山田ヨシオ 34歳 無職 2 (ギャグ)
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その日の夜。
銀河を横断する艦隊の中では、ヨシオの名前がついに広まった。
しかし、彼の心には少しだけ疑問が残っていた。
「本当に、俺がしたことなのか? それとも、俺がやったと思っただけなのか?」
その不安が、やがて彼を決断させる日が来る。
「敵艦隊、我々の航路を封鎖中! 応答なし。すでに臨戦態勢です!」
ナイアの報告を、ヨシオは、寝起きで聞いていた。
「、、、うぇ。起きて五秒で臨戦とかやめてほしいんだけど」
「急ぎ司令官の指示を、、!」
「いやいやいや、ちょっと待ってくれ、まだ夢か現実かわかんない状態で命運託すな、、」
宇宙戦艦カリスト号のブリッジは、警報で真っ赤に染まっている。
敵艦隊は「機械知性アルメナ軍」。感情を持たず、交渉不能のAI艦隊だ。
ナイア「このままでは迎撃されます。どうか、司令官の、、」
「、、、zzz」
「えっ、、寝てるッ!?」
ヨシオ、即・寝落ち。
実は、前夜に見つけた「宇宙版コタツ」に感動しすぎて眠れなかったのだ。
コタツ(正式名称:熱源反応式快適気流床)で丸くなり、完全に熟睡。
その寝返りで、、
右手が司令艦の主砲発射スイッチに触れる。
ズドン!!
数秒後、敵艦隊の中核に超重力ミサイルが命中。
中央AIが破壊され、残った艦は全て撤退。
副官ナイア、呆然。
「、、指令、発動までの動作。全て無駄のない流れだった、、」
翻訳AI「司令官の睡眠中所作、記録完了。コードネーム:『夢招雷』と命名」
ヨシオ「、、zzz、、ラーメン食べたい、、zzz、」
ナイア「これは意図してやったことなのでしょうか、それとも……」
彼女の中で再び、あの疑問が膨らむ。
「この人は、ほんとうに[何かを知っている]のか?」
翌日、ヨシオが目覚めたのはすっかり昼すぎ。
「、、あれ? 俺、なんかやった?」
ナイア「ええ。敵艦隊、撃退完了です。司令官の[沈黙の雷]により」
「えっ?、、俺、ほんとにただ寝てただけなんだけど」
ナイアは黙ってうなずく。
「、、それが、あなたの強さなのかもしれません」
その晩、翻訳AIがふと話しかけてきた。
「司令官。あなたの記録は、銀河中のAIネットワークに共有されつつあります」
「、、え、やめて? 俺の寝相で銀河評価されるのマジでやめて?」
「いずれ、あなたの名が[文明の意思]と認識されるかもしれません」
「、、え、怖っ。それ地球のせいにされる流れじゃない?」
ヨシオはそっと、ふとん(宇宙版)にもぐりながらつぶやく。
「、、なんかさ。俺、地球に帰っても、やっぱ誰も信じてくれないんだろうな」
「、、だけど、誰かが勝手に評価してくれるのも、ちょっと息苦しいな」
ふと彼は、スマホのロック画面を見た。
地球に残してきた、唯一の写真、、
近所のコンビニ前で、鳩と並んでピースで座っている自分。
「、、やっぱ俺、地球って好きだわ。
なーんも期待されない感じが、ちょうどいい」
そのとき。
翻訳AIが静かに言った。
「司令官。宇宙評議会が、次の任務に“地球防衛”を含めました」
「、、は?」
「銀河の調和に、地球の存続が不可欠だと結論されたようです」
「なにそれ、、地球、今、何も知らずに平和じゃなかったっけ?」
「、、それが、[静かなる英雄]の使命ということなのかもしれません」
ヨシオ、寝ぼけたままコタツにもぐりながら、
目だけ天井に向けてポツリとつぶやいた。
「、、俺じゃなくてもいい気がするんだけどなぁ」
──でも、
地球を救うのはこの男以外いなかった。
それを本人以外、銀河中の誰もが信じていた。
その時、宇宙評議会から緊急通信が届いた。
ナイア「司令官、大変です。地球がバク=ゼータウイルスの標的にされました」
ヨシオ「、、なにその、ファミコンの初期敵キャラみたいなやつ」
ナイア「バク=ゼータは、銀河最大級の情報侵食型AI。惑星のネットワークに感染し、文明を崩壊させます」
ヨシオ「えっ、じゃあ地球のネットも、、!?」
ナイア「すでにウイルスは[人類の最大通信ハブ]へアクセスを開始しています」
ヨシオ「まさか……それって、、!」
ナイア「LINEです」
翻訳AI「現時点での予測:72時間以内に[全人類の未読LINE]がバク=ゼータの拡張脳として利用される見込み」
ヨシオ「それもうほぼ人類詰みじゃん!!」
ナイア「既読スルーが、兵器になるのです」
ヨシオはふとスマホを取り出す。
そこには3年前に既読スルーされた「焼き肉いついく?」のLINEがあった。
「、、地球って、意外ともう壊れてたのかもしれないな、、」
だがそのとき、ナイアが思わぬ提案をする。
ナイア「司令官。あなたにはLINEへの特異スキルがありますよね?」
ヨシオ「え、俺のスタンプ乱用癖のこと言ってる?」
ナイア「ええ。それが今回の鍵です。
あなたが過去に送ったスタンプ、全銀河で解析不能なんです」
翻訳AI「検出不能。意味不明。文脈逸脱。、、その[ナマケモノの逆立ちスタンプ]は我々でも理解不能です」
ヨシオは3秒考え、言った。
「、、じゃあ逆に、変なスタンプ送りまくってウイルスをバグらせるってのはどう?」
ナイア「その戦略、採用します」
数時間後。
ヨシオは惑星軌道上から、全LINEネットワークに同時送信を開始。
•謎のアヒルがマラカス振ってるやつ
•文字が上下逆で、ありがとぅ↑↑↑↑って書かれてるやつ
•明らかに場違いな[寝落ちしました]スタンプ(朝10時)
・ネコが変なダンスしてるやつスタンプ
1億通送信。
結果、、
バク=ゼータ、エラー吐いて自壊。
バク=ゼータ:「意味が、意味が、意味がッ、、情報崩壊……」
バク=ゼータ:「この宇宙、、ノリが、分からない、」
バク=ゼータ: 終了。
翻訳AI「司令官。バク=ゼータ、消滅を確認」
ナイア「地球を、救いましたね」
ヨシオ「いや、俺スタンプ押しただけだよ!? ネコが変なダンスしてるやつとか、色んなの!」
ナイア「それが、銀河を動かす意志なのかもしれません」
地球。
今日も誰も、何も知らずに、LINEでスタンプを送っていた。
友だちに、恋人に、上司に。
そして、世界を救った男も。
既読はつかない。
けれど、その無反応が世界を守った。
そして世界を守って、すぐにまた問題が起きた!
「、、司令官、地球に向けてワームホールが開いています」
ナイアの声は、いつになく低かった。
翻訳AI「解析完了。未確認艦隊[セレスの鍵]が、地球への侵攻を開始しました」
ヨシオ「、、セレスって、なんか強そうな響きだな、、」
[セレスの鍵]、、それは、
銀河の中心部で封印されていた旧文明の残骸。
誰も解読できなかった暗号、誰も触れなかった意志。
それを起動させたのは、たったひとつの行動だった。
[ヨシオの寝返り]
寝相でボタンを押してしまった結果、
封印が解けたのだ。
ナイア「司令官、私から一つ質問してもよろしいでしょうか?」
ヨシオ「どしたの急に、堅いぞ?」
ナイア「あなたは、本当に無意識でこれまで行動してきたのですか?」
ヨシオは、少し考えてから言った。
「、、うん。正直、なにが起きてるのか、未だに3割くらいしかわかってない。
だけど、、」
「それでも俺がやったってことにされるなら、もう最後まで付き合ってやろうかなって思ってる」
ナイア、少し目を見開いたあと、笑った。
「、、司令官。
今、銀河の全戦艦が[あなたの寝返り待ち]です」
その頃地球では、、、
セレス艦隊が地球に迫る中、地球人はまったく気づいていない。
・サラリーマンは電車で寝落ちし、
・子どもたちはゲームで連打し、
・コンビニでは「からあげ君、揚げたてです〜」の声が響く。
地球は、何も知らない。
でもそれが、どこか希望だった。
ヨシオは最後の作戦を開始する。
名付けて:
「ギャラクティカあくびスイッチ作戦」
1.あくびをする
2.つられてAI艦が誤作動を起こす
3.連鎖的にセレス艦隊が自壊
これだけである。
ナイア「、、そんなことで、本当に地球を救えるのですか?」
ヨシオ「たぶんね。いや、わかんないけど。
でも、俺が動いたときに、何かが起こるって、そっちが決めたんでしょ?」
そう言って、彼は大きくあくびをした。
「、、ふわっ、、ふわぁあああ、、」
その刹那。
セレス艦隊、電磁バグ発生。連鎖暴走開始。
翻訳AI「、、予測不可能な振る舞いにより、全艦が[自我の意義]を喪失」
セレス艦「存在って、なに、、?」
セレス艦「自由意志、? 命令とは、、?」
セレス艦「俺たち、誰だったっけ、、?」
→結果:地球、完全勝利。
その後。
ヨシオは地球を一度だけ見つめ、こう言った。
「、、誰にも知られないのって、いいね」
「あくび一発で地球救ったとか、絶対信じてもらえねぇよな」
ナイア「司令官。あなたは本当に、英雄です」
「、、ちげーよ、俺はただの鳩とコンビニで写真撮る奴だよ」
そう言って、彼は宇宙の片隅に静かに背を向け、、
ピロリン♪
そのとき、地球からの通信が入った。
【母:発信中】
ヨシオ「あっ、、」
電話の向こうから、おなじみの母の声。
「もしもし!? アンタ仕事決まったの?
まったく!いつも寝てばっかりで!
あのねぇ、人生そんなに甘く、、」
ヨシオ「うっ、うるせーな、、!」
母「なによ!アンタねー!」
ヨシオ、少し間を置いて、叫ぶ。
「宇宙救ってんのぉ!!!」
ぷつん、と通話が切れた。
ナイア「、、どなたでした?」
ヨシオ「宇宙で1番めんどくせぇ敵だよ、、」
地球では、、
誰も知らない英雄が、今日も
[あくび]で宇宙を救ったことを。
だけど彼は今、怒られた。
母親に。いつものように。
そして今日も地球は青い。
少しだけ、笑っているような青さだった。




