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初めての依頼


「おーい、瀬戸はいるか〜?」

「おい、駿!先生に呼ばれてんぞ!」

「…………」

「あ、橘先生!ここです!ここに瀬戸くん居ます!」

「おう、犬飼と柏木か、ありがとう!瀬戸、入学早々悪いんだが、学校便りの写真の撮影を依頼しても良いか?」

「あ……はい、大丈夫です……」


 昼休みの半ば、教室にやって来た担任から撮影の依頼が舞い込んできた。

 両親が学校に申請した写真の事を知って話にきたのだろう。


「え?瀬戸って依頼とかがくるくらいのレベルの写真撮れんの?」

「やっぱ持ってるそれってカメラ?見せて見せて」

「一眼レフとかってやつ?私も見てみたい!」


 担任の話を聞いたクラスメイトがゾロゾロと近くにやって来て首から下げているカメラの入ったケースに触れようとする。


「触ん……「はーい!ちょっと待った〜!これは駿の大切な仕事道具!勝手に触ったらダメだぜ〜!」

「あ、そうだよな……ついつい……なんか、その……悪かったな……」


 思わずクラスメイトに対して怒鳴ってしまうところを大輝が間に入って明るく注意してくれた。


「大輝……ありがと」

「いいって事よ!前使ってたやつと大きさとか全然違うけど……前のやつよりずっと大事な物なんだろ?」

「あぁ……特にこっちに入ってるレンズは……な」

「……そっかそっか……まぁとりあえず先生待ってるし、早く行ってこいよ!」

「わかった……ちょっと行ってくる」


俺は少しだけ気まずい空気になってしまった教室から足早に廊下に出て、声をかけて来た担任の元へと向かった。

 

「犬飼くんやるじゃん……気を遣える男ってポイント高いよ」

「ふっ、もっと褒めてくれてもいいんだぜ?」

「あはっ、なにそれ」

「まぁ、なんだ……柏木さんならたぶん大丈夫だと思うけど……一応駿から話があるまであんまり写真とかカメラの事とか聞かないでやってもらえたら……その、いいかも?」

「いいかもって何それ……でも、カメラに触られそうになった時の瀬戸くんの顔みたら流石に気を使うわよ……」

「流石!気を遣える女はポイント高いぜ?」

「なんか茶化されてるみたいでムカつく……」

「あははっ!まぁ、橘先生がさっき学校便りって言ってたから近いうちに駿の撮った写真は見れると思うよ」

「別に……そこまで写真がどうとか気にしてないけど……瀬戸くんの写真ってそんなすごいの?」

「本人がどう思ってるかは別として、素人目に見ても駿の撮る写真はプロ級ってのは間違いないよ」

「そうなんだ……」

「お、そろそろ授業始まるから俺は席戻るわ」

「そだね、また後で……」

「おう!」


――――――――――――――――――――――――――


「……って感じでだな、今回は新入生とその保護者を対象にした学校の便り第一弾として春らしいフレッシュな感じにしたいと思ってる」

「……わかりました。とりあえず放課後とか朝とか時間見つけて何枚か撮ってみます」

「ああ、その事なんだが、特定の時間で人が映り込まないように写真を撮りたいとか、授業の風景を撮りたいとか希望があれば申請出してもらえれば融通を効かせるし、なんなら授業を中抜けしても構わないからな」

「そうなんですか?」

「これは学校側からの業務依頼って形になるからな、芸能活動で授業出れない子達とほとんど扱いは同じと思ってもらって構わない」

「なるほど……」

「とは言っても出席日数が足りないとか、テストの点が悪かったりしたら休みの日に補習でカバーしてもらうことになるからあんまり仕事を口実にしてサボるなよ」

「わ、わかりました……」

「期限はとりあえず1週間くらい見ておくから、今日のところは授業に戻りなさい」

「……はい」


 学校便りや校内誌、学外向けパンフレットなどのデザイン制作の今年の担当は橘先生になったらしく、せっかくだから写真や構成含めて刷新していきたいとの事だった。

 

 学校便り以外にも、部活の公式戦の記録撮影や学外活動してる生徒の記録なども今回の仕事の出来次第でお願いしたいとのことらしい。

 業務依頼という形式をとる為、終了後にはしっかり給料も支払われるらしく、なによりカメラマンとしての経験にもなるからぜひ挑戦してみてほしいということだった。


「とりあえず腕章も用意してもらってるし引き受けたけど……俺にそんなプロの仕事みたいな写真なんて撮れるのかな……」


 俺は優花ほど上手い写真を一度だって撮れた事がない……

 優花は撮った写真をSNSにあげていたこともあり、写真を見た企業から使わせて欲しいと話を受けたこともあるほどだった。

 そんな大人から認めてもらえる技術を持った優花を見てきたからこそ、今回の仕事としての撮影というものにプレッシャーを感じる。

 それに、レンズを覗いても灰色にしか見えない景色をいくら撮っても何にもならないような気がするのだ。


「優花ならどうしたんだろうな……」


 俺の撮影の基準は未だに優花のままだ。

 優花のお母さんに言われた、俺が心から撮りたい瞬間を撮れるようになるにはまだまだ時間がかかりそうだ。

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