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入学と出会い


「新入生の皆様、おはようございます……」


 学校生活には付き物の式典での校長の長話が始まった。

 

 以前はこんな時、暇だな〜と思ってキョロキョロと周囲を見渡して、後ろから優花に背中を突かれていた。

 

「駿くん、話ちゃんと聞かないと怒られるよ?」

 

 そう言って少しだけ困った顔をする優花の顔を思いだす。

 初めての高校生活だったとしても、こんなふとした場面で優花の事を思い出してしまう。


「……ぐすっ」

「え?そんな涙ぐむような話してた今?」

「……え?ごめん……ぐすっ……なんか言った?」

「ああ、いや、べつに……」

「ぐすっ?なんて?」

「なんでも無い……ちゃんと話聞かないと怒られるわよ」

「…………ぐすっ」

「ちょ、なんで泣くの……そんなキツく言ったつもりなかったんだけど……」

「いや、これは……ぢがぐで……」


 一度スイッチが入ってしまうと同じようなセリフを聞くだけでも涙が出て来てしまう。

 俺の心に残る熱はまだ冷めていないらしい。


――――――――――――――――――――――――――


「さて、HRを始めるぞ〜席につけ〜」

「「はーい」」

「俺は担任の橘だ。3年間よろしく」

「「よろしくお願いしま〜す」」


 盛花高校は様々な活動をする学生が多く在籍する都合上、担任となる先生とクラスメイトは3年間変わる事がない。

 プライベートな問題なども余計に拡散することが少なくなるので俺にとっても結構ありがたい仕組みだったりする。


「さて、初日だしまずは自己紹介から始めてもらう。特技、趣味、活動のこと、なんでも良いから話してくれ。ここにいる40人は3年間過ごす仲間だ。話したく無いことは無理に話す必要はないが、お互いをよく知って、支え合える良い関係を作っていって欲しい」

「じゃあまずは俺から自己紹介します!!」


 1番前の席に座る活発な男子から自己紹介が始まって行く。


 ぼんやりと1番後ろの窓側の席からその景色を眺めているがやっぱり色は見えず、記憶にもなんだか残っていかない。


柏木由佳(かしわぎゆか)です。特技というほどではないけど新体操やってます。3年間よろしくお願いします」

「ゆうか……」

「ゆ・か!だから、間違えないでよね」

「あ、ごめん……失礼だったよね、柏木ゆかさんね」


 隣の席の女の子の自己紹介を聞いて名前が似ていることで意識が引っ張られる。

 柏木由佳と名乗った長めの髪を後ろで編み込んだ女の子は先ほどの入学式の時隣に居た子だった。


「ちょっと、次あなたの番なんだけど……」

「ん?……あぁ、そうなのか……」

「入学式からずっとぼんやりしてるけど……大丈夫?」

「大丈夫……」

「そ……まぁ、なんかあるなら言って来なさいね、隣なんだから」

「ありがと」

「ほら、とりあえず自己紹介しなさいよ」

「あぁ、俺は瀬戸駿です。趣味とか特技は……特にないです。3年間よろしくお願いします……」

「あれ、瀬戸駿ってアイツあれだろ?バスケの……」

「やっぱそうだよな……見たことあると思ったわ」

「瀬戸くんってもしかして結構有名人?」

「いや、そんなことないよ」

「ふーん……」


こうして無難に俺は自己紹介を終え、簡単な高校でのルールなどを聞き流しながらHRを終えたのであった。


――――――――――――――――――――――――――


「駿!卒業式ぶりだな!あれは……その……大丈夫なのか?」

「ん?……ああ、大輝か、色の方はまだだけど……あの事は……少しずつ前を向かないとなって……思ってるところ、ではある……かも?」

「まぁ、なんだ……この高校で事情知ってるの俺くらいだろうから……なんかあれば頼ってくれて良いからな」

「……おう……ありがとな」

「良いって、親友!だからな」

「なんか男の友情って感じね」


 昼休みに入り、机にお弁当を広げて食べていると前の席に犬飼大輝(いぬかいだいき)、中学の時にバスケ部の部長だったやつがやって来た。


 同じクラスだというとは一限の数学の授業中に当てられてようやく気がついたのだが、大輝の方は最初から俺に気づいていたようで話しかけるタイミングを探っていたようだ。


「あれ、柏木さんも1人でお弁当?」

「まぁ、この学校知り合いいないし……」

「ってことは地元結構遠い感じ?」

「まあ……それなりに……ってかそれよりも犬飼くんの言ってた事の方が気になるんだけど……」

「ん?」

「瀬戸くんのこと、大丈夫か?って気にしてたじゃない……やっぱり瀬戸くんどこか体調わるいの?」

「いや……まぁ、色々あるのよこいつにも……今はぼんやりしてるだけで体調不良ってわけじゃないから心配しないで大丈夫」

「ぼんやりって……今もなんか、ご飯食べずに遠く見てるけど……本当に大丈夫なのよね?」

「まぁ……ね、柏木さんって結構世話好きな人?」

「なっ……べつに、なんだか放って置けないなって思っただけよ!」

「こいつ今はこんな感じだけど、本当はすげぇ良いやつだからさ仲良くしてやってよ!」

「まあ、別に……隣の席だし?断る理由もないけど……」


 大輝は元から知っていたが、どうやら柏木さんも人見知りとかしない性格みたいで2人はすぐに打ち解けたようだ。

 こうして新しい環境で足踏みせず新しい関係を作っていく人の姿を見ていると、やっぱり俺はどこか疎外感というか、置いてかれているような気分を感じずにはいられない。

 

 俺はいつしか2人が何を話しているのかよりも、窓から見える桜の木を見て、優花ならどこから写真を撮るのかについて考えていた。

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