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短編集  作者: 星 見人
31/81

超人 篠原(仮)2 (ヒーロー)

見て頂きありがとうございます。作る励みになりますので、良かったらブックマークと評価よろしくお願いします。


  時間を止めたまま、煙の中を歩く。

爆発が起きたビルの近くは、静止したままの瓦礫が宙に浮かび、火花だけが凍ったように揺れている。

まるで3Dで作られた炎の彫刻だ。


 彼は、焦げた空気の中を歩きながら、ひとりごとを漏らす。


「これが世界を救えって言われてる奴のやることか。こんなん、誰が毎日やりたいと思うんだか、、」


ビルの裏路地、彼は一人の男を見つけた。

爆弾のスイッチを持っていた。目の前には意識を失った若い女性。

どう見ても、自作自演の人質テロ。


犯人の顔には、どこかで見たような歪んだ笑みが張りついていた。


「あー……なるほど。こいつ、前にニュースで見たな。性犯罪で不起訴になったやつだ」


篠原は立ち尽くす。

時間を止めている以上、全ては彼の手に委ねられている。


 助ける?

 止める?

 放っておく?


選べる。今だけは、絶対に。


ポケットからスマホを出す。検索してみる。

「○○ 無罪」「不起訴 理由」

知ってしまった。

コネと金で揉み消された事件の数々。


篠原の拳が、ほんの少し震える。



「もし俺がヒーローだったら、こいつを縛って、通報して、正義の裁きに委ねる、、とか言うんだろうな」


そう言いながら、ため息をつく。


「でもさ、正義って、、人って、そんなに信用できるもんか?」


彼はゆっくり歩み寄る。

止まった犯人の頬に手をかける。

力を加えれば、首の骨くらい簡単に砕けるだろう。


その瞬間、脳裏に浮かんだのは、、犬の目だった。

何も言わず、逃げるように去っていった

あの白い小さな命。


ため息混じりに手を離し、犯人を軽く蹴り飛ばし、

ズボンとパンツを脱がして倒した。


スイッチを壊し、女性を安全な場所へ運び、最後にひとことつぶやいた。


「、、まだ[俺じゃない誰か]になれるか、試してみる」



時間を戻す。

爆発の直前、ビルの裏で犯人が転倒、スイッチが壊れ、不発。

女性は無事保護された。

だが、奇跡はまた、偶然として処理された。


ニュースキャスターが、笑顔で言った。


「神様がいるとしか思えませんね!」


篠原はテレビを消した。


「違うよ。神様はもっとヒマ人だろ。俺みたいに、残業明けに人助けとかしねぇから」



その夜。

暗い部屋の中、彼は鏡を見つめていた。


自分の顔を。自分の目を。自分の、形を。


「……誰かを救っても、誰にも気づかれない。

 誰かを裁いても、正義にはならない。

 だったら、どこまでが、俺のままでいていいんだろうな」


そのとき、スマホが光った。

非通知設定の着信。


取ると、あの女エージェントの声がした。


「篠原直樹。君の動きが世界中にバレた。

君が知らないうちに、もう神話になり始めてる」


「、、だから何?」


「世界が君に名前をつけようとしてる。[救世主]か、[怪物]か。選ぶのは、君だ」


しばしの沈黙のあと、彼は静かに答えた。


「もう少しだけ、考えさせてくれ。人間らしさってやつを」



週明け、職場の休憩室。

同僚たちの話題は相変わらず、奇跡の正体だった。


「やっぱさ、政府が隠してんじゃね?タイムストッパーとかいう超人」


「SNSで解析してるやついたよ。助けられた場所の傾向とか、白い犬が近くにいる説とか」


「お前、、それポケモンの都市伝説と混ざってない?」


 篠原は、湯を注いだカップ麺のフタを見ながら、心の中でつぶやいた。


(、、ラーメンの待ち時間に世界を救っても、誰もありがとうって言わないのな)



だがその日、職場に一本の電話がかかってきた。

それは彼の上司。

課長が、なぜか血相を変えて戻ってきたことで発覚する。


「篠原……お前、最近どこかで、変なことに巻き込まれてないか?」


「変なことって、、? 昼休みにファミマの新しいカップラーメンにチャレンジしたぐらいですけど、、」


課長は無視して言う。


「変な男が訪ねてきた。お前の力を証明しろって。

写真を持ってた。子供の事故現場、時間が止まった瞬間の映像だ」


 篠原は一瞬、内心で警鐘が鳴るのを感じた。


「んで、、そのパパラッチ君は?」


「追い返したが、、また来るって。しかも、知ってるぞ。お前には弱点があるとも、、」


その言葉に、冷や汗がにじむ。


弱点、、この俺に、、?この力に?

いや、違う。これは脅しだ。



帰り道、いつもより早めに退社した彼は、

駅前の人混みの中で違和感を感じる。

何人か、明らかに視線を向けてくる男たちがいる。


記者か? それとも……あの組織?


(くそ……面倒くせぇ)


そのとき、不意に耳に飛び込んできた声があった。


「ねぇ、あれ?、、篠原さんじゃない?」


声の主は、職場の後輩・木下だった。

無邪気な笑顔と、手には焼き鳥の袋。


「もしかして、こっち帰り? 一緒に駅まで、、」


その瞬間、後ろから何かが飛んできた。

ビンか?投げられた? 違う、爆竹だっ!


木下の足元で爆音が響き、辺りが騒然となる。


「危ない!」


、、、  止めた。世界を。反射的に。


木下を抱きかかえ、爆竹を投げた男の顔を見る。

マスク。サングラス。手にはスマホ。撮影中だった。


「、、SNS用の炎上動画か」


腹の底から何かが込み上げた。



夜の自室。カーテンを閉め、照明を落とし

テレビもスマホもつけない。


彼はソファに沈んだまま、口を開く。


「誰も救ってくれなんて言ってないのに、救えば追いかけられる。誰も殺してくれなんて言ってないのに、狙われる」


握った拳が、革張りの肘掛けをミシッとへこませた。


「救世主ってのは、人間が勝手に作って、勝手に燃やすための薪なんだろ」



そしてその夜、彼の部屋に封筒が投げ込まれる。

中には一枚の写真。


木下。部屋で笑いながら電話している姿。

裏には、マジックで殴り書きされた文字。


「お前の[選択]を見てる。次に沈むのは、身近な誰かだ」


 篠原は、その紙を握りつぶす。


「選択、ね、、なら、こっちから提示しようか」


ソファから立ち上がる。

初めて、自分の足で動く決意を持って。



 そして翌朝。

篠原の自宅の郵便受けには、一通の封書が投函されていた。


差出人:不明

内容:ただ一言、、


「あなたはヒーローではなく、審判者である。裁け」




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