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ランドスケープフォト


 撮影の事をぼんやりと考えながら過ごしていたら午後の授業もあっという間に終わり、気がつけば放課後になっていた。


「駿!俺バスケ部見学行くけど……これからいろいろ周るならとりあえず一緒に体育館行くか?」

「うーん……まだ考え中だから、とりあえずいいや……」

「私も新体操部見に行くけど……瀬戸くん、本当に1人で大丈夫?」

「柏木さんが保護者みたいになってる……」

「うるさいわよ、なんか午後もずっとぼんやりしてたし……心配にもなるわよ……」

「まぁ、今日のところは大丈夫だと思うけどな〜……な?駿?」

「……ん?……あぁ、うん」

「ねぇちょっと……本当に大丈夫なの?あの感じで?」

「あぁ……まぁ、多分……」


 とりあえず色々と試し撮りをするため、どこから見ていくかを考えていたら、いつの間にか大輝達が2人でコソコソと話していた。

 バスケも新体操も同じ体育館だし、きっと一緒に行こうとかなんか話しているのだろう。


「……じゃあ、2人ともまた明日……」

「お、おう!」

「うん……また明日」


 弁当箱など今日中に持って帰らないといけない物以外は机の中とロッカーに押し込んで、スカスカのリュックを背負って教室を出る。


「まずはあの中庭の桜を撮りに行こうかな……」


 廊下の窓から見えている一際大きな桜の木はこの学校のシンボルだろう。

 きっと優花ならはしゃぎながら見に行ったんだろうな……それに、そのまま写真を撮るなら桜の木の近くにあるベンチを画角に入れて撮ってそうだ……


 優花の影を追いかけるように……でも決して追い越さないように、首から下げたカメラケースを大切に抱えて早足に俺は中庭へと向かった。


――――――――――――――――――――――――――


 靴を履き替えて中庭に出るといろんな音が聞こえてくる。


 校庭で練習をしている運動部の声、4階の音楽室から聞こえてくる吹奏楽部のハーモニー、壁に反響しているボールの音はきっと体育館からだろう。

 2階の窓が開いてる部屋からは楽しそうな話し声が漏れている。


「みんな……楽しそうだな……」


 桜の木の下はなぜかとても静かで、ゆっくりと散っていく花びらと相まって、この場所だけ時間の流れがゆったりと進んでいるような気分になる。


 目当てだったベンチに腰を下ろして上を見上げれば、桜の花びらが空を覆い隠すように咲いていた。

 きっと空の青と桜のピンク、そこにアクセントを加える葉の緑と枝の茶色に雲の白。ここからしか見られない色鮮やかな風景が目の前に広がっているのだろう。


「やっぱり俺にはわからないや…………でもきっと優花なら……こう撮るかな」


 俺はカメラをそっと構え、1番高い場所にある、周りより少し遅れた、もう少しで咲きそうなつぼみにピントを合わせ、散っていく花びらが柔らかさを演出するようにシャッターを切った。


「やっぱり違うよな……」


 たまたまベンチから見上げただけの景色。

 細かな調整に時間をかけた訳でも、ここだと言うベストなタイミングを待った訳でもない。

 だから当然と言えば当然なのだが、全然納得のいく物にはなっていない。


「まあ、分かってた事だけどね」


 できない事を改めて実感する。

 自分の拙さをただ再認識したかっただけだ。


「さて、次はベンチをこの辺に入れて……」


 立ち上がり、桜の木から少しだけ離れ、膝を曲げてレンズの位置を下げてシャッターを切る。

 桜の木の後ろに見えているこれから3年間お世話になる校舎の姿。桜の花びらは出会いと別れをイメージできるが、陽の光が当たったベンチの上で重なっている桜の花びらはいろいろなところからここへやって来た新入生を表しているようだ。

 廊下を楽しそうに話しながら歩いている先輩の姿は緊張している新入生を暖かく迎えてくれそうな優しげな雰囲気を感じさせてくれる。


「……また明日の朝も撮ってみるか……」


 構図としては悪くないのだろうが、やっぱりどこか足りないようにも感じる。

 撮影した時間がよくないのだろうか、それとも他に理由があるのだろうか……わからないけど、これじゃないという感じがするのだ。


 まだまだいろいろな場所を周らないといけない為、一旦中庭を離れて俺は体育館へと足を向けた。

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