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線引き


《犬飼視点》


 駿との1年と3ヶ月ぶりの1on1


 今でも記憶の中で追いかけているあの憧れの背中に、俺はどれだけ近づくことができてるのだろうか。

 駿はブランクもあるしもう追いついて、なんなら俺が追い越しちゃってたりして……


「犬飼!練習中だぞ!何ニヤニヤしてんだ!集中しろ!」

「すんません!ちょっとワクワクが止まらなくて!」


 この後の休憩時間のことを考えるだけで胸の高鳴りを押し留める事ができなかった。

 部活に無理言って参加させてもらってる先輩たちには申し訳ないが、少しだけこの高揚感に溺れるのを許してほしい。


「よし!10分休憩!水分補給忘れんなよ!」

「「はい!!」」

「犬飼!10分だけだからな!」

「了解っす!!……ほら!駿!早く早く!!」

「わかったよ……」


 俺は駿にパスを出して急がせる。今は1分1秒だって無駄にしたくない……


 駿が感触を確かめるように数回ドリブルをして、シューズの感触を確かめながらコートに入ってくる。


 いよいよだ……何百回と負け続けてきた。

 あの時、苦しそうにビブスを脱いだ親友の姿となにもできなかった俺。

 今日、駿は少しだけ前に進めた……

 じゃあ俺は一体どのくらい前に進めてるんだろうか……それが知りたい。

 

「……ゴクリ」


 もう2度と一緒にバスケはできないと思っていた。

 もしかしたら今日を逃せば一生できないかもしれない。

 だから、改めて駿との10分を記憶に刻み込む。

 心に残る1番強くて新しい記憶を、駿とのバスケの思い出を……悲しいものじゃなくて嬉しかったことにするために……


 駿が深呼吸をする

 

 ーーパシッ……


「やろうか、大輝」


 ボールと共に最強で最高の憧れの存在が目の前に帰ってきた。

 ブランクなんて感じさせないその圧倒的なプレッシャーを俺は全身で受け止める。


「っっ……今日はぜってぇ負けねぇ!!」


 いよいよ待ちに待った1on1が始まった


 「くそっ……やっぱり駿はすげぇわ……」

 

 シュートをブロックされるたび、ドリブルで抜かれるたび、必死にブロックに飛んだのにひらりと交わされてシュートを決められるたびに憧れの強さを再認識して笑みが込み上げてくる。


 先輩たちが気を遣ってスコアをつけてくれているが、未だに俺の数字は増えていない。


「ほら、次は大輝の番だぜ」


 いや、今はスコアなんて気にする必要は無い……


「ああ!次こそ決めてやる!」


 残り1分を切ってる……ラストワンプレー、その背中まだまだ追いかけさせてもらうぞ!


 ドリブルをつきながら大きく右に踏み込む

 こちらの動きをわかっていたかのようにピタリとついてくる駿……

 ロールして左に切り返して中に切り込むような姿勢を見せれば駿は一歩引いて距離が空く。

 駿が引いたのに合わせて少し後ろに下がり、ゼロステップで距離をさらに離した上でシュートに移るが、どんな反射神経と身体能力をしてるのか駿はしっかりブロックに飛んでくる。


 俺は駿をいずれ追い越して日本一のプレイヤーになる。

 今より高く、高く飛んでいく!


 シュートを打ったのはいつも駿からパスをもらってきた3P45度の位置。

 放ったボールはいつものループよりも高い弧を描き、リングに吸い込まれた。


「決まった……やった!駿から点取った!!」

「はいはい、おめでとさん」

「くぅ〜……やばい、めっちゃ嬉しいわ!!」


 どうやら俺もほんの少しだけ前に進む事ができていたらしい。


「犬飼!10分だ!」

「あっ、了解です……」

「良いものを見せてもらった……少しだけ休んでおけ」

「ありがとうございます」


 たった10分の1on1。

 それでも俺には夢のような10分だった。


「駿……ありがとう」

「いや、こちらこそ……いろいろありがとう」


 コートを出れば駿はいつもの雰囲気に戻る。


 俺は充実感と疲労感でフロアに大の字で寝転がる。

 しばらく柏木さんと3人で会話をして駿は帰って行く。


 きっと帰るとか言っておきながら、正門のところでまた幼馴染のことを考えたりしながら写真を撮ってるんだろう。


 黄色が見えた世界で初めて撮る写真はどんな物になるのか少しだけ興味もあるけど、これは学校便りを見るまで楽しみに待っておこう。

 「俺にはさっきもらった宝物(写真)があるからな……」


「ねぇ、犬飼くん」

「んあ?柏木さんはまだ帰らんの?」

「帰るけど、その前にちょっと聞きたくて」

「ん?なんでしょ?」

「瀬戸くんのことよ、彼は一体なんなの?」

「瀬戸駿。元バスケ部の絶対的エース。以上」


 てっきり駿と一緒に帰るような流れだったと思ったから柏木さんが残っていることに少し驚きながらも、駿のことを探るような質問に俺は少しだけ線を引くように答える。

 

「いや、そう言うことじゃなくて……教室いた時とは全然雰囲気違うし、さっき2人して泣いてたし……やっぱり気になるじゃない」

「おお、さっきの見られてたか……きゃー恥ずかしぃ〜、もしかして柏木さん覗き魔さんだったりして〜」

「ふざけないでよ」

「まぁまぁ……怒らない怒らない」

「犬飼くんがふざけるから……」


 柏木さんはさらに踏み込んでくるため、少しふざけて話の空気を変えてみようとするが、どうやら柏木さんも引くつもりはないらしい……

 うーん……もしかしてバスケをする駿を見て好きになったとか?

 だとしたら俺が駿と女の子の間を取り持つようなことは絶対ないけど……

 友人としてなら?

 まあ、いい子っぽいしお互いを知るきっかけ作りくらいなら構わないけど。

 

「じゃあ聞くけど、柏木さんは駿とどうなりたいわけ?」

「仲良くなりたいと思ってるわ」

「それはクラスメイトとして?恋愛の対象として?それとも、隣を歩いていく仲間として?」

「2人のようにお互いを同じくらい大切に思い会えるくらいの存在……になりたいと思ってる」

「俺たちと出会ったばかりなのにそこまで言ったんだ、理由を聞いてもいいかな?」


 柏木さんの言葉には正直驚いた。

 今日出会ったばかりで、俺にとってはたまたま駿の隣の席にいる女の子という程度の認識でしかなかったから……

 駿の事を心配してくれてるのも、知りたいというのも、世話焼き気質からくる興味本位程度かと思っていたが、どうやら違ったらしい。

 俺たちの関係のどこをどう見てそう思ったのかはわからないが、あれだけ線を引いたのに躊躇わずに踏み込んで来たこの子なら理由次第で……と思ってしまった。

 

「私は……」

「犬飼!いつまで休んでんだ!!練習始めるぞ!」

「あちゃー……タイミング悪かったな……まぁ、これ以上はこんなとこでする話でもないか……柏木さん、とりあえず駿を追いかけてみなよ、多分なんだかんだ正門のあたりにいると思うし、話はそれからかな」

「わかった……犬飼くん、また明日」

「あした〜!」


 練習に呼ばれてしまって理由はちゃんと聞けなかったけど、柏木さんは今の俺や駿に何かをもたらしてくれるかもしれない……そんな予感がした。

 

 俺がああやって線を引いてたのも、ただ土足で踏み込んできて、駿の傷というか俺の傷でもある部分に触れられたくなかっただけだ……


 そもそも駿と誰かが仲良くなるのも、ならないのも俺が決めることではない。

 

 俺たちにはいつかちゃんと向き合って、乗り越えないといけない深い傷がある。


 その傷を癒すのか、そのまま受け入れるのか

 全てはいろんな経験をした未来の俺たちが決めてくれるだろう。


「お待たせしました!!練習戻ります!!」

「おう!」


 俺は俺でひたすらバスケ(この道)を突き進む。

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