神代ルナ レビュー0件レストランに行く2 (ギャル警察)
見て頂きありがとうございます。作る励みになりますので、良かったらブックマークと評価よろしくお願いします。
ルナはスプーンを手に取り、目の前の料理を少し見る。
、、が、口には運ばない。ただ、鼻先に近づけて、くん、と一度だけ香りを吸い込むと、スプーンを皿に戻した。
「すっごい匂い……ね、脳汁ドバドバ
ねぇ、これ、どんな出汁使ってるんすか〜?」
「おや……お口には合いませんでしたか?」
「いや、合うよ。絶対。でも、あーしさ、めっちゃ好奇心強くって、知りたいなぁ〜⭐︎素材のこと⭐︎」
伊集院は微笑んだまま軽くうなずく。
「ご安心ください。当店では、すべて厳選された自然の食材を——」
「自然って、何をもって自然なの?」
伊集院の言葉に、ルナがかぶせる。
軽い口調のまま、だが一拍遅れて空気が僅かに沈む。
「例えば、、[人が自然に消えた]場合、それは自然なことになるんすかね〜??」
伊集院の目がわずかに揺れた。
「ふふ……お客様は、ユニークな例えをなさる。ですが、ご心配なく。
当店にいらっしゃった方で、[消えた方]などおりませんよ」
「へえ? でもネットではさ、噂になってるよ?
レビューを書こうとしたらアカウントが凍結された
とか、店の場所が次の日には変わってたとか……ね?」
戸川が驚いたようにルナを見る。
「お前、いつの間にそんな、、」
「リサーチは当然っしょ。
ってか、都市伝説って、そーいうトコが面白いんじゃん⭐︎」
ルナは屈託のない笑みを浮かべたまま、伊集院に無邪気に訊ねた。
「ねえ、店長さん。そーいう話、知ってました?
[雨宵]って名前も、たぶんネットじゃ出てこないんじゃない?」
「ええ、まあ、、ご贔屓の皆様に、静かに愛していただければと思いまして……宣伝などは」
「でも、初来店の人間に[母親の味]を提供できるって、結構な情報力だよね〜?もしかして戸川ちゃんのストーカー??」
伊集院が少し口元を引き締めた。戸川も少し表情を変えた。
「ええ、それは我々のおもてなしですから、、」
「それってつまり〜、、[事前に調べてる]ってことだよね⭐︎?」
ルナは微笑んだまま、まるで無邪気な子どものように首を傾げた。
「ってことはさ。例えば、さっきのスープ。
[オフクロの味]がわかるぐらい、戸川先輩のプライベートを把握してるってことじゃん?
まさか、本当にストーカーとかしてないよね?」
伊集院の笑みが一瞬、固まる。
だが即座にほころび直し、軽く片手を上げた。
「いえいえ。すべては、お客様の心にあるものを感じ取る[おもてなし]です。
我々はただ、それに応えるだけ」
「へえ〜。じゃあお客様の心が恐怖だったら、それにも応えちゃうんだ〜??」
伊集院が答える前に、ルナはくるりとスプーンを回し、ストンと机に置いた。
「いやー、マっジで面白いっすね〜ここ⭐︎。
、、殺人事件の現場としては、ね⭐︎」
店内の空気が、音もなく凍りつく。
伊集院はもう笑っていない。ただ、目を細めて、静かに言った。
「お客様。……どうやら、[特別なご要望]のようですね?」
「うん、そう。あーしはレビュー0件のレストランっていう都市伝説の、オチが知りたいの〜よっ⭐︎」
で、それを止めたいの⭐︎」
ルナは立ち上がった。その瞬間、個室の外からカタン、と何かが落ちる音がした。
「……あ、来たかも」
彼女はチラリと戸川に目配せした。
「戸川ちゃん⭐︎厨房の中、調べてきて。
私はコイツの話、もうちょい引き出す」
戸川が立ち上がりかけた瞬間、伊集院の背後の壁がスッと開き、黒服の男たちが現れた。
「おや……[おかわり]の時間のようですね」
「うわ、ホントに出た!やっぱり都市伝説って、やばっ⭐︎」
ルナの笑顔は消えない。
だがその目は、冷静な計算で光っていた。
、、[都市伝説に挑む時は、先に真実を信じる]
それがルール。
あとは、相手が自分で喋りすぎるのを待つだけ。
「じゃ、改めて。ルナちゃんいただきます⭐︎」
ルナはそう言って、目の前の皿にようやく手をつけた。
それは、料理ではなく、、証拠だった。
戸川は素早く椅子を蹴り立ち上がると、黒服たちの間をすり抜けるようにして個室を飛び出した。
その背中を見送りながら、ルナはスッと立ち上がる。
「伊集院さん、さっき[おかわり]って言ったよね?」
黒服たちがじわりと包囲を狭めてくる。だがルナはまるで気にもとめない。
むしろ楽しげに目を輝かせていた。
「[おかわり]って誰が?てか、そもそも、何を?」
「、、お嬢さんには少々過ぎた興味だ」
「へぇ、じゃあさ。例えばこれって、[湊くん]のおかわり?」
ルナは懐からスマホを取り出し、画面を見せる。
そこには、先ほど彼女がさりげなく皿のスープを吸い取ったスポイトの写真と、その中身をこっそり別容器に移し替えた映像が映っていた。
「ねえ、これさっき抜いといたんだけど、成分調べたらどうなるのかな〜?
ちょっとワクワクしちゃわない??」
伊集院の瞳が、確実に揺れた。
「ふっ、、ずいぶんと回りくどい手をお使いになる。
だが、あなたはまだ何も証明していない。都市伝説に真実など存在しないのです」
「うん。でもね、私、都市伝説って嘘だと思ってたの。
でもこの店で[人が消える]って噂、あれ、嘘じゃない」
ルナはふっと笑った。
「だって、レビューって、証言でしょ?
それが一切残らないって、つまり、、証人がいないってこと。
ここで[おかわり]されちゃった人たちが、どうなるかって言えば、、、」
彼女は黒服たちに目もくれず、伊集院をまっすぐ見据えた。
「、、材料になる。それしかないじゃん?」
「、、口を慎みなさい。貴女は、まもなくデザートになる立場にあるのです」
伊集院の声に冷気が混じる。
そのとき、、厨房の奥から、金属が倒れる轟音と、戸川の怒鳴り声が響いた。
「ルナァッ!! これ……人骨だッ!!
しかも、冷蔵庫の中! 保存されてやがる!」
一瞬、黒服たちが動揺する。その隙を、ルナは見逃さない。
「うわ、ホントだった!やっぱここ、人間料理の店かよー!」
叫びながらも、彼女の指先は既に懐へ。
取り出したのは、ピンクにラメでデコったスプレー缶。
、、「防犯用」と書かれた、だが明らかに市販品ではない代物。
「都市伝説をあんま舐めんなし!」
シュッ!!
ルナの手から放たれた煙幕スプレーが黒服たちの視界を奪う。
同時に彼女はテーブルを蹴って壁際へと跳び下がる。
「伊集院さん、ホントにありがとう。
自白は録音済み、スープの成分は検査中、あと証拠の人骨も確保済み。
チェックメイトっすね〜⭐︎お疲れさまっした〜⭐︎」
伊集院が何かを叫ぶと、煙の中から飛び出してきた別の黒服がルナに突進する。
だが、その体は何かに引っかかるようにバランスを崩し、バタンと床へ倒れ込んだ。
「さっきそこのイス、わざと後ろにずらしといたんだ〜。引っかかってくれてサンキュ⭐︎!」
そのまま個室を飛び出したルナは、廊下を駆け抜けて戸川と合流する。
「全部録った!声も映像も、しっかりゲット!」
戸川は眉をしかめながらも頷く。
「人骨、全部で三体分だ。名前付きのタグもあった。[湊 竜司]ってのも、、」
「じゃ、事件成立だね。都市伝説じゃなくて、殺人事件。連続殺人、しかも計画的」
ルナは携帯の画面を開いて、「音声録音・送信」をタップした。
「警察の解析班にも、今データ送った。
あとは待機班の突入待ちっしょ⭐︎ルナちゃんやる〜〜⭐︎」
彼女は振り返ると、煙の向こうで叫ぶ伊集院の声を耳にしながら、軽くウィンクした。
「都市伝説で人が消える?、、んなわけないっしょ。
人が突然消える時、、それは、れっきとした殺人なんだよ、、」
と、ルナは静かに呟いた。
、、その瞬間、雨宵の扉が外から破られる音がした。
ついに[都市伝説]が、現実の犯罪として幕を下ろそうとしていた。
事件の翌週。
晴れた空が、どこまでも青い。
「おつかれ、ルナ」
喫茶店のテラス席で、戸川が湯気の立つカフェラテを差し出す。
ルナは頬杖をつきながら、スマホで何かを検索していた。
「戸川ちゃ〜ん、、レビュー、ゼロのまんまだよ。
[雨宵]って検索しても、どこにも出てこない。
閉店した記録も、逮捕のニュースも、なーんも」
「ったく、上も腰が重いよな。
証拠があっても、証人がいないんじゃ報道できねぇってよ。
骨も処理ミスって扱いでウヤムヤにされたしな、、」
「録音データも[ノイズ混入で不鮮明]、スープの成分も[分析不能]、、って、舐めとんかっ!」
「ねえ、戸川ちゃん、なんかさ、怖くない?
真実って、簡単に消されるんだよ」
「だな。だからって黙る気はねぇけどな」
戸川はルナの頭を軽くポンと叩いた。
「お前がいなかったら、俺も信じちゃいなかった。
、、ありがとうな」
「やだー⭐︎、戸川ちゃんたらやさすぃ〜。
そんなこと言ったら、あーし調子乗るよ?」
ルナはニッと笑って、カフェラテをすすった。
「でもさ、レビューがゼロでも、私らは見たよね。
あの店で、何があったか。何を[喰ってた]か。
人が、人を[いただきます]してたってこと、、」
「忘れねぇさ。……たぶんな」
「でしょうね⭐︎、一口食ってたし、、」
戸川は飲んでいたコーヒーをブッと吹き出した。
「あーしも忘れないよ。
だからまた、おんなじような奴が出てきたら、潰すだけ⭐︎」
スマホをしまい、ルナは空を見上げる。
「都市伝説って、消えないけどさ。
でも、戦えるじゃん。私ら警察って、そーゆー存在でしょ?」
「……らしくねえこと言うじゃねえか」
「でしょでしょ〜?
でも、たまには真面目モードも入れとこうと思ってさ。
そしたらさ、レビュー増えるかな〜って⭐︎」
「そりゃ無理だな」
戸川はそう言って、笑った。
テーブルの上には、何も書かれていない[レビューカード]が一枚だけ置かれていた。
誰かが残そうとした形跡の跡だけうっすら残って、、
確かに、彼らはそこにいた。
「んじゃ、次はどんな事件、潰しに行っちゃう⭐︎?」
「まーた変なの持ってきそうだな、お前は」
空の青さが、あの[雨宵]の夜と対照的に、やけにまぶしかった。
レビュー0件のレストラン事件。
それは、誰の記憶にも、記録にも残らなかった。
ただひとつ。二人の刑事を除いては。
終




