神代ルナ 伊集院を取り調べるってよ (ギャル警察)
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今回は伊集院メインになりますが、ちょっと描写がグロいかもしれませんので、苦手な方はお控えください。
殺風景な部屋。蛍光灯の音だけが天井でさざめいていた。
長机を挟んで、俺の正面には神代ルナ。隣にはあの戸川刑事。
ふたりとも、まるで劇でも観るような目をしている。
そんな目じゃ、私の話は愉しめないよ。
「ねえ伊集院さん。そろそろ、話してくれる?」
ルナの声が静かに、でも芯を持って響いた。
「話すさ。私はね、クックック。
[嘘]を愛してる。だけど今だけは、正直でいてあげるよ」
うすら笑いを浮かべ、カツ、と机の上で指を鳴らす。
「はじまりは、あのレストランだ。
君たちが見つけた、レビュー0件の店。
私が『メニュー』だったんだ」
あの夜、厨房の奥にいたのは彼だった。
黒い帽子に真っ白なコック服。
客のふりをして入った俺に、彼は言った。
『おや、伊集院様……ずいぶんと、貴族趣味がおありで』
わかっていた。いや、わからせた。
私はずっと、あの世界に足を踏み入れていたのだ。
彼は[人肉の調理師]だった。だが彼は言った。
「本当に上等な肉は、悲鳴と絶望を味付けにせねばなりません。それが最高のスパイス、、」
私はそのとき思った。
あぁ、この世界にはまだ[美学]がある。
狂ってる? 違うね、これは[高尚]なんだ。
だから、私は彼と組んだ。
美しく調理された魂を提供するレストランを、この街のどこかで運営する。
それが私の裏の顔、、いや、本当の顔だった。
「なるほどねー、えぐいっていうか、アンタほんっとサイコってるね、、聞いてるだけでごちそうさま。で? そこから自分もやる側になったわけ?」
ルナが机にあごを乗せて、軽口をたたく。
彼女の目は冴えていた。ギャルの皮をかぶった化け物だ。見抜いている。
「そうだよ。初めは調理師に任せてた。
でもね、一度、自分の手で[味見]してしまったら、戻れなかった。あれはね、、世界が静かになる感覚だった」
話していて笑ってしまう。
取り調べ室なのに、どうしてこんなに心地よいんだろう。
私が最初に選んだのは、心から感謝していた執事だった。老人で、口うるさく、でも忠実な男。
「伊集院様、おやめください!」
懇願された。だが、私は彼の目を見て確信した。
人間の味は、その人の「恐怖」によって変わる。
そして、、初めて自分で「料理」した夜。
彼の叫びは、私の中に残る唯一の交響曲となった。
「何でわざわざ俺たちを招き入れ、捕まるような真似したんだ?」
戸川が眉をひそめる。
「退屈だったからさ」
即答だった。
「君たちなら、この[料理]の意味を少しは理解するかと思ってね。でも、やっぱり[凡人]か。
君たちの目は、[芸術]を犯罪と呼ぶ目だ」
私は立ち上がる。
だが、腰に繋がれた鎖が、カシャリと音を立てて止める。
「私の物語は、ここで終わらない。きっとまた始まる。食べられる側にも魂があるなら、喰う側にだって、哲学があっていいだろ?」
取り調べ室の空気が、ひとしきり静まり返った。
そしてルナが、にやりと笑った。
「……じゃあさ、次は[料理長]の名前、聞かせてもらおっかな」
私は笑う。ああ、いいよ。話してあげる。
でもその前に、、一杯の紅茶を、くれるかな?
取り調べ室の空気が、突如として粘ついた。
蛍光灯の明かりは同じはずなのに、世界が淡く歪んで見える。
「紅茶ねぇ。あるけど、、」
戸川が渋い顔をして紙コップを差し出す。
が、伊集院は首を振った。
「違う。君たちのは[飲料]だ。
私の言う紅茶とは、[儀式]のことだよ、、」
ゆっくりと顔を上げる。目が笑っていない。なのに、唇は笑っていた。
「その料理長の名かい? 彼はもういない。
、、あぁ、、正確に言えば、[私の中にいる]」
ルナのまなじりが鋭く動く。
「食ったの?仲間を?」
「ええ、とても丁寧に。心臓は丁寧に火を通して、脳は熱を加えすぎず、舌で愛撫するように。
彼の技術も癖も、私の中で息づいている」
「……アンタ、マジで正気じゃないね」
ルナが吐き捨てるように言うが、伊集院はにこやかに頷いた。
「正気? そんなものは、集団の都合で決まる幻想だよ。豚や牛は笑って食べるのに、、
私の中には、静かで澄んだ夜が広がってる。
ノコギリの音すら、子守唄に聞こえてるよ、、」
カツリ。
机の下で、何かが落ちた音がした。
ルナが警戒して身構える。伊集院の袖から、何か銀色の細工が滑り落ちていた。
小さな、骨のようなナイフ。
「クックック、、貴族の嗜みさ。自分の[解体]くらい、自分でやる主義なんだ」
「止めろ!」
戸川が立ち上がる。だがその刹那、伊集院はナイフを持った手を自分の胸元へ滑らせた。
けれど、その動きは予想外にゆっくりだった。
「ふふっ、安心したまえ。一突きでいくつもりはない。
ただ、少し開けるだけだ。最後の料理、、自分の心臓の味を知るためにね」
狂った、というにはあまりに整然としていた。
伊集院は、ゆっくりと自らの胸元を裂いた。
血がじわりと滲む。ルナも戸川も、制止しようと動くが、彼の手つきはあまりに静かで、何かを「完成」させようとする芸術家のそれだった。
「見たまえ、君たち。これが、[完全な孤独]の味だ。誰にも理解されず、ただ己だけが理解者である人生の、最後のスープ……!ふふっ、君たちにも飲ませてあげたかったな、、」
彼は笑っていた。涙を流しながら。
「私の体は、私が調理する。私の魂は、私が喰らう。この瞬間に、私という[作品]は完成するんだ!!」
その顔は、もう人間のものではなかった。泣き笑いの仮面を貼りつけた道化。狂気と論理の接点に咲いた、静かな火花だった。
警報が鳴り、医療班が取り調べ室に飛び込む。
血まみれの伊集院は、すでに自らの手を止めていた。
「、、やっぱり、君は[凡人]じゃなかったね、神代ルナ。君の目だけは、、ほんの少しだけ、[こっち側]だった。、、あぁ、美味、、」
そう言って、ゆっくりと瞼を閉じた。
笑ったまま。
後日。事件の報告書を提出したルナは、最後の余白にペンを走らせた。
「あの変態さ、マジで意味わかんないくらいイカれてた。でも、なんか、、全部計算ずくって感じでさ。たぶんあれ、あの人なりの[芸術]だったんだろーね。
てか正直、ちょっとだけ、あの[芸術]に共感しかけたあーしがヤバい。……でもまあ、ウチは[こっち側]に踏みとどまる主義だから。残念だったね、変態伊集院さん⭐︎」
そう書き終えた瞬間、どこからか紅茶の香りがした気がした。
あの狂気の、残り香のように。




