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「押しても駄目なら引いてみよ」の意味を8年かけて理解した(マルチプレイの話)

作者: Y

 2012年。結婚前、遠距離恋愛をしていた私たち夫婦はWindowsの『モンスターハンターフロンティアオンライン』というゲームを、200kmの距離を隔ててオンラインマルチプレイしていた。


 マルチプレイというのは「オンラインゲーム等で複数のユーザーが同時にゲームに参加してプレイすること」である。1つのゲームを複数のプレイヤーで同時にプレイして楽しむ、そのような遊び方を指す。


 私はマルチプレイをするのはこの『モンスターハンターフロンティアオンライン』(以下『フロンティア』※モンスターハンターシリーズ)が初めてだった。ついでに言えば、フル3Dのゲームをプレイするのもこのタイトルが初めてであり、本格的なアクションゲームをプレイするのもこれが初めてであった。


 私はマルチプレイとモンハン(モンスターハンターの略称)の魅力に取りつかれ、フロンティアを夫と遠距離で一緒に夢中でプレイした。こんなに楽しいゲームの遊び方があるのだな、こんなに楽しいゲームがあるのだなと感動したものである。


 結婚後、夫と同居するようになってからも、様々なゲームを一緒にマルチプレイした。

 プレイしたのは 『モンスターハンター ポータブル 3rd』、『ドラゴンズクラウン』『ドラゴンズドグマオンライン』など。


 特にフロンティアと同じモンハンシリーズである『モンスターハンターポータブル 3rd』(以下『3rd』)にはのめり込んだ。若かったこともあり、1日に何時間でも夫とプレイし、モンスターを狩りまくった。


 私が下手だったため3rdは「上位」というステージに進んだ頃にプレイをやめてしまったが、それまで夫と3rdをプレイした日々はそれはそれは楽しく、充実した毎日だった。





 その後、私たちは『ポータルナイツ』『テラリア』など複数のタイトルをマルチプレイしようと試みたが、どうもうまく行かなかった。


 私が「面白い」と感じたゲームを夫が「イマイチ」と感じて続かなかったり、その逆のパターンもあったり。


 『テラリア』など自由度が高すぎるゲームは互いが好き勝手に行動してしまい、「一緒に」プレイしているという感覚を得られない。


 2人ともが「面白い」と感じたゲームに出会えても、私と夫では体力差がありすぎるため夫ばかりが長時間プレイしてしまい、私がついていけなくなって結局やめてしまう。


 私たちはだんだん一緒にマルチプレイをしなくなっていった。


 私はそれでも夫とマルチプレイをしたいと願っている。マルチプレイ、特にモンハン3rdで得られた愉快な日々が忘れられないのだ。


 だが夫は、私とのマルチプレイに拒否反応を示すようになってしまった。


「僕が楽しいと思ったゲームに出会えても、君がついてこれない。それか、君がすぐに飽きてしまう」というのが夫の言い分である。


 もともと「ガチ勢」寄りの夫と「エンジョイ勢」寄りの私とでは、プレイスタイルが少々異なる。


 ガチ勢寄りの夫はゲームをくまなく研究して、真剣に取り組むプレイスタイル。

 エンジョイ勢寄りの私は「とりあえず適当にプレイしてみて適当に楽しめればいいんじゃない」といったプレイスタイルである。


 これでは一緒に同じゲームを楽しもうというのも無理があるかも知れない。


 だから、夫の言い分はもっともである。もっともだが、私は夫とマルチプレイをしたい。マルチプレイで味わった充実感を、また夫と一緒に味わいたい。


 しかし私の願いも虚しく、2017年5月、ファイナルファンタジー11をプレイしたのを最後に、私たちはゲームのマルチプレイを一切しなくなってしまった。




 夫とマルチプレイをしなくなり、6年が過ぎた2023年。


 私はモンハンシリーズの『モンスターハンターライズ』(以下『ライズ』)というゲームを買って夫をマルチプレイに誘ったが、やはり拒否された。

 仕方なくライズはソロ(1人)で1ヶ月半プレイしたのだが、百竜夜行というコンテンツでプレイにつまずく。


 私は夫にしつこく「百竜夜行がクリアできないからマルチプレイで手伝って欲しい」と要請した。しかし夫は全く応じてくれない。「モンハンは時間がかかるし操作を思い出すまでが面倒」というのが理由だ。


 仕方なく1人で何度もトライしたが、私は百竜夜行をクリアできなかった。それでとうとうライズのプレイ続行を断念してしまった。


 夫に手伝ってもらえれば、百竜夜行をクリアできたかもなあ……そう思ったが夫がマルチプレイに応じてくれないので仕方がない。


 モンハンがダメなら、他のゲームでマルチプレイしてくれないかな……。


 そう思った2025年の1月。私はダメ元で『コアキーパー』というゲームをマルチプレイしようと夫を誘った。


 夫は意外にもこれをオーケー。ダウンロード版を即購入となった。あんなにマルチプレイを嫌がっていたのはなんだったのかというほど、あっさり話が進んだ。


 夫とまたマルチプレイができるなんて! 私は天にも昇る気持ちだった。


 8年ぶりの夫とのマルチプレイは、そりゃあもう楽しかった。楽しかった……のだが。


 夫とコアキーパーをマルチプレイしてから3日後、問題が発生する。夫と私のプレイヤースキルとゲームへの理解度の差が大きく開いてしまったのである。


 これによりコアキーパーのマルチプレイは私のほうが楽しめなくなってしまい、自然とプレイしなくなってしまった。


 せっかく夫とマルチプレイできたと思ったのに……。私は深く失望した。


 でも、夫とのマルチプレイを諦めたくない。コアキーパーがダメなら、他のゲームを探そう。どんなゲームなら夫と楽しめるんだろうか?


 過去に夫とマルチプレイして2人ともが楽しめたゲームと言ったら……モンハン。モンハンだ。


 そう考えた私は再び「ライズをやろう」と夫を誘った。

 しかし夫は「モンハンは時間がかかるし操作を思い出すまでが面倒」と繰り返し、激しく拒絶。


 諦めきれない私は2025年3月、勤務中の夫にLINEで「ライズをやろう」と凝りずに要請した。

 夫の返信は「興味ない」の冷たい一言。


 昔、フロンティアや3rdをあんなに夢中で一緒にプレイしたのに。同じモンハンシリーズであるライズに、興味がないだなんて。

 私は酷く悲しくなり、思わず「悲しい。絶望感に打ちひしがれている。何もやる気しない。力が出ない」と返信してしまった。

 嘘はついていない。本当に、夫の「モンハンに興味ない」という文面を読んで、絶望したのである。


 困らせるような文章を送信してしまったことを少し後悔しつつも、私は「こうなったらまた1人でモンハンをやろう」と、半ばヤケクソ気味に思いついた。夫とのマルチプレイはもはや不可能と判断したのである。


 ライズは百竜夜行があるのでソロでは無理だ。ならば。

 私はモンハンシリーズの『モンスターハンターワールド』(以下「ワールド」)の存在を思い出した。


 ワールドはライズの数年前に「夫と一緒にプレイしたい」と購入したゲームである。しかし当時は私の体調が悪く、ほとんどプレイすることなく記憶から忘れ去られていた。


 ワールドなら百竜夜行は無いし、1人でも気の済むまでプレイできるだろう。


 そう考えて、ワールドを1時間プレイしてみる。充分楽しい。


 私は「これなら1人でも長く楽しめる」と満足した。

 夫とマルチプレイできなくても充分。ゲームは1人で楽しもう。


 あっさり悲しみから立ち直った私は夫に「ワールドをプレイした」とLINEで報告し、これからワールドをソロでどうプレイしていこうか想像してワクワクした。


 やがて夫からLINEの返事が来た。内容は次のようなものだった。


「お疲れ様。ライズやってみる?」


 ええええ!?

 私はびっくり仰天した。ライズやってくれるの!? あんなに拒否していたのに!? ソロでワールドをやっていこうと決意したばかりのこのタイミングで!?


「マルチでってこと? 今夜?」

「うん」


 半信半疑で夫からのLINEを眺める。

 急にどうしたんだろう? どういう風の吹き回し?


 嬉しいけど、なんだかちょっと怖い。

 理由を訊いたら機嫌を損ねるのではと感じ、私は恐る恐る夫の出方をうかがった。その後やり取りした夫のLINEの文面は、機嫌が良いようにも悪いようにも感じない。平常運転のようである。


 私は夫の様子を探りつつも「油断してはいけない。コアキーパーの時のように、マルチできたと思ってもすぐにダメになるかもしれない」と最大限の警戒を払い、夫の帰宅を待った。


 夫の帰宅後、私たちは3rd以来10年ぶりにモンハンをマルチプレイした。


 Switchを持ち寄り、ゲームを起動。

 オンラインマルチ用にロビーを作って夫を招待。

 マルチ用クエストが用意された「集会所」で落ち合い、クエストを受注し、全員が準備完了なのを確認してからクエストに出発。

 狩猟目的のモンスターを探し、戦いを繰り広げる。


 私は元々下手だし、夫は10年ぶりのプレイのため、2人とも攻撃がモンスターになかなか当たらない。

 何度もダメージを食らい攻撃を外すのを繰り返し、私たちは15分の死闘……というほどでもなかったけれども……の末、モンスターを撃破した。


 モンスターを夫とともに仕留めた瞬間、私は深い満足感に包まれていた。


 そうそう、この感覚。強敵を協力してどうにか仕留める、この達成感。ソロで倒すのとはまた違った充足感。


 この満足感は、10年前と変わらないものだった。懐かしい。またこの感覚を堪能できるとは、夢を見ているようだ。本当に嬉しい。


 こうして私たちは、3rd以来10年ぶりのモンハンマルチプレイを満喫した。

 あんなに嫌がっていた夫も楽しんだようで、私が疲れて離脱したあとも1人でソロ用のクエスト「里クエ」に興じている。




 以来、私たちは時間と体力の許す限り、一緒にライズをマルチプレイしている。

 一度は諦めた夫とのマルチプレイだが、人生、何が起きるか分かったものではない。


 なんで夫が急に「ライズをやろう」と言ってくれたのかは現在でも不明である。

 不明だが、理由なんてどうでもいい。私も夫もライズを一緒に楽しんでいる、それだけで充分である。


 ライズも3rdの時のように、ゲーム側から与えられたコンテンツを十二分に楽しむ前にプレイをやめてしまうかも知れない。


 しかしそれまでに得られた夫との楽しい時間は何にも代えがたいものとして、私の思い出に深く長きに渡り刻み込まれるであろう。

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