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ユウグレ


 昇降口付近まで辿り着くと、部活の見学を終えた多くの1年生が帰路についているところだった。


 「思ってたより人が多いな……」


 色々あってそれなりに時間が経ってから出てきたつもりだったので、大輝のようなやる気のある数人が部活の道具を持って帰宅している程度だと思って油断していた。


「やばい、久しぶりの運動で疲れたのかクラクラしてきた……」


 色のない世界では多くの人や物が不規則に動く場所というのが少し苦手だったりする。

 色の境目や輪郭なんかははっきりと見えているのだが、数が増えてくると遠近感に違和感を感じるというか、脳の処理が追いついていないような疲労感を感じるのだ。

 これでも1年以上はこの生活をしているからある程度は慣れているのだが、どうしても疲れが出たりすると眩暈にも似た症状が出たりする。

 

 カメラのデータに保存されている先ほど撮った写真の中には確かに見えている黄色も、現実世界ではまだ色が付いていない。

 病院では精神的な物と言われたが、写真と現実では俺の中の何かが違うと認識してるという事なのだろう。


「……ちょっと人通りが落ち着くまで休むか……」


 俺は昇降口の脇にある段差に座り込み、片手でこめかみをもみほぐしながら目をつぶって症状が落ち着くのを待っていた。


「……大丈夫ですか?」

「ん?あぁ……ちょっと眩暈がしただけで、大丈夫です」

「眩暈でしたら少し暖かい物を飲むといいとか……よければ買ってきましょうか?」

「いや、ほんと……大丈夫なんで……」


 俺は突然聞こえてきた聞き覚えのない女の子の声に目を瞑ったまま返事をする。

 

「こんな体調悪そうな人、ほっとけないですよ」

「ほんと、慣れてるし、もう少ししたら落ち着くから……ほっといてくれ」

「っ……わかり……ました」


 ……言葉を発してから気がついた。

 見ず知らずの体調が悪そうな人を気遣える、優しい人に対して顔もろくに見ずに、自分の不調を理由にぶっきらぼうに放っておけと言い放って……傷つけてしまった。

 俺は……最低だ。


 咄嗟に謝ろうと口を開こうとしたが、それよりも早く俺のすぐ近くに座る人の気配を感じた。


「ん?」

「……私が勝手にここに座ってるだけなので、気にしないでください」


 突然の行動に驚いた俺に対してすぐ隣から少し拗ねたような声が聞こえてきた。

 

「ごめん……」

「……それは何に対しての謝罪ですか?」

「それは……その、親切にしてくれたのにあんな冷たい言い方をして……」

「いえ、体調が悪い人にあれこれとしつこくした私が悪かったのでお気になさらず、ゆっくり休んでください」


 とりあえず謝ってみたけど……

 これは……やっぱり怒ってる……よな……

 時間が経ち、少し症状が落ち着いた俺の頭はこの子が何故怒っているのかの理由を考えていた。


 いろいろ考えた結果……わからん。

 こういう時はしっかりと顔を見て、謝り倒すしか無いだろう。


「ほんと……その、ごめんなさい……やっぱ、怒ってます……よね?」

「つーん……」


 隣に座っていたのは少しだけ幼い雰囲気を纏った可愛らしい女の子で、俺の言葉を聞くといかにも怒っていますという雰囲気を出してそっぽを向いてしまった。


「えぇ……」

「ふふっ……冗談ですよ!やっとこっち向いてくれましたね……もう、眩暈は大丈夫そうですか?」

「あぁ……だいぶ治ったから大丈夫、ありがとう」

「それは良かったです!」


 どうやらいかにも私怒ってますという雰囲気はただの演技だったらしい。

 心臓に悪いから次からは是非ともやめていただきたい……

 

「あの、それで……あなたは?」

姫乃彩葉(ひめのいろは)ですよ……瀬戸駿くん」

「あれ、俺名前……」

「む……クラスで自己紹介したじゃ無いですか……」

「ごめん……正直全然聞いてなかった……」

「じゃあ今、ちゃんと覚えてくださいね?」

「うん、姫乃さん……ね、覚えた」

「これからよろしくね、じゃあ、はい!」


 そう言ってクスリと笑う彼女はスカートに着いた砂埃をはたきながら立ち上がると俺に向かって手を差し出してくる。


「よろしく!…………ん?」

「いや、その……握手……じゃなくて……さっきまで眩暈とおっしゃってたので……立ち上がるのに手を貸した方が……その、良いかなって……思ったんです……けど……///」


俺はしっかりと握手をした後、なぜか離れない手を見つめると、姫乃さんは恥ずかしそうにその意図を伝えてくれた。


「そうだったのか、ごめんごめん……」

「いえ……私が先にちゃんと言えば良かったですね///」

「姫乃さんは優しいね」

「そんな事ないですよ、困った時はお互い様ですから……それで……立てそうですか?」

「あぁ……その、ありがとう」


 夕日を背負って手を引っ張ってくれる彼女の姿や雰囲気は、昔バスケの練習で疲れて寝転がる俺を引っ張り起こしてくれた優花の姿によく似ていた。

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