表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
短編集  作者: 星 見人
47/81

神代ルナ 伊集院を取り調べるってよ (ギャル警察)

見て頂きありがとうございます。作る励みになりますので、良かったらブックマークと評価よろしくお願いします。

今回は伊集院メインになりますが、ちょっと描写がグロいかもしれませんので、苦手な方はお控えください。


  殺風景な部屋。蛍光灯の音だけが天井でさざめいていた。


 長机を挟んで、俺の正面には神代ルナ。隣にはあの戸川刑事。

ふたりとも、まるで劇でも観るような目をしている。


そんな目じゃ、私の話は愉しめないよ。


「ねえ伊集院さん。そろそろ、話してくれる?」


 ルナの声が静かに、でも芯を持って響いた。


 「話すさ。私はね、クックック。

[嘘]を愛してる。だけど今だけは、正直でいてあげるよ」


 うすら笑いを浮かべ、カツ、と机の上で指を鳴らす。


 「はじまりは、あのレストランだ。

 君たちが見つけた、レビュー0件の店。

 私が『メニュー』だったんだ」



あの夜、厨房の奥にいたのは彼だった。

黒い帽子に真っ白なコック服。

客のふりをして入った俺に、彼は言った。


 『おや、伊集院様……ずいぶんと、貴族趣味がおありで』


わかっていた。いや、わからせた。

私はずっと、あの世界に足を踏み入れていたのだ。


 彼は[人肉の調理師]だった。だが彼は言った。


「本当に上等な肉は、悲鳴と絶望を味付けにせねばなりません。それが最高のスパイス、、」


私はそのとき思った。

あぁ、この世界にはまだ[美学]がある。

狂ってる? 違うね、これは[高尚]なんだ。


だから、私は彼と組んだ。

美しく調理された魂を提供するレストランを、この街のどこかで運営する。

それが私の裏の顔、、いや、本当の顔だった。



「なるほどねー、えぐいっていうか、アンタほんっとサイコってるね、、聞いてるだけでごちそうさま。で? そこから自分もやる側になったわけ?」


ルナが机にあごを乗せて、軽口をたたく。

彼女の目は冴えていた。ギャルの皮をかぶった化け物だ。見抜いている。


「そうだよ。初めは調理師に任せてた。

でもね、一度、自分の手で[味見]してしまったら、戻れなかった。あれはね、、世界が静かになる感覚だった」


話していて笑ってしまう。

取り調べ室なのに、どうしてこんなに心地よいんだろう。


 

私が最初に選んだのは、心から感謝していた執事だった。老人で、口うるさく、でも忠実な男。


 「伊集院様、おやめください!」


懇願された。だが、私は彼の目を見て確信した。

人間の味は、その人の「恐怖」によって変わる。


そして、、初めて自分で「料理」した夜。

彼の叫びは、私の中に残る唯一の交響曲となった。

 

「何でわざわざ俺たちを招き入れ、捕まるような真似したんだ?」


戸川が眉をひそめる。


「退屈だったからさ」


即答だった。


「君たちなら、この[料理]の意味を少しは理解するかと思ってね。でも、やっぱり[凡人]か。

君たちの目は、[芸術]を犯罪と呼ぶ目だ」


私は立ち上がる。

だが、腰に繋がれた鎖が、カシャリと音を立てて止める。


「私の物語は、ここで終わらない。きっとまた始まる。食べられる側にも魂があるなら、喰う側にだって、哲学があっていいだろ?」


取り調べ室の空気が、ひとしきり静まり返った。


そしてルナが、にやりと笑った。


「……じゃあさ、次は[料理長]の名前、聞かせてもらおっかな」


私は笑う。ああ、いいよ。話してあげる。


でもその前に、、一杯の紅茶を、くれるかな?


取り調べ室の空気が、突如として粘ついた。


蛍光灯の明かりは同じはずなのに、世界が淡く歪んで見える。


「紅茶ねぇ。あるけど、、」

戸川が渋い顔をして紙コップを差し出す。

が、伊集院は首を振った。


「違う。君たちのは[飲料]だ。

私の言う紅茶とは、[儀式]のことだよ、、」


ゆっくりと顔を上げる。目が笑っていない。なのに、唇は笑っていた。


「その料理長の名かい? 彼はもういない。

、、あぁ、、正確に言えば、[私の中にいる]」


ルナのまなじりが鋭く動く。


「食ったの?仲間を?」


「ええ、とても丁寧に。心臓は丁寧に火を通して、脳は熱を加えすぎず、舌で愛撫するように。

彼の技術も癖も、私の中で息づいている」


「……アンタ、マジで正気じゃないね」


ルナが吐き捨てるように言うが、伊集院はにこやかに頷いた。


「正気? そんなものは、集団の都合で決まる幻想だよ。豚や牛は笑って食べるのに、、

私の中には、静かで澄んだ夜が広がってる。

ノコギリの音すら、子守唄に聞こえてるよ、、」


カツリ。


机の下で、何かが落ちた音がした。


ルナが警戒して身構える。伊集院の袖から、何か銀色の細工が滑り落ちていた。


小さな、骨のようなナイフ。


「クックック、、貴族の嗜みさ。自分の[解体]くらい、自分でやる主義なんだ」


「止めろ!」


戸川が立ち上がる。だがその刹那、伊集院はナイフを持った手を自分の胸元へ滑らせた。


けれど、その動きは予想外にゆっくりだった。


「ふふっ、安心したまえ。一突きでいくつもりはない。

ただ、少し開けるだけだ。最後の料理、、自分の心臓の味を知るためにね」


狂った、というにはあまりに整然としていた。


伊集院は、ゆっくりと自らの胸元を裂いた。

血がじわりと滲む。ルナも戸川も、制止しようと動くが、彼の手つきはあまりに静かで、何かを「完成」させようとする芸術家のそれだった。


「見たまえ、君たち。これが、[完全な孤独]の味だ。誰にも理解されず、ただ己だけが理解者である人生の、最後のスープ……!ふふっ、君たちにも飲ませてあげたかったな、、」


彼は笑っていた。涙を流しながら。


「私の体は、私が調理する。私の魂は、私が喰らう。この瞬間に、私という[作品]は完成するんだ!!」



その顔は、もう人間のものではなかった。泣き笑いの仮面を貼りつけた道化。狂気と論理の接点に咲いた、静かな火花だった。


警報が鳴り、医療班が取り調べ室に飛び込む。


血まみれの伊集院は、すでに自らの手を止めていた。


「、、やっぱり、君は[凡人]じゃなかったね、神代ルナ。君の目だけは、、ほんの少しだけ、[こっち側]だった。、、あぁ、美味、、」


そう言って、ゆっくりと瞼を閉じた。


笑ったまま。


後日。事件の報告書を提出したルナは、最後の余白にペンを走らせた。


 

「あの変態さ、マジで意味わかんないくらいイカれてた。でも、なんか、、全部計算ずくって感じでさ。たぶんあれ、あの人なりの[芸術]だったんだろーね。


てか正直、ちょっとだけ、あの[芸術]に共感しかけたあーしがヤバい。……でもまあ、ウチは[こっち側]に踏みとどまる主義だから。残念だったね、変態伊集院さん⭐︎」


 

そう書き終えた瞬間、どこからか紅茶の香りがした気がした。


   あの狂気の、残り香のように。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ