吸血鬼は紅い夢をみる
。o 〇
バアル・ダイ・マオハルト。
カンナ・グレイシア。
結婚。
『――――おめでとうございます』
幸福そうな顔で微笑みあう、睦まじい二人。
分かっている。
最高の男と、最高の女と。これ以上ない二人だと。
これで魔族の未来も安泰だ、と。
祝福しなくて、なんとする。
俺は、笑顔で――
笑顔でいられたんだったか――――
〇 o 。
これは夢だ、とジョルジュは気付いた。
これは過去の記憶だ、とジョルジュは分かった。
追憶は、栓の外れた酒瓶のように、とまれと念じても溢れ零れ出していく。
ジョルジュは夢におちる。
。 o 〇
バアル:
『またお手柄だな、ジョルジュ!』
いつからだったか。
ジョルジュ:
『なんの、これしき。魔王様のためならば』
バアル:
『そうは言うがな。褒美はやらねばなるまいて』
カンナ:
『妾の血か?欲しくばくれてやろう!』
ジョルジュ:
『遠慮しておきます。俺は――――処女の血を好みますので』
俺は、バアル・ダイ・マオハルトに敬愛の念を抱いていた。
俺は、カンナ・ マオハルト、に恋慕の情を抱いていた。
割って入れるものか。
一線を引く。
言い訳ができればどうでもよかったのだ。
バアル:
『む?そうだったのか?』
カンナ:
『―――――』
い。
く。
じ。
な。
し。
カンナの唇が何と呟いたのか、
俺からは見えていた。
〇 o 。