社畜、死す。そして転生。2 (転生)
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「お、おい……なんだあの魔物……ッ!」
「まさか、ドレドレッドウルフ!? Cランク個体が人間を背負ってるぞ!」
俺が王都の初心者ギルドに姿を現した瞬間、受付前は騒然となった。
肩には[解析]で強化した自作マント。
背後には忠実な相棒・ドレドレッドウルフ(名付けてクロ)。
さらに、辺境ギルドでのダンジョン探索で手に入れた希少素材[白鉄の鉱核]と[魔狼の爪]を手土産にしていた。
これを見た元・新人ギルドの奴らの顔ときたら、大事な時に母親が部屋に入って来たみたいにひきつっていた。
三日前。俺は、ギルドにすら相手にされない役立たずとして追放された。
だが今、同じ受付カウンターで、、
「ご、ご、ご、ご用件は……?」
あのとき俺を嘲笑した男。
新人受付のギルド員・トラスが、額に脂汗を浮かべながら聞いてきた。
「素材の売却だ。ついでにギルドマスターにも話がある。辺境ギルド推薦状もな」
カウンターにドサッと置いた袋から、光り輝く素材が見える。
彼の顔が青ざめたのは、その中身がわかったからだろう。
「こ、これは……魔狼の爪!? S級素材じゃないか……! どこでこんなモン、、」
「ドレドレッドウルフの親玉に出会ってな。説得して片付けた」
「説得……? は……?」
理解が追いつかない様子に、俺はニヤリと笑った。
「そういやお前、[解析]と[魅了]なんてゴミスキルって言ってたよな? おかげで、俺は気づけた。ああ、やっぱここじゃなくて良かったって」
「…………」
トラスは何も言えず、奥の部屋へ逃げるように消えていった。
「なるほど、つまり君は[解析]で魔物の構造を読み、[魅了]で交渉して味方にした……?」
ギルドマスターは、一通りの報告を受けて眉をひそめた後、しばらく沈黙した。
「実に、興味深い。だが残念ながら、この王都では魔物を味方にする者は危険視される。騎士団の目もある。……君は、辺境のほうが合っていると思う、、」
「……そうですか」
「ただし、これだけの素材を持ってきてくれた君に、我々がかけた誤認は、大きな損失だったと認めよう」
その言葉と共に、マスターはそっと一枚の紙を差し出した。
《推薦状》
発行者:王都ギルドマスター・ザグレフ
推薦対象:神谷リク
理由:特異スキルの有用性と交渉能力に基づき、S級貢献者として認定する
ギルド全体が沈黙した。
誰もが追放者だった俺に推薦状が出るなど、想像もしていなかったのだ。
ギルドを出るとき、見覚えのある女の子が声をかけてきた。
「……リクさん、ですよね?」
華やかなドレスに、上品な所作。だがその目には涙が滲んでいた。
「婚約者に、、婚約破棄されました。無能な私に価値はないって、、」
言葉に、胸が痛んだ。
俺の目の前にいる女の子は、間違いなかった。
前世のブラック企業で、毎晩遅くまで笑顔を絶やさず働いていたあの子にそっくりだった。
「大丈夫。お前は無能なんかじゃない。……[解析]で見させてもらったよ。お前の努力も、本当の価値も」
女の子の目が、驚きと安堵に揺れた。
「俺に任せろ。その“ざまぁ”展開、一緒にやり返そうか」
これは偶然か、運命か。
かつて過労死した男と、かつて過労で泣いていた女の子に似た、女の子。
二人の“逆転劇”が、今始まる。
「……この場を借りて、婚約を破棄する!」
貴族会議の大広間。
十数名の貴族たちが見守るなか、一人の男が高らかに言い放った。
その傲慢な態度の男こそ、伯爵家の嫡男にして、自分の“無能な婚約者”を見下すことでしか自尊心を保てない、典型的ななろう系悪役貴族、、
セイル・アルヴェインだった。
「アリシアは努力もせず、魔力も低い。こんな出来損ない、私の妻にふさわしくない!」
「ち、違っ……私は、ずっと……!」
涙をこらえながら反論するアリシア。
会場の貴族たちは、どこか冷ややかな目で彼女を見つめていた。
“平民上がりの孤児”だった彼女には、味方などいない、、、そう、誰もが思っていた。
、、、そう、この瞬間までは。
「異議ありだな、それは」
静寂の中、俺の声が響いた。
スッと広間の扉が開き、黒いローブを翻しながら俺
神谷リクが現れる。
足元にはドレドレッドウルフのクロ、手には解析用の魔導石デバイス。
ざわつく会場。
誰もが「なぜ一般人がここに?」と困惑する中
俺は胸を張って言った。
「王都ギルドからの推薦状、そして“貴族と民の不正取引の証拠”を持ってきた者として、ここに立っている」
「な、何を言ってる! 貴族の場に平民風情が……!」
「黙ってろ、セイル。お前の方こそ、今日で終わりだ」
俺は魔導石に収めた解析結果を展開し、空中に映し出す。
【セイル・アルヴェインの魔力量:中級】
【アリシア・クロードの魔力量:上級(自己抑制スキルによる隠蔽)】
【婚約破棄理由:建前=魔力量不足/真実=別家令嬢との裏取引】
【補足】
セイル・アルヴェインは過去3ヶ月でクロード家資産を8回着服。
証拠:金流の魔導記録ファイル添付済。
ざわっ!ざわざわっ!!
会場の空気が一変する。
貴族たちの視線が、セイルに突き刺さる。
「ま、まさか……!」
「本当だったのか、資金の流出は……」
「私の魔力が……上級……? ずっと、測定にすら呼ばれなかったのに……」アリシアが呟く。
そう、彼女は“努力して得たスキル”で魔力を抑えていただけなのだ。
無能と決めつけた男が、本当に無能だったという、ただそれだけの話。
「嘘だ! こんなの、魔導石の細工だ! 陰謀だ!」
セイルが必死に叫ぶが、、、その瞬間。
「それでは私が確認いたしましょう」
奥から現れたのは、国王直属の解析官。
そして、、
「それと、辺境ギルドのルミナさんに同行をお願いしました。第三者証人として」
「やっほー、リクくん! この場に来るって言うから、面白そうで来ちゃった!」
ルミナは相変わらず軽やかに微笑みながら、国王の証明書を掲げた。
もう、誰もセイルを擁護しない。
ついにギルド、王家、そして“真実”が一つになり、、
「セイル・アルヴェイン、貴族位剥奪と共に資産の一部没収、およびアリシア・クロードへの賠償命令を言い渡す!」
その言葉をもって、俺たちの“ざまぁ”は完成した。
「……ありがとう、リクさん。私、ずっと、ただ悔しかった。頑張っても誰にも見てもらえなくて……」
「わかるよ。俺もそうだった。でも、ちゃんと見てくれる人が一人でもいれば、人は強くなれる」
アリシアの頬を、一筋の涙が流れる。
「君の力は、“隠されていた”だけだ。それを見抜くのが、俺のスキルだからな」
「……ふふ、かっこいい台詞。でも、それがリクさんらしい」
そして、俺たちは新たな目的地へと向かう。
次なる冒険、次なる“ざまぁ”を求めて。
この異世界で、社畜だった俺と、涙を知る令嬢の逆転劇はまだ始まったばかりだ。




