11/81
ばぁちゃんへの切符 (詩)
銀河の汽車が渡る夜
星の駅には 誰の名もない切符が落ちていた
その裏に ほんのり味噌の香りがしたのは
気のせいだったのかもしれない
貴女がくれた 俺の好きな茄子の味噌炒め
茄子の紫が まるで白鳥座の羽のようにやわらかく
味噌の優しさが 天秤座のバランスで出来ていた
誰のことも怒ることもなく
ただ静かに笑っていた貴女は
まるでカシオペアの椅子に腰かけた女王のようだった
「もうお腹すいたのかい?」と
貴女の声が、琴座の音になって降ってくる
三途の川は今、星で満ちていて
渡る舟の代わりに 流星が橋になっていた
俺はまだ 向こう岸へは行けないけど
今夜だけ そちら側の空と話がしたくて
この汽車に乗ったのです
貴女の手のしわは 星図のようで
その一本一本に 季節と祈りが刻まれていた
今、天の川を越えるこの旅の途中
茄子と味噌の温もりが
ほんの少し 涙の奥を撫でてくる
いつかまた
鷲座のほとりで会えたなら
貴女の笑顔が 俺を包んでくれるといいな
あの笑顔でおかえり、って言ってくれると嬉しいな




