神代ルナ レビュー0件レストランに行く1 (ギャル警察)
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数日後の夕方。
都内某所、ファミレスの一角。
戸川はアイスコーヒーをかき混ぜながら、タブレット端末の画面をルナに見せた。
「……これが噂の[レビュー0件のレストラン]か」
「そ。ネットにも地図アプリにも載ってるのに、
だーれもレビューしてない。ブログにもSNSにも、ぜーんぜん」
「ありえんだろ。今どき飯食ったら、とりあえず誰か写真あげるだろ」
「でしょ〜? だから逆に、怖い怖い。場所も変わるんだって。この前は○○にあったのに〜って証言がいくつもある」
「……やっぱ都市伝説じゃねぇか」
「そーだよ? 都市伝説。けど、あーしはね、信じないの。
都市伝説で人が消える? んなわけないっしょ! これは殺人だよ!!」
ルナはストローをくわえながら、キッと目を細めた。
「殺人……って、お前、もう決めつけてんのかよ」
「うん、決めつけた。つーかもう見えてる。
消えた人の行動ログ、位置情報、最後にアクセスしたアプリ。全部パターンがある。
しかもそれ、ぜんぶ[意図的に消されてる]
端末に残るはずのログすら、痕跡ごと拭われてるの。人為的にね。人が消えるとき、そんな都合よくデータだけ消えるわけないじゃん?」
「……マジで異次元だなお前の頭」
「でしょ〜。だから一緒に来てね?」
「なんで俺が……」
「んふふ、それは戸川ちゃんが、あーしの保護者だからで〜す⭐︎⭐︎」
そう言ってウィンクするルナを前に、戸川は盛大にため息をついた。
「……わかったよ。ただし、現場でなんも起きなかったら、飯だけ食って帰るぞ」
「ううん、絶対起きるよ。てか、もう始まってる。
あの店の前で、次に誰が消えるか、、
それも、あーし、もう見当ついてるし」
、、その言葉の裏には、彼女なりの確信があった。
神代ルナにとって、[都市伝説]とは、ただの装飾でしかない。
その中に潜む論理。綻び。人間の欲。
それらを拾い上げて、現実の形に変えるのが、彼女のやり方だった。
翌日、日が暮れかけた頃。
ルナと戸川は、都内の寂れた裏通りにいた。
通勤帰りの人々が行き交う大通りから一本入っただけなのに、急に人気がなくなった路地。街灯の明かりはどれもどこか心もとない。
「……本当にあるのか? こんな場所にレストランなんて」
「ん〜、普通は思わないよね。でもさ、あったんだよ。昨日まで。ここに、確かに」
ルナは手に持ったスマホで地図アプリを開き、目の前のシャッターが降りた空き店舗を指差した。
「昨日の深夜ログ、ここにチェックインしてるデータがあった。投稿は残ってないけど、位置情報だけが生きてた」
「幽霊レストランかよ……まさか俺たち、心霊スポット探索に付き合わされてんじゃねぇだろうな?」
「ううん。違う。、、今日は、ここじゃないよ」
ルナはそう言って、くるりと踵を返し、路地のさらに奥へと進みだした。
戸川が小さく舌打ちしながらついていく。
ほどなくして、二人はある建物の前に立った。
古びた3階建ての雑居ビル。
1階には灯りがついている。看板には、こう書かれていた。
「DINING 雨宵」
「雨宵……?」
「うん、昨日までは[月影亭]だったらしいけどね。内装も店主もまるっと変わってるのに、登録情報だけは同じIDを使いまわしてるっぽい」
「店の名前まで変えるのかよ……そりゃレビューもつかねえわけだ」
「レビューつかないんじゃなくて、つけさせないんだよ。
投稿しようとしたやつ、みんな消えてる」
戸川は眉をひそめた。「……それ、比喩じゃねぇよな?」
ルナは笑わない。その代わり、ポケットから何かを取り出した。
名刺サイズのカード。
そこには、昨日行方不明になったというフード系インフルエンサー[湊]の名前があった。
「この人、3日前に[ここの飯、人生最高]って動画撮ったっぽい。でも未投稿。カメラも見つかってない。
そして最後にアプリで開いてたのが、、
[レビュー0件のレストラン]のページ。……戸川ちゃん、これって偶然?」
「……いや、偶然じゃねぇな」
「だよね〜。じゃあ、入ろっか⭐︎」
ルナがドアノブに手をかけた瞬間、、
「チリン」と、古びた風鈴のような音がした。
重いドアを押し開けると、そこには外観からは想像できないほど美しい内装が広がっていた。
柔らかい間接照明。漆黒の床。
カウンターには白い制服を着た男が一人、無言で立っていた。
「いらっしゃいませ。二名様ですね」
笑みを浮かべた店主は、どこかで見たことがあるような顔をしていた。
、、違和感が、確かにあった。
だが、それを言葉にできないまま、ルナは静かに一言、呟いた。
「……ここだ。間違いない」
店内は静かだった。音楽はかかっていない。にもかかわらず、空気にリズムのようなものがあった。
まるで、「もてなす」ことに特化した空間そのものが息づいているようだった。
「ご来店、誠にありがとうございます。DINING 雨宵、店主の伊集院と申します」
男は年齢不詳の柔らかな笑顔を浮かべ、丁寧に一礼した。髪は銀混じりだが艶があり、目の奥は底が知れない……そしてその笑顔は、記憶のどこにも該当しないのに、どこかで会った気がすると錯覚を誘うものだった。
戸川が警戒心を隠さず周囲を見渡す中、ルナは無言で店内を観察していた。
「こちらのお席へどうぞ」
店主が指し示したのは、奥の個室だった。
暖簾をくぐると、和と洋が絶妙に混ざり合った、まるで高級旅館のような空間。
「うお、こんなとこ、どうやって維持してんだ……?」
「贅沢は、記憶に残りますから」
ふと、店主の目がルナをとらえた。笑みは崩れない。
「当店はコース料理のみのご用意でございます。
本日は[特別なコース]をご用意しております。
お客様の、、お好みは、全て把握しておりますので」
「把握、って……予約してないよ?な?」
戸川が言うと、店主はまるで質問の意味がわからないかのように、少し首をかしげた。
「ええ、だからこそ、です。こちらのお客様は、例えば、、」
そう言って、店主はルナの前にメニューらしきものを置いた。
だが、紙には何も書かれていない。
「、、白紙?」
「お客様の空腹に、合わせてご提供いたします。
言葉にせずとも、心に浮かべた料理が届く……そんな体験を、お楽しみいただければと」
戸川が小さく笑った。
「そんな都合のいい話が、、」
だが、彼の目の前に、いつの間にかスープ皿が置かれていた。
香りは、懐かしい鶏ガラの香り。色は、母の味噌汁に似た色合い。そして、、
「、、これ、オフクロの味だ」
一口、啜ると戸川の目が見開かれた。
「嘘だろ……何でこれが……」
「お腹が空いたときに、一番思い出す味を、こちらでご用意いたしました」
静かな声でそう告げる店主。
だがルナは、口元に笑みを浮かべつつも、眼だけが冷たかった。
「あーあ、、戸川ちゃん食べちゃった……ウケる」
と、呟いた後
「レビューが、つかないわけだね。うん、
美味しすぎて、、誰も帰れないって言いたいワケ?」
店主は微笑んだまま、何も言わない。
その沈黙に、答えが含まれていた。
「都市伝説で、人が消える?んなわけないっしょ。
、、これは、殺人だよ」
ルナの言葉が、空気を鋭く裂いた。
戸川が箸を止め、店主が一瞬だけまばたきする。
その刹那、まるで舞台の幕がわずかに揺れたかのように、空間の裏側が見えた気がした。
「……さぁ、幕は上がったよ、伊集院さん⭐︎。
あーしの一皿目は、[真相]ってことでいいよね?」
ルナは微笑んだまま、まだ何も口にしていない皿の前に、指を伸ばした。
続




