第五十章 傭兵と夏の日の終わり
「え?」
椛は茫然としていた。なぜならば今まで放っていた弾幕がかき消え、さらに自分からチカラが一瞬にして抜け落ちて飛行することすらままならなくなってしまったからだ。
「う…そ…?」
どんどん速度を増して落下する。着地しようにも突如現れた”異常なまでの疲労感”の所為で身体が言う事を聞かない。
(このままじゃ受け身もろくに取れずに落下する…っ!?)
あまり考えたくない類の想像が椛の頭をよぎる。…が、衝突することはなかった。
「あやや…。なにやってんですか」
文が椛を受け止めてゆっくりと着地する。
「文…様…?」
「満月で気が昂ぶってるからって、見境なく襲うんじゃただの獣でしょうが」
「でも、彼らは侵入者で―」
「えぇ。でも侵入者が『帰るところ』を襲撃してどうすんですか、全く」
「………」
「動きが良くなってる事は認めますが、判断力が足りなすぎです」
そういって締めくくると「さて、謝りにいきましょう」といって椛を引きずってシュウのもとに向かった。
「シュウ、大丈夫?」
「あぁ。問題ない」
「ところで今のって?」
「相手の体の構成をちょっと弄っただけだ」
「え?それって―」
「ちょっと良いですか?」
「いつぞやのブン屋じゃないか」
「えぇ。清く正しく射命丸です」
「知ってるって」
「今のは定型ですのでおきになさらず。さて、さっきはうちの部下が迷惑をかけたようで…申し訳ありません」
「いや、俺は大事にはなってないから大丈夫だが、妖夢は?」
「私も特には」
「じゃあ俺たちは別に問題ないから」
「ですが―」
「ただ、代償といってはなんだが。道案内を頼めるか?」
「道案内…ですか?」
「戦ってるうちに帰り道を見失ってな」
「それじゃあ…里のはずれまで送ります」
こうしてシュウ達はようやく帰路に就いたのだった。
「ただいま~」
「ただいま帰りました」
「遅いわ。妖夢、シュウ。…それで唐揚げは?」
「「あ……」」
「二人とも?」
「すいませんでした、幽々子様」
「幽々子さん、忘れてた」
「酷いわ!二人とも!」
そう言って泣き崩れる(仕草をする)幽々子さん。今の会話を聞いていたリリーが食ってかかってきた。
「そうですよ!酷いです!二人が何の作り置きもなしに出かけるから私は働き詰めだったんですよ!」
「え?煮物を置いてきたんだけど…?」
「え?なかったですよ?」
「あ、煮物なら今朝食べたわ」
「……」
「とにかくシュウも妖夢ももう一回行ってk―」
「「嫌です」」
「…酷いわ、二人とも」
こうして白玉楼の夏の日は過ぎていった。
酷い酷い言ってますけどゆゆさんに酷いって言う資格ないと思ったりwww