第五十三章 傭兵と魔法使いとホタル
ホタルといったら…
―シュウ・妖夢side―
二人は永遠亭を目指すべく夜空を飛行していた。
「シュウ」
「どうした?」
「月がこんな”みょん”なことになったのは、いつからだったんだろうね…。…。シュウ、なに笑ってるの?」
「”みょん”…だって…くふっ、くくっ」
「んな…。そ、そんなこと言ってない!」
腹を抱えて笑っているシュウの指摘に顔を真っ赤にして憤慨する妖夢。おそらく羞恥も何割か混ざっているだろう。
「いや、言ってた言ってた…くくっ、ふ、ふはっ」
「言ってない!」
「分かった言ってないから、それでいいだろ?なぁみょん」
「私の名前は妖夢!みょんじゃない!」
そんな風に二人はじゃれあいながら追いかけっこをするように飛んでいた。その所為か二人は雑談に気を取られて迷いの竹林を通過した。
―レミ咲side―
紅魔館のエントランスに一組の主従ペアがいた。
「咲夜、行くわよ」
「はい。…どうなさいました?パチュリー様」
今まさに飛び立とうとしている二人のもとにパチュリーがやってきた。その手には何やらびっしりと書き込まれたメモと一冊の分厚い本が抱えられている。
「間にあったわね…。二人とも、月をすり替えた術について調べてきたのだけど」
「なにが分かったの?対抗術?」
「違うわ。どうやらこれは一夜限りの術ってことが分かったの。あと、直接の害意はないわね」
それを聞いたレミリアはニヤリ、と笑みを浮かべた。
「つまりはチャンスは一度きり、しかもあまり時間が無いって事ね…。面白い事するじゃない。咲夜、分かってる?」
「はい、お嬢様。時間を遅らせてあります」
即答する咲夜。完璧で瀟洒なメイドに抜かりはない。
「そう、二人とも心配はいらなかったかしら?」
「紅の悪魔に死角はないわ」
「…レミィ。自信と驕りを同一視しないようにしなさい」
「紅霧の異変の時に思い知ったから大丈夫よ、同じ過ちは起こさないわ」
「…そう。今回は強敵みたいだから注意したのだけど、問題なさそうね」
二人は自信に満ち溢れた表情で振り返る事もなく紅魔館を後にした。
―アリマリside―
「なぁアリス」
「なに?」
「どこに向かってるんだぜ?」
「あっちよ」
そう言ってこともなげに正面を指差すアリス。
「要領得ないなぁ」
「…あれは、何かしら?」
目の前に浮かんでいたのは淡い光の群れだった。
「ホタル、だな」
「…そう、それなら別に良いわ。行きましょう」
関係ないと判った瞬間興味を失ったようで先を急ごうとするアリス。その顔は『余計な事に時間を使いたくない』と言っているようだった。
「ちょっと待ちなさいよ!」
「そうだぜ、アリス。ちょっと待つんだぜ」
突如現れ、(と言ってもかなり前から二人には見つかっていたが)叫ぶリグルとそれに同調する魔理沙。アリスは正直うんざりしていたが律儀に答えた。
「なによ」
「ホタル様がでたって言うのに喜ばないやつなんt―」
「ホタル狩りをしよう」
「え゛?」
真面目くさった表情でそんな提案をする魔理沙にアリスは割と本気で頭痛を覚えた。なぜなら魔理沙の表情は『面白い事を見つけた』時の表情で、こうなったら満足するまで突っ走るのが彼女だからである。
「…雑魚にかまってる暇は無いのよ」
「いいだろ?別にどうやら時間もゆっくり流れてるみたいだしな」
確かに月を見るとさっきに比べてゆっくりと動いていた。きっとあれは咲夜の能力だろう。そうなれば急ぐ動機もなくなった(と言ってもあまりゆっくりしている時間もないのだが)。アリスは魔理沙につき合った方が彼女のモチベーション的にも、トータルの時間的にも合理的と判断し、しぶしぶ了承した。
「…そう言えばそうね。どうやら紅魔館も黙っていられなかったって事かしら」
「だから、一狩りしようぜ!アリス!」
「その言い方だと人狩りに聞こえるわよ」
「別にこまけぇこたぁいいんだぜ」
「それよりホタル、だったわね」
「………。」
二人の魔法使いに睨まれて硬直するリグル(涙目)。直後、吹っ切れたように(或いはやけくそに)弾幕を張り始めた。
「う、うわああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああ!」
「自分から仕掛けた癖に…」
「いや、狩るのは私たちだぜ」
「話がずれてるわよ、魔理沙」
そう言うと二人は呆れながらも臨戦態勢に入った。
――next battle is "Wriggle Nightbug" -lunatic-
――to be Continued...
バトルに入ります!
実はこのリグルVSアリマリの構想は紅魔の時からあったりします。
…といっても、やりたいなぁぐらいのものでしたが。