最後のページに僕らはいた (都市伝説?)
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「なあ、これ知ってる? 地元にもヤバい場所あるらしいよ」
スマホを手に、涼はソファに寝転がりながら言った。
横では、彼女の遥がポテチを頬張りながら適当に相槌を打っている。
「またぁ? どうせまた、幽霊が出たとか、血まみれの女の噂とかでしょ?」
リビングには、だらしなく開けたカーテンから柔らかい午後の光が差し込んでいる。
テレビも付けっぱなし、テーブルには飲みかけのコーヒー。
休日の空気は、まるで時間を押し潰したみたいに、ぬるかった。
YouTubeの画面に映るのは、聞き慣れた都市伝説系のチャンネル。
次々と語られる、ありふれた怖い話の中に、ふと見慣れた町名が出た。
[○○市 廃図書館の噂]
遥が身体を起こす。
「え、ここ? 私たちの地元じゃん」
「そう。廃墟マニアの間じゃ有名らしい。誰も近寄らない“本の墓場”だってさ」
涼がニヤリと笑う。
遥はポテチの袋を膝の上に置き、スマホ画面を覗き込んだ。
涼が「なぁ、行ってみる?」
遥が「マジで?」
2人で「、、だって、暇じゃ〜ん!」と言って
二人は顔を見合わせて笑った。
そして、たったそれだけの軽いノリで、
これから世界を終わらせる一歩を、踏み出した事を
──彼らはまだ、何も知らない。
夜の街は、驚くほど静かだった。
涼と遥はコンビニの袋を片手に、懐中電灯をもう片手に持って歩いていた。
「マジで行くとは思わなかったわ」
「言い出したのは誰ですか〜」
ふざけあいながらも、2人の足取りには少しだけ緊張が混じっていた。
どこかで聞いたような、夜に出歩くべきじゃないという本能が、心の奥で警鐘を鳴らしている。
「ここ、、だよな?」
街外れにある小さな公園の奥、そのさらに裏手に、ポツンと建物が見えた。
外壁は黒ずみ、看板も剥がれ落ち、窓は板で打ち付けられている。
「市立○○図書館」、、かろうじて読める文字だけが、そこが何だったかを主張していた。
「うわ、ボロッ、、」
遥が思わず声を漏らす。
涼は懐中電灯を手に、少しだけ先に立った。
鍵なんてとっくに壊れている。重たそうな鉄の扉を、力任せに押し開けた。
ギィィ、、、。
嫌な音とともに、図書館の中からカビと埃の匂いが吹き出す。
涼が笑う。「さて、探検開始っと」
遥が怖がりながらもニコニコして、彼の背中を追う。
2人の懐中電灯が、ぼんやりと奥を照らす。
どこまでも続く暗闇と、本棚と、朽ちたカーペット。
「本、残ってるんだね?」
「そりゃ[本の墓場]だもんな」
2人は足元に注意しながら、図書館の奥へ進んだ。
不意に、、。
ガツン。
「うわっ!」
遥が何かにつまずき、倒れそうになる。
涼が慌てて支えた。
床に目をやると、そこには何冊もの本が山のように積み重なっていた。
その中に、ひときわ古ぼけた、一冊の本があった。
表紙にはタイトルも、著者名もない。
ただ、奇妙に清潔な手触りだけが、不自然だった。
遥が震える指で、本を拾い上げる。
ふと、本がひとりでにパラパラと開き、、
その1ページに、涼と遥の名前が、はっきりと書かれていた。
「涼」「遥」
二人は驚き、顔を見合わせた。
一瞬、冗談かと思った。
けれど、その下に、さらに小さく、見慣れない住所と、数字が記されていた。
「これ、、ここに行けってことかな?」
遥が呟いた。
涼は無言で本を閉じ、ポケットに押し込んだ。
「帰ろっか?」
「、、うん」
外は、まだ静かだった。
世界が少しずつ、狂い始めていることに、誰も気付かないまま。
翌週の日曜日。
2人は、また同じノリで集まった。
「で、ここが、、指示された場所?」
「うん、たぶん」
地図アプリに表示された、奇妙な座標。
導かれた先は、郊外の誰もいないバス停だった。
時刻表はサビだらけで、バスももう運行していない。
「、、何か、あるのかな?」
遥が首を傾げる。
涼は、ポケットから例の本を取り出した。
ページを開くと、ふわりと埃の匂いが漂う。
本には、次の行き先を示す地図が描かれていた。
だが、、
「待って、これ、微妙に違ってるな」
表示されている地図は、現代のものじゃなかった。
廃線になった線路があり、取り壊されたはずの建物が描かれている。
遥が身震いする。
「これ、、何年前の地図だろ?」
だが、涼はワクワクしていた。
こんなミステリーめいた遊び、滅多にない。
彼は先頭に立ち、バス停の裏手へ進んだ。
、、そこに、ぽっかりと口を開けた地下道があった。
「やばっ、、本当に何かあるじゃん」
「行くしかないでしょ」
涼が懐中電灯を照らし、遥は彼の手をギュッと握った。
2人は地下道の中へ、そっと足を踏み入れた。
中は思ったよりも狭かった。
冷たい空気の中、壁に「×」印のような落書きが無数に並んでいる。
先に進むと、地下の隅に、ボロボロの金属箱が落ちていた。
涼が拾い上げ、蓋をこじ開ける。
中には、、ただ、ひとつの銀色の鍵。
そして、鍵に巻き付けるように、細い紙が挟まっていた。
その紙に、震えるような筆跡で、ただ一言。
[次へ進め]
「、、マジ?ヤバいって?」
遥が呟く。
遊び半分だった気持ちが、少しずつ、異様な空気に押されていく。
だけど、ここまで来たら、止まれなかった。
2人は地上に戻った。
そして、、気付いた。
足元が、わずかに揺れている。
「、、んっ?、地震?」
遥が涼にしがみつく。
周囲を見回しても、人影はない。
小さな揺れはすぐに収まったが、街灯が、ほんのわずかにぐらついていた。
スマホを取り出しても、速報は何も出ていない。
何事もなかったかのように、夜の街は静まり返っている。
だけど、遥は確かに感じていた。
「何か、おかしいよ、、」
涼は、彼女の手を強く握った。
「大丈夫。俺がいるから」
その言葉だけを信じて、2人はまた、本の次のページをめくった。
そこには、前見た時は書いてなかった、新しい住所と、奇妙な図形が描かれていた。
、、世界の歯車が、カチリと狂い始めた音を、まだ2人は知らない。
二度目の探索は、前より慎重だった。
本が示す次の場所は、郊外の廃工場跡地だった。
昼間でも不気味なほど人気がないその場所へ、2人はまた、懐中電灯を片手にやって来た。
「ここ、マジで、、ヤバい雰囲気」
遥が小声で言う。
涼も、さすがに緊張していた。
金網のフェンスを越え、中へ入る。
広大な敷地には、赤く錆びた機械の残骸が散らばっている。
草は伸び放題、空気はどこか焦げ臭い。
本の指示に従って、敷地の中央、朽ちかけた倉庫へ向かう。
扉を押し開けると、真っ暗な空間が口を開けた。
中には、、また、何か落ちていた。
今度は、黒い手帳だった。
涼が拾い上げる。
中身は、またも意味不明な地図と、ひとつの記号。
見慣れない文字で何か書かれているが、唯一、二人の名前だけは、はっきりと読めた。
「涼」 「遥」
「これ、どうなってんだよ、、?」
涼が低く呟く。その時だった。
ドォォォン、、!!
轟音と共に、空が光った。
「何!?」遥が叫ぶ。
外へ飛び出すと、空に巨大な、真っ黒な裂け目が浮かんでいた。
雷でも、雲でもない。
まるで空そのものが破かれたみたいな、不自然な裂け目。
涼も、言葉を失った。
バチバチバチバチ、、!
裂け目から、青白い光が漏れ出している。
工場の廃墟が、奇妙な音を立てて軋む。
どこか遠くで、サイレンの音が響き始めた。
「やっぱり、絶対何かおかしいよ!」
遥が泣きそうな声を上げる。
涼は、怖かった。
だけど、それ以上に、遥を放っておけなかった。
彼は彼女の手を取り、走り出した。
2人は息を切らしながら工場を抜けた。
逃げながら、涼は固く決意した。
、、もう、やめよう。
、、これ以上、先へは進まない。
でも、その夜、家に帰った2人を待っていたのは、
あの、、例の本だった。
玄関の前に、ぽつんと置かれていた。
まるで、二人が次に進むのを当然だと信じているかのように。
逃げられない。
そんな予感だけが、胸の奥で膨れ上がっていった。
涼は、玄関先に落ちていた本を拾い上げた。
手が震える。
何度目かの拒絶反応だった。
「もう、やめよう」
遥が言った。その声は、かすかに泣いていた。
「私たち、、変なんだよ。
だって、空、裂けたよ?こんなのおかしいよ、、!」
涼も分かっていた。
すべてが狂い始めている。
あの日、廃図書館で本を拾った瞬間から。
けれど、、。
彼女の涙に、どうしても「怖いからやめよう」とだけは言えなかった。
本を開くと、最後のページが現れた。
そこには、たった一行。
【天無神社】
聞いたことのない名前だった。
スマホで検索しても、何も出てこない。
ただ、地図アプリには、かすかに存在していた。
山奥に、道なき道を辿った先。
まるで、そこだけが世界から切り離されたような、、そんな場所だった。
「行こう」涼が言った。
遥はうつむき、唇を噛んでいた。
そして、ゆっくりと頷いた。
二人は車を飛ばし、闇の中、山へと向かった。
町の灯りはどんどん遠ざかり、空は不気味な赤色に染まっていく。
街中でも異常が広がっているのが、遠目にも分かった。
ビルの灯りが一斉に消え、地平線に黒い雲が渦巻いている。
、、誰も止められない。
世界は、2人と共に、確実に終わりへと向かっている。
山道を進むほど、電波は途絶え、車のライトだけが頼りになった。
やがて、ナビにも映らない道に差し掛かる。
朽ちた石段。折れた鳥居。
そして、草むらの奥に、古びた社が見えた。
「、、着いた、のかな?」
遥がかすれた声で言った。
涼は、彼女の手を強く握った。
「大丈夫。最後まで、一緒にいよう」
遥も頷き返す。
2人は、息を合わせて石段を登った。
一瞬、全ての時が止まった様に感じた。
その時だった。
、、カチリ。
まるで見えない歯車が噛み合ったような、乾いた音が、
夜の闇の中に確かに響いた。
そして。
空が、裂けた。
街が、沈んだ。
世界が、音もなく、崩れていった。
たった二人の、恋人たちの、手の中で。
二人は振り返らずに真っ直ぐ進んだ。
朽ちた社殿の扉は、すでに外れていた。
涼と遥は、手を取り合ったまま、暗闇の中へ踏み込んだ。
中は、ほとんど空っぽだった。
埃と土の匂いだけが漂っている。
だが。
奥の祭壇だけは、なぜか綺麗なままだった。
まるで、誰かがずっとここで待っていたかのように。
祭壇の上には、一冊の本が置かれていた。
、、いや、最初に拾ったあの本だ。
遥がそっと手を伸ばす。
ページを開く。
すると、最終ページ。
そこに、はっきりと、こう記されていた。
[この物語は、涼と遥により完成される]
2人の名前だけが、鮮やかに、現代の文字で浮かび上がっていた。
それ以外の言葉は、すべて、古代の読めない文字で埋め尽くされている。
遥が顔を上げる。
涼も、黙って彼女を見つめた。
その瞬間。
社全体が、ぐわんと揺れた。
外の空は、真っ黒に塗り潰され、星ひとつ見えない。
木々は倒れ、山が崩れ、世界が沈んでいく。
涼は、遥を抱き寄せた。
彼女も、強く彼にしがみつく。
泣きながら、笑って。
怯えながら、信じて。
涼が耳元で囁いた。
「大丈夫。お前がいれば、世界が終わってもいい」
遥も、涙まみれの顔で、笑った。
「バカだね、、でも、私も、そうだよ!」
パチン。
小さな、小さな、乾いた音がした。
そして。
二人の世界は、終わった。
二人の手の中で、確かに、終わった。
、、だけど。
その場所に、新たな都市伝説が生まれた。
、、山奥の誰も近づかない廃神社に、
時折、手を繋いだ男女が現れる。
彼らは静かに笑い合い、
そして、世界を終わらせる。
名前を聞いてはいけない。
声をかけてはいけない。
もし出会ってしまったら、、
君もまた、二人の物語の一部になるから。
【最後のページに、僕らはいた】
なげー!時間が合って、思いついたから一気に書きすぎた、、
「最後のページに僕らはいた」というタイトルに込めたのは、どんなに小さな存在でも、世界の中で必ず一つの意味を持つ瞬間があるということ。
これを読んでくれたあなたが、どんな感情を抱くのか、非常に楽しみにしています。
最後まで読んでくださり、ありがとうございました。




