3話
スライムの奇怪な鳴き声が響き渡る戦場。その視線のすべてが、聖女アリアへと注がれていた。
「私は子供の頃からスライムが大好きで、専門家と何度も話したの。そこで聞いたんだけど――スライムは生後半年くらいはお母さんの体の中にいるらしいのよ!」
「姫様……一体何の話ですか?」
「黙って姫様の聞いとけよ、サスケ!」
お喋りでお調子者のサスケが、先輩兵士に注意された。
「その時にね、寒かったりお腹がすいたりすると、子供はお母さんを甲高い声で呼ぶんですって!」
「つまり、あの声は母親を呼んでいる……?」
「そうよ!」
アリアは自信ありげに胸を張った。
「いやいや全然甲高い声じゃ無かったっすよ。間違いじゃないっすかね」
「黙って姫様の聞いとけよ、サスケ!」
お喋りでお調子者のサスケが、先輩兵士に注意された。
「ほら、あの目を見て! なんか寂しそうじゃない?」
「……そうかもしれん」
年老いた兵士が曖昧に頷く。
「俺には、あのスライムがアリア様だけを見てるように思えるんだが……」
「黙って姫様の聞いとけよ、サスケ!」
お喋りでお調子者のサスケが、先輩兵士に注意された。
「いや、でも確かに……姫様を見てる気がする」
「俺もそう思ってた!」
「わ、私を……?」
アリアは自分を指差し、思わず目を丸くする。
「じゃあつまり……あのスライムは姫様を母親だと思ってるってことか?」
「えぇ?」
「どうですか姫様?」
「その可能性は十分にあるわ」
サスケが首をひねる。
「スライムが人間を親だと思うなんてあるっすかね?見た目が全然違うじゃないですか」
「そう言われてみればそうだな」
周囲がサスケの意見に賛同し始める。
「やっぱり威嚇してるだけじゃねぇのか?」
「そっちの方があり得るよな」
「俺もそう思うぜ」
「ってことはスライムが母親を呼んでるとかいう、姫様の推理はやっぱり間違ってたってことじゃん!」
サスケが何故か嬉しそうに言った。
「そうだな、姫様の間違いだな」
「そうだそうだ………」
「待って! 思い出したわ!」
アリアが大声を上げた。
「ヒヨコはね、初めて見たものを母親だと思い込むのよ! たとえそれが人間でも!」
どうだとばかりに周囲を見渡す。
「……たしかに聞いたことがあるな」
「マジだぜ。俺んちも昔、鶏飼ってたし」
「そう考えたらどう?このスライムが最初に見たのが私だった!だから、母親だと思ってるのよ!私の推理は間違ってないでしょ?」
「いやいや……さすがに無理あるだろ」
「俺もそう思う。こんなに人間がいる中で、姫様だけ見るって……」
「やっぱり姫様の推理は大間違いだ!」
サスケは何故か嬉しそうに言った。
「私は絶対に間違ってない!」
意固地な表情でスライムへ歩み出す。
「危ないです、姫様!」
止める声を振り切り、両手を広げてスライムに語りかけた。
「スライムちゃん、話を聞いてちょうだい!お母さんを見失って不安なんでしょう?けれど私はお母さんでは無いわ。それよりも早く逃げて!ここはとても危険なの、悪い人間達に殺されてしまうわ!」
恐れること無く堂々と声を張り上げるその姿は舞台女優のようだった。
「どうだ……?」
「スライムが黙ったぞ!」
「姫様の声を聞いているんじゃ……」
「まさか、本当に!?」
全員が息を呑んで見守る中――
「ンボォォォォォーーーーー!!!」
黒いスライムは大声を上げると逃げて行った。
「姫様の声がスライムに届いたのか……?」
「スライムが姫様のいう事を聞いた?」
沈黙のあと、全員の視線が一斉に聖女アリアへ注がれた。自信満々の表情で頷く彼女の表情を見た兵士たちの胸に、小さな希望の火が灯り始める。
そして暫くの後、黒く巨大なスライムが敵軍の後方に出現したという報がもたらされた。
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