クリスの過去、王妃の本音
ムラサメが王冠を作り直してる頃の、クリスのお話。
「私ね、ミラノ様がどうしても欲しかったの。その為なら命を投げ打つ覚悟でしたわ。」
王妃は小さな客人に紅茶を入れながら言った。
クリスは少し焦っていた。
つい先ほど、教会で泣いてる彼女に話しかけたが為に、何故か恋敵とお茶をする羽目になってしまった。しかも先程から、嫌な汗が止まらないが、可愛い物好きの自己中王妃は気付いていないようだ。
「惚れた男の為に死ぬ気だったの?いっぺん死んでみたら、それがどんなに愚かな考えか分かるわよ。」
クリスの言葉に王妃は高い声で笑う。
「いやねぇ、違うわよ。だって『私』が死んだら『私』が幸せになれないじゃないー他人を蹴落として、殺して、騙して、脅して。それでもあの人を手に入れたかった。だから彼に近づく女の子を殺したの。同情はしたけど後悔はないわ。だって後悔したって『私』はしあわせになれないもの。」
クリスは呆れて言った。
「さっき、命を投げ打つ覚悟って言ったじゃない。」
すると王妃は真顔で彼女にこう告げた。
「ええ、彼が手に入るなら、他人の命をいくつ投げ出したって構わないわ。」
しばしの沈黙。
胸を押さえて、クリスが声を絞り出した。
「殺したこの名前、覚えてる?」
「名前? 興味ないわ。ただの私の、踏み台だもの。」
クリスはどうやって王妃を殺そうか、それしか最早考えられなかった。
「…クリスティーナ。」
「え?」
「クリスティーナよ、かつての私の名前よ!!」
王妃の部屋の扉がノックされる。
「助けて…許して、お願い助けて!!」
王妃の悲鳴に部屋の扉が開かれた。
現れたのは教会に出入りしている神父ークリスティーナの父親だった。
「お・・・父…さま?」
「神父様!早くこの化け物を退治して頂戴!!」
王妃はそう言って部屋から逃げ出した。
「お父様!!…私よ、クリスティーナよ!!」
老神父はクリスを見て戸惑ったが、すぐに胸の十字架を握り締めてこう告げた。
「私の娘の名を語るな、お前はただの悪しき亡霊だ!!」
その言葉はクリスを絶望の淵へと追いやった。
「…お父様は、私の死を悼んでは下さらないの? あの忌まわしき運命を憎んでは下さらないの?!」
それから暫くの間、クリスの姿を見る者はなかった。




