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6月2日 (詩)
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きょうは なんのきなしに
ハンドルを握って 実家へ向かった
町を抜けて 裏道を走る
電信柱がゆっくりと 昔の影をのばす
知らない家が増えていって
曲がる角が 少しだけ違って見えたけれど
風の匂いが なつかしさを導いて
おれの手が勝手に ハンドルを切っていた
玄関の前で車を停めると
「おう」と 親父の声
それだけで
胸の奥に なにかが灯る
なにも起こらない夕方
茶の間に入り 笑って 黙って
テレビの音が 川のせせらぎみたいに流れる
窓のカーテンが そよ風に揺れて
湯呑みの湯気が まっすぐ天にのぼっていく
親父の肩越しに見えた山は
いつかより 少し低く見えたけれど
その向こうから吹く風は
やっぱり あの頃とおなじ匂いだった
この時間は とてもふしぎで
時計の針が 水の底をすすむように ゆるやかで
おれもまた
子供の頃のまま ここにいる気がした
また すぐに 行かなくちゃな
なんの気なしに なんて言えないな
親父の笑顔が まだあそこに
やさしい灯りみたいに ゆれていたから




