それぞれの結末
クリスは懺悔箱の中に座って幼い少女の懺悔を訊いていた。
「大丈夫、神はきっと貴方の罪をお許しになります。」
「ありがとう巫女様!!」
少女は嬉しそうに懺悔箱を飛び出し、母親の元へ駆けて行った。
クリスはそれを穏やかな気持ちで見守っている。
ミラノが王位を継いで3年が経った。ユリアの葬儀の後、すぐに戴冠式を行った。ミラノも王も、それがユリアの一番の弔いになると信じたからだ。王妃の国との戦争は、ムラサメが仲介してくれたお陰で無事に回避できた。王は少し恥ずかしそうに言う。
「ミラノ。お前が国王となって3年…あの忌まわしき魔女の予言からもう16年が経ったのだな。私は、自分を恥ずかしく思うよ。…占いなどではなく、自分の子供を、もっと信じるべきだったのだな。」
ミラノは優しく笑った。
「どうでもいいよ。どうでもいいんだ、そんな事は。クリスやユリアの死は僕の責任だった。僕が王妃ともっと向き合うべきだった。あれこそが、大いなる災いだったんだと思う。だけど、それでも、僕は彼女たちに会えて良かったと思ってしまうんだ。」
「ユリアか…素晴らしい女性だった。」
「うん…さぁ父さん、行こう。皆が待ってるよ。」
今日は1年に1度の国民交流会。
貴族も王族も神官も商人も軍人も平民も、国民すべてが集まり語り合う祭りの日だ。
町人の一人が叫ぶ。
「港に海賊船が着いたぞぉおおお!!」
一同の顔に不安の汗が浮かぶ。ミラノがマイクを通して招待客たちに告げる。
「構わぬ、あれは僕の友人だ!海賊だろうが山賊だろうが、この国に生きるすべての人が今日は招待客だ! さぁ皆、宴を楽しんで!!」
船着場から車椅子を押してくる少年が人懐っこい笑顔でミラノの名前を叫ぶ。
「久しぶりだなぁ!ミラノ!!」
国民たちは海賊の意外な素顔に戸惑っている。
「あれが海賊? 年端もいかぬ子供ではないか!」
「なんと可愛らしい少年ではないか。」
「しかし我らの国王様を呼び捨てとは…!」
国民たちが率直な感想をつい口に漏らす。
クリスが少し遅れて祭り会場にやって来た。
「ミラノとムラサメはっけーん!!」
クリスがムラサメに飛びつく。
「離れろチビ!」
そんな光景を見て車椅子の淑女が慈愛に満ちた顔で微笑む。
「!!」
ミラノもクリスも、ミラノの父も目を見開いた。
ムラサメは誇らしそうに言う。
「俺たちの頭領サマがあんなんで、くたばるかよ。…まぁ記憶こそ失っているが…正真正銘、ユリア様ご本人だ。」
クリスとミラノは脱力して座り込んだ。
「何だよお前ら、嬉しくねーのか?」
ムラサメが二人にくってかかる。
「止めんか、ムラサメ!!…活気のあるいい国だな…お前が王か?」
ユリアの問いにミラノは心からの笑顔を向けた。
「今日は、王ではありません。一人の国民です、そして、貴方の古い友人です。」
「そうか。すまない、昔のことは覚えていないが…現在のお前を、友として誇らしく思うよ。名は?」
「ミラノ。僕の名前はミラノ。…ねぇユリア、僕のこと思い出さなくてもいいよ。忘れていても全然構わない。そりゃあ少しは寂しいけど、でも。貴方が生きていてくれたことが、本当に嬉しいんだ!」
僕は自分で言いながら泣きそうになっていた。
クリスが僕の頭によじ登って、頭のてっぺんをペチペチと叩く。
「相変わらず泣き虫ねミラノ。ユリアが困惑してるじゃない。久しぶりね、ユリア。話したいことが山ほどあるわ。」
クリスの所業を見かねたユリアが自分の被っていた帽子をクリスに差し出す。
「これは可愛らしいお嬢さん。帽子にのってみるかい?」
「あら、懐かしいわね。」
クリスは昔の定位置にちょこんと座った。
「やっぱここが一番落ち着くわぁ。」
帰りがけ船の甲板から国を見ていたムラサメが呟く。
「いい国に、なりましたねぇ。ユリア様」
「…ああ。彼らなら、きっと大丈夫だ…」




