戴冠式・序幕
金属の割れる音で目が覚めた。
「誰だ?!」
ミラノは急いで音のした方へと走る。黒い人影とぶつかった。尻餅をつく。少し潮風の匂いがした。
「泥棒かぁ?」
ミラノの呼びかけに黒い影は走り去る。
念の為に何が盗られたのかをみておくか、、、ミラノは立ち上がって影が走ってきたほうを見る。
「!!」
そこにはミラノが戴冠式で被る筈の冠が力任せに壊されていた。
「どっぺるげんがー??」
ミラノは苦笑した。まぁ自分は不吉な存在だし、誰もが自分を認めてくれてるとは最初から思ってなどいない。そもそも自分だって王位なんか継ぎたくない。それでも。それでも、否定されるのはしんどい。
正午。
ユリアが王室を尋ねてきた。
「呼び立ててすまなかったな。」
「構わんが、一体どうしたんだい?」
王は今朝、ミラノから訊いた事をユリアに話した。
「海の獣を倒したお前たちにもう一度頼みたい。どうか犯人を捕まえてくれ」
・・・・たち?
「またミラノの子守か。まぁ私は構わんがね。」
「・・・僕も行くの?」
自分は完全に蚊帳の外に居たものだと思っていたミラノが尋ねた。
と、同時にユリアに頭をわしゃわしゃやられる。
「なぁミラノ、お前の物を壊した犯人を捜すのは、お前の役目じゃないか。」
ユリアの笑顔に軽い殺意が浮き上がってるのを感じてミラノは物凄い勢いで頷いた。
ミラノとユリアは港に来ていた。
ユリアの船に乗り込もうとする、と、ミラノはユリアの帽子に違和感を感じた。いつもならそこに乗っかっている筈のクリスが居ない。
「あれ、クリスは?」
「明日、迎えに行くよ。今日は神殿で過ごしたいらしい。」
「はぁっ?!」
(クリスを殺した犯人って、まだ分かってないんだよな。単独行動は危険なんじゃ・・・)
ミラノの思考を汲んだユリアは少し悲しそうな目をした。
「あのコは、なんで海に生まれ変わったんだろうね・・・。」
「生きたかったからじゃないの?」
「そうだな。きっと殺されずに、生きたかったんだろうな・・・。」
クリスは神殿の間に座した。
ステンドグラスの窓から夕日が差し込んでいる。
(神様。神様。神様。)
何度呼べば応えて貰えるだろう。いや、そんな日は永遠に来ないんだ。
(その証拠が現在の私の姿じゃないか・・・。)
身の丈は一寸。
自らの血で染まった深紅の髪の毛。
何を信じて生きればいい。何を呪って生きればいい。
考えすぎて眉間に出来た皺は簡単には取れそうにも無い。
ばたんっ
神殿の間の扉が乱暴に開けられた。
そこに立っていた娘を見たとき、クリスは激しい殺意を抱いた。
「本当に馬鹿な人。この私を、愛さないなんて!!」
次期王妃の娘だった。
「あの人から、あの娘を引き離せば私の物になると思ったのに!!」
(あの娘? 何だろう、嫌な汗が止まらない)
クリスは自分の震えを制御できずに居た。
王妃は泣いている。どうにか気付かれずにやり過ごしたい。やり過ごしたいけれども。
「ねぇ。」
クリスは王妃に話しかけた。
この震えの意味を、知りたかった。




