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ルシア・ストームス

年齢  491

10年前に少女の亡骸を乗っ取ったアイスドラゴンの化身。

体力 測定不能

魔力 測定不能

属性 全属性

能力 全知全能 

なお、この鑑定をしたものにはドラゴンの呪いがかけられる。


「…ドラゴンの呪いって」


「こんなイカサマできるのねぇ」


 呆れるアキュレスとうっとりするニコリネに、ルシアはすごいでしょ?と子どものように目を輝かせる。その様子は半日前に激昂していたとは思えないほどの表情で、アキュレスはほっと胸をなでおろす。


 帰ってくるなり体力が尽き、倒れてしまったシエナには何か褒美を用意しないと後が怖い。


 ルシアの魔力を吸収すると、自身の魔力も高くなる。が、体力と引き換えの上昇なので、危険が伴う。自身にも経験がある彼は、二、三日はシエナを休ませなければと、冷静に考える。


「麗しきレディの手に勝手に、しかも、めちゃくちゃ気持ち悪く触れて、承諾も無しに鑑定までしようとしたんだから。…あんなエロ親父、ドラゴンに呪われて当然よ」


「…悪いことにばかりに能力を使うんだな」


「ええ。アキュレスさまのお教えに従って、日々、精進しております」


 とんだじゃじゃ馬姫だ。何度思ったか分からないことをアキュレスはまた思ってこめかみを押さえる。それでも、ストームスの一員としてルシアが穏やかに過ごせていることに同時に安堵もする。


「ドラゴンの呪いとはどのような呪いですか?」


「…どんなのがいいかしら?とりあえず、あのエロ親父には時間差発動の不眠と恐怖を混ぜたのをかけておいたの。今夜から眠れなくなって、明日の昼前には恐怖状態になると思うわ」


 まるで土産に買ってきた焼き菓子の説明でもするかのようにルシアは言って、ホルンはうなる。


「うーん…では…私のところに治療の依頼がくるにはしばらく時間がかかりそうですね」


 ホルンは、真面目な表情で考えを巡らせる。まだ見ぬ患者をどう治療するかの作戦を今から立てている。


「そうね。そんじょそこらの癒し手には治せないように…ホルンじゃないと治せないように複雑に術をかけてしまったから…」


「でも、あまり複雑だと…もしかすると、私でも難しいかもしれません」


「ファルケンベリがストームスに素直に下ったら、私も行ってあげるわぁ」


 ニコリネの能力は、魔力判別の能力だ。本来は魔獣の能力を調べる能力だが、ルシアが作り出したものがどのような仕組みでかけられているのかという判別にも有効だ。ニコリネの能力のもとでは魔獣とルシアは同等の扱いなのだ。


 桁違いの能力者揃いのストームスの娘たちに目の敵にされてしまったファルケンベリに心から同情しつつも、この街を牛耳る好機を逃すまい。とアキュレスは決意する。



アイリーン・シア・ビルギット

年齢 13

ビルギット王国第1王女 大魔術師

体力 170 (魔法効果+340)

魔力 測定不能 

属性 全属性 

能力 全知全能 属性創出 能力創出


 十年前にルシアの鑑定をしたときにも、これはイカサマかと思った。見た目通りなのは年齢だけで、体力は著しく低く、魔力でそれを補っていた。まだこの頃は補う力が少なかったが、結界の強化によって、おそらく現在は体力も測定不能となっているだろう。


 何よりもこの属性創出と能力創出が厄介だ。本人だけでなく、もともと能力者であるストームスの面々に新たな技を軽々と授けてしまうのだ。鑑定の能力を持たなかったシエナ、エイダ、ニコリネもそれぞれの属性や能力に沿った独自のやり方で鑑定ができるようになってしまった。


 商会会頭としてはありがたい限りだ。鑑定の能力を持つ人間は、商会にとって宝だ。ルシアの存在は、貴重で、だけれど、一歩間違えれば命を狙われる危険だってあるというものだ。そして国としては、なんとしてでも得たい人材だ。一つの商会においておくのはもったいない。あの能力がある限り、狙われる危険は常に付きまとうのだ。


「…そういえば、アキュレス様。アレ、ルシアに渡しましたぁ?」


 ニコリネが間延びした声でにっこりと顔を向ける。



 ルシアとシエナがファルケンベリの縄張りで暴れていた時分。大小さまざまな魔石を携えた騎士団副団長トシュマン・ビューマーが商会を訪れた。


 昨夜、騎士団の基地に大量のフロストウルフの亡骸とともに訪れたルシア(魔力で氷のソリを作って、それにウルフをすべて乗せて基地までビューマーに引かせたという鬼のようなことを言っていた。)は、解体の能力を持つ者をその場で選抜し、土魔法で即席の解体場まで作って、新鮮なうちに解体しないと味も価値も下がると言って(脅して、だろうとアキュレスは思っている)、騎士団全員を叩き起こし働かせたのだという。


「ビューマー殿。…昨夜は、うちのルシアがご迷惑おかけしました。」


 どちらの身分だとしても、ルシアの主である以上は謝罪するべき案件だ。騎士団を総動員させる事が出来るのは、本来は王族のみだ。


「とんでもない。何度礼を述べても足りないくらいです。…ただ、少し厄介なことになりそうで…。」


 今朝以上の厄介ごとなどあるものか。何度目かわからない、九死に一生を得たアキュレスは、副団長に微笑みを向ける。


「ストームスでお力になれることでしたらなんなりと。」


 騎士団結成時から取り貯めていたという魔石を受け取りながら聞いた話によると、昨夜から、ルシアの弟子になりたいというものがあとを絶たず、ルシアに訓練をつけてもらえないか正式に団長が申請をしようとしている、と。


「そこまで大々的になってしまうとルシア嬢が嫌がるのではと思うのですが…団長にお前ばかりいい思いはさせられないと言われる始末で…」


「…何か、いい思い、されたのですか?」


「…50頭ほどのフロストウルフが乗った氷のソリを一人で引くことがいい思い、なのでしたら、存分に味わいました。」


 いい訓練にはなりましたがね。ビューマーは涼しい顔で言ったが、すぐに苦々しく息を吐く。


「アキュレス様とは旧友と伺っておりますので、ご存知とは思いますが、うちの団長もなかなか言い出すと聞かない男でして…」


 あいつならそうだろう。なんなりと、と答えたことにアキュレスはもう後悔していた。


「...それなら、ルシアの討伐の仕事を手伝ってもらったらいいと思いますよ。」


 エイダが魔石をより分けながら、顔を上げずに言う。


「ルシアひとりのために騎士団は動かせないだろう。」


「王族だけでなく、民を守るのも騎士団のお仕事でしょう?…そもそも、ルシアひとりで夜中に討伐に行かせるのはやっぱり危険だし、本人が大丈夫といくら言っても、心配だわ。」


「そうですね。僕は姉様が心配で、心配で…。姉様が討伐に行く夜は眠れないこともあります。」


 エイダにつづけて、魔石の目録をつけていたオーリが頷く。お前たちは、ルシアの全知全能の能力を知らないからだろう。アキュレスは思うが、お前、鬼畜か?とでも言わんばかりのビューマーの鋭い視線にたじろぐ。


「…エイダ、今来てる依頼は?」


「フロストウルフは昨日ので大丈夫、と、して…ああ、フロストベアがいいんじゃないかしら?ルシアはフロストベアが苦手だから。」


 なんで、あんな重いものを一人で担いで持って帰ってこなくちゃいけないの?頭おかしいの?討伐だけで十分でしょ?去年言われた言葉を思い出すだけでも頭が痛くなる。


「ルシア嬢が苦手な魔獣…騎士団で手に負えるでしょうか?」


「大丈夫です!姉様が苦手なのは持って帰ってくることですから!」


 オーリが元気よく言うと、ビューマーはなるほどと、うなずく。エイダは誰に言うでもなく、魔石から顔を上げて、困ったというような表情をする。


「去年は行く前に誰かさんがルシアを怒らせたから、魔石ごと焼き払ってきちゃったのよ。本当にもったいなかったわ…フロストベア、とっても美味しいのよ?…騎士団の皆さんと一緒なら子どもたちにも美味しいの食べさせてあげられるんじゃないかしら?」


 アキュレスはだらしなくうなだれることしかできない。ルシアを怒らせた誰かさんは己なのだから。


「…ビューマー殿、ルシアの…警護、お願いできますでしょうか…。」


 『警護』というより子守りと言ってしまいたいアキュレスだがそこはこらえる。


「警護されるのはこちらのような気もしますが…謹んでお受けいたします。」


「会頭、ルシアにはビューマー殿のような常識人をそばに置くべきですよ?」


 エイダは涼しい顔で言った。それと、この魔石はどうしましょう?彼女はアキュレスにひときわ大きな魔石を差し出した。


 昨夜のフロストウルフの魔石だろう、と、まずは見た目から判断する。透き通った淡いブルーの整った雫型。大きさも申し分なく、藍玉のような美しさだ。相当な魔力を持った個体から出る魔石だ。鑑定をすべく手元に魔力を集中させる。


「それは昨夜の中で身体が一番大きかった個体から出た魔石です。」


「群れのボス…か、相応の個体の魔石というところですね。…これは価値が高すぎるので、団長殿か、副団長殿、もしくは騎士団の財産として保管しておくのがいいと思います。…これくらい立派なものであれば、国に献上することもできますよ。」


 では、それはルシア嬢へさしあげてください。ビューマーは迷うことなく言って、それ以降は何を言っても譲らなかった。アキュレスの周りにはどうしてだか(自分を含めて)、頑固者が集まってしまうらしい。




「…いらない。」


「だめよぉ。副団長様からのご寵愛の証よ?」


 素敵じゃないのぉ。ニコリネは言うけれど、ルシアはぶんぶんと首を横にふる。


「私も、副団長様からの贈り物として受け取ったほうがいいと思います。…今日のような不届き者はひとりでも減らしたほうがいいと思いますし。」


 こういうときは黙っているに限る。アキュレスは様子を伺いつつも騎士団長宛の書状の筆を進める。副団長と口約束で話を決めたものの、団長にも正式な依頼を出しておかないと後々、何があるかわからないし、拗ねるかもしれない。


 現状はどうであれ、国の機関である騎士団にはこちらから依頼をして、形として残しておいた方が無難だ。


「それにね、石包みのペンダントをずっと編んでみたかったの。こんな素敵な石で作れることなんて滅多にないでしょう?…ルシアにつけてもらえたらうれしいわぁ。」


「いいですね!ニコリネが作るアクセサリーの宣伝にもなりそうです!」


「…ニコリネが作ってくれるっていうなら。」


 うまく話がまとまったらしい。なにかある事にこんなふうに、かしましいのがストームスの日常だ。ルシアにしてもシエナにしても、他の姉妹たちから言われてしまえば断れないことは分かっているのにまずは抗うのだ。始めから素直になればいいのに。


「…それは、俺も同じか。」


 アキュレスはつぶやいて、小さく笑った。


 国のことも、兄のことも、家のことも全て忘れて、アキュレスとしてだけ生きていけたのならどんなにいいだろう。


 でもそれはルシアはもちろん、シエナにも決して許されないだろう。そもそも彼女たちを巻き込んだのはこの自分なのだ。巻き込んでしまったことで彼女たちに一生かけても償えない傷をも負わせてしまっている。


 せめて、今だけでも。


 せめてゲオルグ兄が謹慎で動けない今だけでも、この賑やかで温かなストームスでの暮らしをアキュレスとして大切に時を過ごしていこう。


 おしゃべりに夢中になっている娘たちをそのままにして、夜の営業をはじめるべく、ランプの魔石に魔力を込める。


 ランプに反射したその顔は、なんだか泣きそうな顔をしていた。

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