第四十九章 傭兵と終わりの音
シュウは妖夢が撃墜される瞬間を見ていた。
彼女はたしかに椛を攻撃を防いではいたはずだ。だからシュウは妖夢の救出よりも先に追撃をかけようとしている椛の足どめに向かった。
「らああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「邪魔ぁ!」
椛はそう言って刀を持たない左手もシュウに向けた。直後、シュウの視界が真っ白に染め上げられた。
(なにッ!?)
シュウは一瞬閃光を疑ったが眼は焼かれていない。そして気が付いたのだ。
―視界が白くなったのではなく、視界を埋め尽くす白い弾幕が迫っているということに―
通り抜けられる間はところどころにある。それで充分だと判断し、シュウは必要最低限の動作で回避しながら前へ進んだ。途中で何発か被弾するが、装甲で弾きながら進む。と言っても弾幕の一つ一つが強力なため、装甲もいまいち信用に足りないのだが。それでも前に進み続けた。
椛は若干の焦りを覚えていた。
ひとつは二人が思った以上に粘る事。久しぶりに本気で動いているのであまり時間に余裕が無いのだ。にもかかわらず視認出来ないはずの攻撃を弾かれ、回避出来ないほどの弾幕をくぐりぬけてくる。今は好機のはずだった。妖夢をたたき落とし、追撃を掛ければ充分にとどめは刺せるはずだった。シュウもこの密度の弾幕で一旦退くと考えていた。
前回の戦闘でスペカが焼かれてしまったのも痛かった。
(甘かった…。考えがどこまでも甘かった。この二人相手にスペカなしで勝てるなんて…。ましてや油断するなんて…どこまでも甘い!)
しかし後悔しても既に遅い。戦いの火ぶたは切って落とされたのだから。
さっき妖夢が墜落した場所で「二人の」少女がスペカを掲げているのが見えた。
魂魄「幽明求聞持聡明の法」
妖夢は叩き落とされた先で半霊に自らをトレースさせた。そして横から見ると極太レーザーにも見える弾幕を放つ椛に向かって飛翔しながらスペカを発動した。
「「剣伎『桜花閃々』!!」」
二人の妖夢は桜吹雪を撒きながら椛へと肉迫した。しかし椛がシュウに向けていた弾幕を妖夢に切り替えて放った事で半霊がダメージを多く負ってしまい、霊体に戻る。その間に妖夢が椛に攻撃を加えたが盾で弾かれてしまった。
シュウは妖夢の攻撃でひるんだ椛を殴りつけた。それによってあらかじめスタンバイさせた術式が発動し、椛の行動を阻害する。続けざまにもう一発術式をたたき込む。シュウはこれで相手は動けなくなった。だから勝てる。そう思っていた。しかしシュウは失念していた。これが行動を「阻害」する程度でしかない事を。
椛は自分の体が思うように動かないと理解し、近づけさせないために弾幕をめちゃくちゃにばら撒いた。威力だけを重視した大玉の弾幕。しかし油断している上に触れ合う距離にいたシュウに当てるには狙いなど必要なく(また、狙いをつけるだけの余裕もないのだが)、何発か被弾したシュウは吹き飛び、地面を何度かはねて巨大な樹に衝突して止まった。椛はなりふり構わずシュウに弾幕を放ち続けた。
シュウは暫く気絶していたようだ。目を覚ますと大量の弾幕が迫ってきておりそれを妖夢が必死に弾いていた。どうやら戦況を整理するとかなり不利なようだ。椛はさっきの術式に反発しようとした反動か、狂ったように弾幕を放っている。その弾幕を浴び続けた後ろの大木もそろそろ限界なのか今にも倒れそうだ。このままだと潰されてしまう。
シュウは「切り札」を使うことにした。
「妖夢」
「シュウ!大丈夫!?」
「あぁ、大丈夫だ、問題ない。それより時間を稼いでくれ」
「え?」
「決めに行く。だからこのままの状態で時間をくれ」
そう言うとシュウは弾幕の一つを物質化して掴んだ。その構成から椛そのものにアクセスする。
解析「崩壊の序曲」
――――――……!!
言葉に表現出来ない音が響きわたる。強いて言うならば澄んだ鈴の音が近いだろうか。いや、むしろその残滓か。
その音が響いた瞬間飛び交う弾幕は”存在から消え去り”椛は意識を失ったように地面へと落下していった。




