第三十八章 傭兵と唐揚げと河童と
「…シュウ、蛙の唐揚げが食べたいわ」
「………。いまなんと?」
「蛙の唐揚げが食べたいの。飛びきりに強い蛙の唐揚げが」
「幽々子さん。それはちょっと…」
「妖怪の山の上に食材はあるわ」
「聞いてます?」
「そこにある神社に祀られている蛙が食べたいの」
「祀られている!?それってどういう―」
「とにかくいって頂戴」
…。仕方ない、断ることは出来ないのだから…。
「って、無理でしょう!?」
「えー…。じゃあ妖夢に頼もうかしら」
「無理です、幽々子様」
お茶を持ってきた妖夢に即答で却下されていた。…と言うかそこで「いきます」と言われても俺としてはいろいろと考えなおさなきゃいけない事態なんだが。
「仕方ないわ…自分で取りに行ってこようかしら?」
「私がいきます」
「妖夢!?」
何事!?なんで妖夢が蛙狩りに行くことになってるんだ?…と言うか祀られてるものを勝手に唐揚げにして食べる訳にはいかないだろう…。賞味期限もやばそうだし。
「じゃあ、行こうか、シュウ」
「そして俺も当然の様に駆り出される訳だ」
「私と一緒じゃあ、いや?」
「いこうか妖夢」
…。とことん自分の意思が弱いな、俺…。
「…どうしてこうなった」
「どうしたの?シュウ」
「いや、普通に妖怪の山の上に祀られてる蛙ってあの土着神の頂点だよな?」
「そうだね」
「唐揚げには出来ないだろう」
「だから行くだけいって『無理でした』って報告したら―」
「また行かされるんじゃないのか?」
「…。その時はそのときだよ」
まさかのノープランだった。
妖夢と二人、魔法の森を越えて妖怪の山へと向かう。近くに川が流れているのを見つけたので俺たちはなんとなく河に降り立つことにした。
河はとてもきれいに澄み渡っている。川底が見えるくらいだ。まだ夏なこともあってか葉っぱ一つ流れてはいない。……。
少女は流れてきたが。
その少女はピクリともせずに流れてきて俺たちの目の前で担いでいたリュックサックが岩に引っかかって止まった。問題は―
腰から下が透き通って、地面が見えてるんだよなぁ…。
「シュウ…。アレ、上半身しかないよね…」
「いや、見えてないだけかもしれな―」
「下半分ないよね」
「…ないな」
「……。」
「……。」
「…死体?」
「いや妖怪だったら体がぶっ飛んでも命は間に合うかもしれない」
俺たちはとりあえずその少女の上半身を岸にあげることにした。
少女は思ったより軽く簡単に持ち上がった。(リュックはバカみたいに重たかったが。)そして岸にあげた時に、唐突に下半身が「現れ」た。
そして地面には存在があやふやな布切れが一枚。…これは、もしや、光学迷彩ッ!?
「謎の技術…胸元の鍵…。河童の子だね、きっと」
「だろうな、俺も聞いたことがある」
「うぅぅ…ん?んぁ…」
少女は眼を覚まし、俺たちをみると眼をまん丸にしておどろいた。
「に、人間!?」
「そうだな」
「私は半人半霊だけどね」
「あわわ…光学迷彩、光学迷彩…。……。光学迷彩はどこだ!?」
「ここに」
俺が光学迷彩を差し出すと少女はそれをかぶって逃亡を図ろうとした。
「ふぎゅっ」
「なぜ逃げるし」
「逆になんで逃がしてくれないのさ」
「せっかく捕まえた現地の者なんだから道案内ぐらいは頼んでもいいだろう?」
「悪い事は言わないから帰りな、盟友」
「そこは俺が決めることだ」
「警告はしたんだがね…。一応こっちでも警告するよ。」
そういうと少女は弾幕を手に浮かべた。
「私の名前は河城にとりってんだ。所謂技術屋の河童さ」
「そうかい、俺はシュウだ。で、こいつが妖夢」
「シュウに妖夢だね、覚えたよ。…。二対一は辛いね…。」
そう言いつつにとりは河の上に移動した。すると河から水柱が立ち上り、無数の弾幕となってにとりに追従する様子を呈した。
「こういうとき、姉さんがいてくれたら…」
「なんか言ったか?」
「いいや、なんでもないよ。始めようか、盟友」
にとりの眼の色が好戦的な瞳に変わった―。
――to be Continued...
はい、物語なんて動き出しませんでした。
俺がネタ切れた宗を友人に伝えるとアイデアをくれました。
そう。「蛙の唐揚げ」です。
どんな味か彼に試させてみたいです。俺は食いたくないですが。