表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
短編集  作者: 星 見人
74/81

神代ルナ 人面犬追いかけるって1 (ギャル警察)

見て頂きありがとうございます。作る励みになりますので、良かったらブックマークと評価よろしくお願いします。


 「ねえ〜、戸川ちゃん……?

ここ、あーしの家なんですけど……!

あーし非番なんですけど……ど!」


ジャージ姿の神代ルナは、リビングのドアにもたれて目を細めた。

すっぴん、ノーメイク、髪はまとめてバナナクリップ。


完全なる休日モードである。


対する戸川はというと、ドヤ顔で紙袋を持ち、勝手知ったる様子で冷蔵庫を開けている。


「なぁ?ルナ、お前さぁ……人面犬、って知ってるか?」


「知ってるけど。……てか、あんた、まさかそれ言いに来たわけ?あーしの貴重な非番の日にっ!?」


「そうだ!犬が、喋ったんだぞ!」


「ふーん。人面ゴリラなら、目の前にいるけど……ね〜☆」


「誰がだぁっ!」


 ゴチン!と軽くチョップがルナの頭に落ちた。


「いってぇ〜……マジでやるかね……怪力ゴリラめっ!」


 ソファに崩れ落ちながら、ルナは紙袋を引き寄せる。

中には有名スイーツとカフェオレが詰め込まれていた。


「わぁ〜お☆機嫌取るの上手いなぁ……

で、なに?人面犬?」

ジュルジュルとカフェオレをすすり、ルナが聞いた。


「ああ。昨日の深夜、渋谷の路地裏でな。

中学生が撮った動画がバズってる。

犬の体に、人間の顔が貼りついてて、しかも

“こんにちは〜”って喋ってんだってよ」


「それ、声は?」


「機械音声だ。スピーカーを仕込んでるっぽい。

だけど……その人面が、どう見ても“生皮”なんだよな」


 ルナの手がピタリと止まる。

有名スイーツのクリームを、唇にベッタリつけて

彼女の目が鋭くなる。


「生皮……って、つまり……」


「顔の皮を剥いで、マスクにしてる可能性がある」


「うっわぁ〜…サイコすぎ…

ふざけんな、戸川ちゃん。休みにそんなもん見せんなって……」


スマホを差し出す戸川。

再生ボタンを押すと、夜の路地で震える手元映像が始まる。


 ーー画面の奥、ゴミ捨て場の向こうから、ふらりと現れる一匹の大型犬。

柴犬より一回り大きい、猟犬のような骨格。


そしてその顔面には、何かのマスクが縫い付けられていた。


[……コンニチワ……コンニチワ……ダレカイマスカ……]


 喉のあたりから発せられる、人工的で感情のない音声。


子どもたちの声が「やばい!」「なんだあれ!」と叫ぶなか、犬は一瞬こちらを向き、そしてフレームアウトした。


 動画はここで終わる。


「……マジで、狂ってるわ、コレ」


ルナはスマホを返し、深くため息をついた。


「これさぁ、RCリコレクション・コミュニティじゃない?」


ぽつりと漏れたその言葉に、戸川の目が細まる。


「やっぱ、お前もそう思ったか?」


「うん。生皮、機械声、メディア撹乱、都市伝説のアップデート。

……全部、あいつらの“演出犯罪”の型にハマってる」


 RC──リコレクション・コミュニティ。

 都市伝説をリアルで“再演”することで、世間にショックを与え、ネットを混乱させる演出型犯罪集団。

その頭脳である氷室ナナは、いまも拘留中だが、彼女の不在でもRCは動いていた。


「留置所のナナち〜は……?」


「変わらずルービックキューブやってるらしい。何も話さない。でも、先週から“やけに上機嫌”だとさ」


「ははぁ〜ん……こりゃ…動いてるね」


ルナは立ち上がり、髪を一つにまとめ直すと、ギャル服に身を包んだ。


「行こっか。まずは現場の路地☆」


「おう。とりあえず朝メシ食ってからな」


「戸川ちゃんが作ってくれるなら」


「……なんで俺なんだよ」


「非番の乙女の家に侵入した、“人面ゴリラの刑”。

料理ぐらいしなよ〜☆」


「うるせぇ!」


二人の軽口が交錯する朝。


だがその裏で、すでに“喋る犬”を使った情報攪乱が、街を混乱に巻き込み始めていたーー。



現場は駅から徒歩8分、裏路地のコインパーキング脇。


「……ここだな。動画のGPS情報、ビンゴだ」


戸川が指差したゴミ捨て場の前には、破れたブルーシートと腐った段ボールの山。

すでにメディアも警察も立ち去り、ガラ空きの現場にはカラスすらいなかった。


「におうね〜、こりゃ」


ルナは地面にしゃがみ、黒いスニーカーで吸い殻をどけながら指先で何かをつまみ上げる。


それは、くしゃくしゃになった薄いゴム片ーー


いや、違う。


「……これ、シリコン製の“皮膚”だ。人工皮膚。

精巧な偽皮膚マスクだね」


まじまじとそれを覗き込んだ戸川が、顔をしかめた。


「なんでそんなもんが……」


「たぶん、犬に被せてた“顔”の一部。

喋る犬にリアリティ出すために、整形用のリアルスキンマスクを使ってるんだよ。

んで、これ、、業者にしか出回らないレベルの高品質なやつだね〜☆」


「裏に、なんか名前書いてあるぞ。

“Aoi Clinic”……」


「……美容外科系のラボね。聞いたことあるよ」


ルナがスマホで即検索。


画面には、芸能人も通う高級美容整形クリニックの名前が浮かんだ。


「院長、蒼井真澄、、最近バズった美人インフルエンサー外科医だよ。

顔も性格も完璧すぎて“整形モンスター”とか揶揄されてる。

……ねえ戸川ちゃん、これ、何かの“舞台”っぽくない?」


「舞台?」


「うん。人面犬っていう都市伝説に、整形の皮膚、クリニック、話す声。要素全部に“テーマ”があるよね…」


 ルナは空を見上げた。

ビル群を背に、かすかに人工音声のような音が聞こえる気がした。


「RC、まだ動いてるね。あいつら、ナナが捕まっても平気で台本続けてる。ってことは……」


「誰かが、演出を続けてる?」


ルナはスマホをポケットに押し込み、笑った。


「答え合わせ、しに行こっか。“皮膚”の出元へ」


そう言ってふたりは“Aoi clinic”に向かった。



「いらっしゃいませ。ご予約は?」


クリニックの受付に立つのは、完璧すぎる整った顔の女性スタッフ。


「警視庁です。

美容外科医・蒼井真澄さんにちょ〜っと、お話を伺いたいんですけど〜☆いらっしゃいますかぁ〜??」


ルナは警察手帳を見せながら、わざと軽く鼻歌まじりに名乗る。

その様子にスタッフは一瞬顔をこわばらせるも、すぐに営業スマイルに戻った。


「少々お待ちください」


待合室には、女優、インフルエンサー、ホストらしき男性たちがスマホをいじっていた。


全員が“完璧”な顔を持っていることに、戸川は気付く。


「なんかここ、、全員コピー人間みたいだな……」


「パーツのバランスが似てんだよね。

“黄金比テンプレ”ってやつ。ーーいた。あれが蒼井真澄」


 ロングの黒髪に、パーフェクトな目鼻立ち。白衣のポケットには、ブランドのリップと名刺が差し込まれていた。


「警察の方ですね?お時間いただきありがとうございます。お聞きになりたいのは、シリコンマスクの件ですか?」


「さすが☆……察しがいいっすね」


とルナが言うと、蒼井は口元だけで笑った。


「最近、うちの“顔”が変な使われ方をしてるみたいで。犬にマスクを被せた動画……私も拝見しました」


「で、それ、誰に渡したんですか?」


「当院のマスクラボは持ち出し不可です。

許可なしに持ち出せる人間は限られていますが、、

一人だけ、辞めたスタッフがいます。

“彼女”なら、“手口的”にも“動機的”にも合うかと」


「“彼女”?名前は?」


「氷室 ナナ」


その名前を聞いて、ルナの瞳孔が一瞬だけ開く。


「、、ナナち〜……?」


「おい…ルナ、一回戻るぞ…ここまできたら、あいつに話し聞いた方が早そうだ」


「……そうだね、一回戻ろっか…」


そう言ってふたりは留置所に向かった。



「人面犬かぁ〜☆アレ、かわいいでしょ〜☆ウチねぇ柴犬の血統が好きなんだよねぇ〜」


留置所のガラス越し。

氷室ナナはルービックキューブをくるくる回しながら、無邪気な笑顔を浮かべる。


「……お前、まだ指示出せる立場にいるのか」


 戸川の声に、ナナはクスッと笑った。


「出してないよ?だって、ウチわ〜 今、無力な女囚☆ でもさぁ、ルナっち。皮膚って……面白いよね。

“顔”って、記憶と違って、何回でも作り直せるんだもんねぇ〜☆」


それが、RCによる“第二幕”の始まりを意味していた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ