レビュー0件レストランに行ってみたら帰れなくなった話し2 (不気味)
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メインディッシュが運ばれてきた。
それは湊を驚かせるほど、他の料理と比べて異質な印象を与えた。
器は黒一色のシンプルな皿。
だが、その上に載せられていたのは、、、
まるで自分自身を模したかのような、小さなフィギュアだった。
「えっ、、これ、俺?」
湊は思わず目を細めた。
その小さな人形は、確かに自分に似ていた。
身に着けている服も、髪型も、何もかも。
だが、違うのはその表情だった。
目が空洞のように見開かれ、口元には薄らと笑みが浮かんでいる。それが、どこか不気味なものを湊に感じさせた。
「、、まさか、冗談だろ?」
湊はカメラをじっと見つめ、顔をしかめた。
自分に似た人形が置かれているシーンは、視聴者がどんな反応を示すか気になるところだが、その前に、、
その料理を食べる前に、少しだけ考え直すべきだったかもしれない。
だが、湊はその考えをすぐに振り払う。
冷静になろう。
「それじゃあ、いただきます」
手を伸ばしてフォークを取る。
その時、湊は再び背筋に走る寒気を感じた。
カメラのモニターに映るのは、まるでこちらをじっと見ているかのようなフィギュアだった。
「いや、目の錯覚だ。そんなわけがない」
と、自分に言い聞かせる。
だが、その瞬間、湊は無意識にフィギュアに触れていた。
手のひらを滑らせると、なんとも言えない感触が指先に伝わる。
それは、確かに「食べ物」のような感触ではなかった。
人形のような感触、それも生きているような、、
「っ!」
湊は手を引っ込め、急に冷静さを取り戻す。
深呼吸をして、意識を再び整えた。
ただの錯覚だ。カメラが映せば、それがどんなネタになるかと考えていたから、余計に神経が過敏になっていただけだろう。
だが、肝心の料理は、どうにも不気味な存在感を放っていた。
「おい、これ……」
湊は悩みながらも、思い切ってそれを口に運ぶ。
一口食べて、湊は今まで感じたことのない深い味わいに圧倒される。
舌の上に広がるのは、想像を絶する美味しさ、、
と同時に、どこか「不安定」な感じがした。
それは食材そのものの味わいというより、
全体的に「自分が食べているものが、何かおかしい」という感覚を引き起こしていた。
「、、これ、なんだ?」
湊は意識的にその味を食べ続けている自分を再確認しようとしたが、口の中でその味が消え去ることはなかった。
いくら噛んでも、舌を動かしても、その味は消えなかった。
まるで、「食べること自体が間違っている」という感覚が湊を支配し始めた。
湊は再び、自分に言い聞かせた。
「いや、絶対に食レポには使える。こんな異常な美味さ、どこでも見ないぞ」
だが、食べ終わってもなお、湊の中には不安と恐怖が広がっていた。
どうしても、この店と料理が、まともでないように感じてならなかった。
どこかで、それがただの料理ではなく、何かの証のように思えて仕方なかった。
そんな湊を見透かすように、店主がやってきた。
「お客様、次はデザートでございます」
その声は穏やかで、何も変わったことはない。
しかし、その微笑みの裏には、なにか含みがあるような気がしてならなかった。
「、、ありがとう、でもちょっと待って」
湊は急にその言葉が口から出てきた。
「ご感想は、、?」
店主の目が、ふと湊を見つめる。
「お客様、感想を声に出しては……」
「いや、でも……」
湊は言葉に詰まりながらも、思わず口を開けて言いかけた。
「この料理、最高だと思うよ。こんな味、今まで食べたことない。正直、かなりヤバい……!」
店主が微笑む。
「ありがとうございます。あなたは0件目のレビュー、です。」
その言葉を聞いた瞬間、湊はその意味が分からなかった。
でも、同時に胸の奥に、冷たい何かが広がるのを感じた。
その一瞬、湊は目の前の料理を見つめ、改めて思った。
何かが、確実におかしい、、
すると湊の目の前に、新たな料理が運ばれてきた。
だが、その料理の姿は、湊がこれまで見てきたものとはまるで異なっていた。
黒い皿の上に載せられていたのは、小さな観葉植物だった。
「……これ、まさか」
湊は思わず口をつぐんだ。
観葉植物は、まるで生きているかのように青々とした葉を広げている。
その細かな葉脈までが、湊にとっては異様にリアルに感じられた。
「いったい、これがどういう……?」
湊は目を凝らし、その観葉植物に手を伸ばそうとした。
だが、その瞬間、カメラが突然映り込むように、湊はピタリと手を止めた。
何かが自分を引き戻す。
カメラの前でやるべきことは、決して口に出すことではないという強迫観念が湊を支配していた。
カメラを通して見たその観葉植物は、湊にはすでに不気味に感じられていた。
それは、どこかで見たことがあるような気がしてならなかった。
「……これ、何かの伏線?」
湊は無意識にその言葉を口に出した。
だが、それを聞いた店主の顔が、にこやかに崩れた。
「お客様、いえ、これはただの料理です」
「でも……」
その瞬間、湊は何かに気付いた。
店内の空気が、徐々に変わり始めているのだ。
その変化を肌で感じ取った湊は、急に頭の中が冴え渡った。
湊の目の前で、店主が微笑みながらその観葉植物を掴み、何も言わずに湊に差し出す。
「お客様、どうぞ。お口に含んでください」
「なに、、?」
湊は疑念を抱きながらも、観葉植物を口に含んだ。
その瞬間、何かが 動いた。
それは、ただの植物ではなく、湊の舌の上で動き出した。
その感覚は、まるで何かが自分の体内に入り込んできたかのようだった。
葉が少しずつほつれていき、湊はその動きに一瞬驚き、目を見開く。
「何だ、これは!」
湊は息を呑み、その口の中で奇妙な物体が動くのを感じた。
まるでその観葉植物が、湊の体内に潜り込んでいくようだった。
だが、湊はそのことに恐怖を覚え、何とかその植物を吐き出そうとした。
だが、その瞬間、店主の低い声が響いた。
「ご安心ください。今、あなたはこの店の一部となったのです」
その言葉に湊は震え上がった。
もう、逃げることはできない。
目の前が真っ暗になる中、湊はその異常さに気付き、ようやく理解した。
店に来た客は、[すでに一度、料理として]消費されているのだ。
その人間が[料理]として消費された後、その体は店の一部となり、皿や観葉植物として再利用される。
湊の目の前で見た不気味なフィギュア、そして観葉植物、、、
それらは、すでに過去に来た客たちの姿であり、今もなお生きているかのように振る舞っていた。
湊が必死に自分の体を動かそうとするが、力が入らず動けない。
その手のひらが、急に冷たくなり、指が固まっていく。
やがて彼の体は、無情にも皿の上に落ち着いた。
すべてが終わった瞬間、店主が静かに湊を見下ろす。
「美味しい料理に感謝を」
店主は微笑みながら、湊をそのまま皿の中に押し込んだ。
湊の体は、その皿の中で、まるで他の観葉植物や食器と同じように、 店のインテリアの一部として静かに息を潜めた。
店主は静かに[湊]を押し込んだ皿を洗いながら
鼻歌を歌っていた。
すると、また扉がギィっと音を立てた。
店主は笑顔で
「いらっしゃいませ。ご予約の、、、様ですね、
お待ちしておりました、、」
終




