人でこっちは一人きり…。みすちーはこの時間屋台を引いてるし、助けを呼ぶにも呼べない…。使い魔を呼ぶしかない!)
リグルは伝令の使い魔を飛ばし、ありったけの蟲を集める事にした。
「それで魔理沙、ホタル狩りって捕まえるんじゃなかった?」
「そうだな」
「捕まえてどうするつもり?」
「ついてきそうだったら使い捨ての盾にするぜ」
二人はそんな風に会話しながらも弾幕を避けていく。
その時アリスはちょっとした胸のざわつきを感じていた。
(そろそろ動き始めてもおかしくない。だったらこっちから仕掛ける!)
リグルは暫く時間をおく事で平静を取り戻し、大量の蟲を茂みに隠しながらもまだ集めていた。そして自分の弾幕で少しでも時間稼ぎを、と考えたのである。
蠢符「ナイトバグトルネード」
リグルが弾幕を帯状に何重にも展開していく。そしてその帯は少しずつ解かれ、交差する弾幕の嵐になり変った。
「お?スペカみたいだな」
のんきな口調でそんな事を言っている魔理沙の表情は余裕だと言わんばかりだ。そしてその発言に見合う動きですいすいと弾幕をすり抜けて前に進んでいく。
「おいおい、そんなもんか?もうちょっと楽しませてほしいぜ」
「そう?だったら―」
そこでリグルは言葉を区切りニヤリと笑って右手を上につきあげた。
その時アリスの胸のざわつきは最高潮に達していた。そして目を見張る光景を目の当たりにした。
リグルの背景が黒く塗りつぶされていくのだ。その影の正体は蟲、つまりおびただしいほどのリグルの眷属たち。そしてそれはアリスや魔理沙の背後や、横、上までも覆い尽くし、真っ暗闇な世界が出来上がった。
「魔理沙!」
「大丈夫だ、アリス」
思わず叫んだ相手の声が耳元で聞こえてアリスは別の意味でびっくりしてしまった。
どうやら魔理沙はアリスと背中合わせの位置まで戻ってきていたようだ。
「お姉さんたち、こんな暗闇で戦えるの?」
リグルのさっきまでとは違う、余裕すら感じられる声が響く。
「アリスは攻撃を防いでくれ、周りは私がなんとかするぜ」
「分かったわ」
周囲の蟲達が一斉に弾幕を放った。アリスは二人を囲むように人形を展開し、防御魔法を展開する。その間魔理沙は帽子の中身をごそごそとあさっていた。
「魔理沙、まだなの?」
「カウントで防御を止めてくれ、準備が出来たぜ」
「そんなに時間がかかるなら実践には不向きなんじゃない?」
「二人とも、やられっぱなし?どんどん蟲は増やすよ?早くしないと相方さんが持たなくなるかもね」
リグルは格上を追い詰めた格好になっている事に悦びを覚え、テンションが上がっていた。その所為か言動も無駄が出てきて、なおかつ油断していた。
「うるさいぜ。3、2、1、今だ!」
アリスが防御魔法を中止すると同時に魔理沙のスペカが発動する。
黒魔「イベントホライズン」
魔理沙からあちこちに魔法陣が飛び出す。そして魔理沙自身とその魔法陣から眩いほどの星の弾幕が飛び出す。それらの星は蟲を墜とし、弾幕をかき消していった。
「んなっ!?」
「知ってるか?魔法は光を与えるためにあるんだぜ?暗闇なんて怖くもなんともないな」
そう言って次のスペルを構える魔理沙と新たにスペルカードを取りだしたアリス
「アリス?」
「私は防御要員じゃないんだけど」
「ははっ、それは悪かったな。…でもコイツは私が貰うぜ」
「渡さないわ」
「早撃ちで決めようじゃないか」
「望むところよ」
「ちょっと、二人とも…。私はもう降参するから―」
「「問答無用!」」
魔砲「ファイナルスパーク」
咒詛「蓬莱人形」
魔理沙の超極太レーザーが、アリスの大量・高圧レーザーがリグルを襲い、文字通り吹き飛ばした。
「アリス、大人げないぜ。あんなに何本もレーザーを突き立てるなんて」
「あんな極太レーザー撃っといてよく言えるわ」
二人はお互いに毒を吐いてから、どちらからとなく笑い合った。
歪な月は怪しく二人を照らしていたが、特に気にするでもなく本来の目的通りにアリスのガイドに従って進み始めた。
リグル君が強くなってるのはルナだからってのもありますが、力量格差が詰まってるって事もあります。