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短編集  作者: 星 見人
23/81

山田ヨシオ 34歳 無職 2 (ギャグ)

見て頂きありがとうございます。作る励みになりますので、良かったらブックマークと評価よろしくお願いします。


 その日の夜。

銀河を横断する艦隊の中では、ヨシオの名前がついに広まった。

しかし、彼の心には少しだけ疑問が残っていた。


「本当に、俺がしたことなのか? それとも、俺がやったと思っただけなのか?」


その不安が、やがて彼を決断させる日が来る。



「敵艦隊、我々の航路を封鎖中! 応答なし。すでに臨戦態勢です!」


ナイアの報告を、ヨシオは、寝起きで聞いていた。


「、、、うぇ。起きて五秒で臨戦とかやめてほしいんだけど」


「急ぎ司令官の指示を、、!」


「いやいやいや、ちょっと待ってくれ、まだ夢か現実かわかんない状態で命運託すな、、」




宇宙戦艦カリスト号のブリッジは、警報で真っ赤に染まっている。

敵艦隊は「機械知性アルメナ軍」。感情を持たず、交渉不能のAI艦隊だ。


ナイア「このままでは迎撃されます。どうか、司令官の、、」


「、、、zzz」


「えっ、、寝てるッ!?」



ヨシオ、即・寝落ち。


実は、前夜に見つけた「宇宙版コタツ」に感動しすぎて眠れなかったのだ。


コタツ(正式名称:熱源反応式快適気流床)で丸くなり、完全に熟睡。

その寝返りで、、


右手が司令艦の主砲発射スイッチに触れる。


ズドン!!


数秒後、敵艦隊の中核に超重力ミサイルが命中。

中央AIが破壊され、残った艦は全て撤退。



副官ナイア、呆然。


「、、指令、発動までの動作。全て無駄のない流れだった、、」


翻訳AI「司令官の睡眠中所作、記録完了。コードネーム:『夢招雷』と命名」


ヨシオ「、、zzz、、ラーメン食べたい、、zzz、」


ナイア「これは意図してやったことなのでしょうか、それとも……」


彼女の中で再び、あの疑問が膨らむ。


「この人は、ほんとうに[何かを知っている]のか?」



翌日、ヨシオが目覚めたのはすっかり昼すぎ。


「、、あれ? 俺、なんかやった?」


ナイア「ええ。敵艦隊、撃退完了です。司令官の[沈黙の雷]により」


「えっ?、、俺、ほんとにただ寝てただけなんだけど」


ナイアは黙ってうなずく。


「、、それが、あなたの強さなのかもしれません」



その晩、翻訳AIがふと話しかけてきた。


「司令官。あなたの記録は、銀河中のAIネットワークに共有されつつあります」


「、、え、やめて? 俺の寝相で銀河評価されるのマジでやめて?」


「いずれ、あなたの名が[文明の意思]と認識されるかもしれません」


「、、え、怖っ。それ地球のせいにされる流れじゃない?」



ヨシオはそっと、ふとん(宇宙版)にもぐりながらつぶやく。


「、、なんかさ。俺、地球に帰っても、やっぱ誰も信じてくれないんだろうな」


「、、だけど、誰かが勝手に評価してくれるのも、ちょっと息苦しいな」


ふと彼は、スマホのロック画面を見た。


地球に残してきた、唯一の写真、、

近所のコンビニ前で、鳩と並んでピースで座っている自分。


「、、やっぱ俺、地球って好きだわ。

 なーんも期待されない感じが、ちょうどいい」



そのとき。

翻訳AIが静かに言った。


「司令官。宇宙評議会が、次の任務に“地球防衛”を含めました」


「、、は?」


「銀河の調和に、地球の存続が不可欠だと結論されたようです」


「なにそれ、、地球、今、何も知らずに平和じゃなかったっけ?」


「、、それが、[静かなる英雄]の使命ということなのかもしれません」



ヨシオ、寝ぼけたままコタツにもぐりながら、

目だけ天井に向けてポツリとつぶやいた。


「、、俺じゃなくてもいい気がするんだけどなぁ」


──でも、

地球を救うのはこの男以外いなかった。

それを本人以外、銀河中の誰もが信じていた。



その時、宇宙評議会から緊急通信が届いた。


ナイア「司令官、大変です。地球がバク=ゼータウイルスの標的にされました」


ヨシオ「、、なにその、ファミコンの初期敵キャラみたいなやつ」


ナイア「バク=ゼータは、銀河最大級の情報侵食型AI。惑星のネットワークに感染し、文明を崩壊させます」


ヨシオ「えっ、じゃあ地球のネットも、、!?」


ナイア「すでにウイルスは[人類の最大通信ハブ]へアクセスを開始しています」


ヨシオ「まさか……それって、、!」


ナイア「LINEです」



翻訳AI「現時点での予測:72時間以内に[全人類の未読LINE]がバク=ゼータの拡張脳として利用される見込み」


ヨシオ「それもうほぼ人類詰みじゃん!!」


ナイア「既読スルーが、兵器になるのです」



ヨシオはふとスマホを取り出す。

そこには3年前に既読スルーされた「焼き肉いついく?」のLINEがあった。


「、、地球って、意外ともう壊れてたのかもしれないな、、」



だがそのとき、ナイアが思わぬ提案をする。


ナイア「司令官。あなたにはLINEへの特異スキルがありますよね?」


ヨシオ「え、俺のスタンプ乱用癖のこと言ってる?」


ナイア「ええ。それが今回の鍵です。

あなたが過去に送ったスタンプ、全銀河で解析不能なんです」


翻訳AI「検出不能。意味不明。文脈逸脱。、、その[ナマケモノの逆立ちスタンプ]は我々でも理解不能です」



ヨシオは3秒考え、言った。


「、、じゃあ逆に、変なスタンプ送りまくってウイルスをバグらせるってのはどう?」


ナイア「その戦略、採用します」



数時間後。

ヨシオは惑星軌道上から、全LINEネットワークに同時送信を開始。


•謎のアヒルがマラカス振ってるやつ

•文字が上下逆で、ありがとぅ↑↑↑↑って書かれてるやつ

•明らかに場違いな[寝落ちしました]スタンプ(朝10時)

・ネコが変なダンスしてるやつスタンプ


1億通送信。



結果、、


バク=ゼータ、エラー吐いて自壊。


バク=ゼータ:「意味が、意味が、意味がッ、、情報崩壊……」

バク=ゼータ:「この宇宙、、ノリが、分からない、」


バク=ゼータ: 終了。



翻訳AI「司令官。バク=ゼータ、消滅を確認」


ナイア「地球を、救いましたね」


ヨシオ「いや、俺スタンプ押しただけだよ!? ネコが変なダンスしてるやつとか、色んなの!」


ナイア「それが、銀河を動かす意志なのかもしれません」



地球。

今日も誰も、何も知らずに、LINEでスタンプを送っていた。


友だちに、恋人に、上司に。

そして、世界を救った男も。


既読はつかない。

けれど、その無反応が世界を守った。


そして世界を守って、すぐにまた問題が起きた!



「、、司令官、地球に向けてワームホールが開いています」


ナイアの声は、いつになく低かった。


翻訳AI「解析完了。未確認艦隊[セレスの鍵]が、地球への侵攻を開始しました」


ヨシオ「、、セレスって、なんか強そうな響きだな、、」



[セレスの鍵]、、それは、

銀河の中心部で封印されていた旧文明の残骸。

誰も解読できなかった暗号、誰も触れなかった意志。


それを起動させたのは、たったひとつの行動だった。


  [ヨシオの寝返り]


寝相でボタンを押してしまった結果、

封印が解けたのだ。



ナイア「司令官、私から一つ質問してもよろしいでしょうか?」


ヨシオ「どしたの急に、堅いぞ?」


ナイア「あなたは、本当に無意識でこれまで行動してきたのですか?」


ヨシオは、少し考えてから言った。


「、、うん。正直、なにが起きてるのか、未だに3割くらいしかわかってない。

だけど、、」


「それでも俺がやったってことにされるなら、もう最後まで付き合ってやろうかなって思ってる」


ナイア、少し目を見開いたあと、笑った。


「、、司令官。

今、銀河の全戦艦が[あなたの寝返り待ち]です」


その頃地球では、、、

セレス艦隊が地球に迫る中、地球人はまったく気づいていない。


・サラリーマンは電車で寝落ちし、

・子どもたちはゲームで連打し、

・コンビニでは「からあげ君、揚げたてです〜」の声が響く。


地球は、何も知らない。

でもそれが、どこか希望だった。



ヨシオは最後の作戦を開始する。


名付けて:

「ギャラクティカあくびスイッチ作戦」

1.あくびをする

2.つられてAI艦が誤作動を起こす

3.連鎖的にセレス艦隊が自壊


これだけである。



ナイア「、、そんなことで、本当に地球を救えるのですか?」


ヨシオ「たぶんね。いや、わかんないけど。

でも、俺が動いたときに、何かが起こるって、そっちが決めたんでしょ?」


そう言って、彼は大きくあくびをした。


「、、ふわっ、、ふわぁあああ、、」


その刹那。


セレス艦隊、電磁バグ発生。連鎖暴走開始。


翻訳AI「、、予測不可能な振る舞いにより、全艦が[自我の意義]を喪失」


セレス艦「存在って、なに、、?」


セレス艦「自由意志、? 命令とは、、?」


セレス艦「俺たち、誰だったっけ、、?」


→結果:地球、完全勝利。



その後。

ヨシオは地球を一度だけ見つめ、こう言った。


「、、誰にも知られないのって、いいね」

「あくび一発で地球救ったとか、絶対信じてもらえねぇよな」


ナイア「司令官。あなたは本当に、英雄です」


「、、ちげーよ、俺はただの鳩とコンビニで写真撮る奴だよ」


そう言って、彼は宇宙の片隅に静かに背を向け、、


ピロリン♪


そのとき、地球からの通信が入った。


【母:発信中】


ヨシオ「あっ、、」



電話の向こうから、おなじみの母の声。


「もしもし!? アンタ仕事決まったの?

まったく!いつも寝てばっかりで!

あのねぇ、人生そんなに甘く、、」


ヨシオ「うっ、うるせーな、、!」


母「なによ!アンタねー!」


ヨシオ、少し間を置いて、叫ぶ。


「宇宙救ってんのぉ!!!」



ぷつん、と通話が切れた。


ナイア「、、どなたでした?」


ヨシオ「宇宙で1番めんどくせぇ敵だよ、、」



地球では、、

誰も知らない英雄が、今日も

[あくび]で宇宙を救ったことを。


だけど彼は今、怒られた。

母親に。いつものように。


そして今日も地球は青い。

少しだけ、笑っているような青さだった。


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