第五十二章 傭兵と動き出した少女たち
―アリマリside―
―コン、コン―
真夜中の霧雨邸にノックの音が響いた。ノートに今日行った実験の考察をまとめていた魔理沙は訝しげに眉をひそめた。
「こんな時間に誰だ?」
『魔理沙ー。まだ起きてるかしら?アリスだけど。開けてくれない?』
「アリスか、珍しいな。あいつなら『常識的に~』とか言って来そうもない時間だがな」
『と言うか居るんでしょう?開けないとこの扉ぶち破るわよ』
「…ホント、珍しいな。こんなに荒れてるなんて…。しかたない…。いま開けるから待ってろ!」
そう答えるとノートやらなんやらをすぐに開けるように、ページが分からなくならないようにしまうと(と言ってもまとめて閉じただけなのだが)扉を開けた。
「こんな時間に悪いわね」
「ホントだぜ」
「ところで魔理沙。月は見たかしら?」
「…いや。月がどうした」
「欠けてるのよ、今日は満月のハズなのに」
「それにちょっと歪だな」
「だからこれは異変よ。一緒に解決しましょう」
「…アリス。ホント今日のお前は珍しい事だらけだな」
「なにか言ったかしら」
「いや、なんでもない。ちょっと待っててくれ、いろいろ準備していくぜ」
「あんまり待たせないでね、夜は短いのよ」
魔理沙は部屋着からいつもの魔法使いスタイルに着替えて、スペルカードなどを帽子に詰めて箒と八卦炉片手に飛び出した。
「待たせたな!」
「魔理沙にしては早かったわね」
「こんな夜はなかなか無いからな」
「そうそうあって欲しい物でもないわ」
そう言って二人は夜の空を駆け出した。
―レミ咲side―
紅魔館のテラスに二人の人影があった。
「ねぇ、パチェ。今日の月はおかしいと思わない?」
「そうね。私は夕方頃からおかしいと思ってたわ」
「なら、調べはついてるでしょう?」
暫く間が開いてからパチュリーは答えた
「…。これは確証のある話じゃないわ。それを念頭に置いて頂戴、レミィ」
「珍しい前置きね」
「仕方ないじゃない、資料が少なすぎるもの」
「それで、原因は?」
「月の秘術って事だと私は思うわ」
「秘術?」
「詳しくは分からないけど、月人関連でしょうね」
「それが欠けた月の正体?」
「おそらく」
そういって肩をすくめるパチュリー。おそらくはこれ以上の事はわからない、と言いたいのだろう。とレミリアは理解した。
「まぁいいわ。咲夜」
「はい」
主の声に音もなく突如として現れる従者。
「私がこの異変解決に向かうわ。だからついてきなさい」
「お嬢様、了解しました」
咲夜の答えをきくなりレミリアは準備をすると言って部屋に戻っていった。
「咲夜、珍しいものね。貴方なら危ないからと止めると思ったのだけど」
「お嬢様に敵うものなど居るはずもありませんから」
そう言うと咲夜もまた「準備がありますので」と残して虚空に消えた。「博麗の巫女には負けたじゃない」なんて台詞でも吐こうと思ったがその場に咲夜が居ない事を理解し、代わりにため息を一つ吐いた。
「巫女と魔法使いはなにをしているのかしら。こんな月を放っておくだなんて。あるいは―」
そこで一旦区切ると紅茶を一口含んでから誰に向けるでもなく呟いた。
「それほど苦戦する相手なのかしらね…」
彼女の呟きは歪んだ月をたたえる夜空に消えていった。
永夜抄は三組の視点で進行していきます。