邂逅
*イメージとしてはこんな感じ*
***************
ミークリッド
↓ 占領中 抵抗中
ユーシア→ ワールウィンド 無事
抵抗中 山里
↓この辺にイグザム
***************
公都から少し離れた山の中。
切り株に腰かけた老婆の目にも、戦禍の狼煙が立ち昇るのが見えていた。
老婆:
「やれやれだねぇ……」
To be, or not to be.
ときの流れよ、と静観するのもひとつの結末ではあっただろう。
だが、――――彼なら、きっと見捨てなかっただろうと思ったから。
老婆は、長年――――長年もの間、棲み慣れたあばら屋に別れを告げた。
老婆は山を下った。
老婆は森を抜けた。
老婆は里へ降り立った。
老婆はここまでの間、息切れ一つ起こさずに駆け抜けてきた。
人気の感じられない里の様子をみてとり、老婆はため息をついた。
と、
猫少女:
「とまりなさーい!」
一人の猫人族の少女が、警棒を片手にぶんぶんと振り回しながら走り寄ってくる。
老婆:
「おやおや――
猫少女:
「あなた……ワールウィンドの民でしょう!!」
老婆:
「――――そうじゃよ」
猫少女:
「おばあちゃん!今はアブナイから、家で大人しくしてた方がいいよ!じゃないと――」
少女は俯いて、
猫少女:
「ミークリッド教のやつらに見つかったら、ころされちゃうから……」
老婆:
「みーくりっどきょう……?すまんねぇ……若い者の話題には疎くて」
猫少女:
「おばあちゃんも、魔族なんでしょう?!」
少女の視線は、老婆の尖った耳に向けられている。
老婆:
「おばあちゃんは、魔族じゃなくてハーフエルフじゃよ」
猫少女:
「そうなんだ!マリー、エルフの人ってはじめて見た!かっこいいお耳だね!」
老婆:
「ふぉ。ふぉ。そうかい。お嬢ちゃんはかわいいお耳だねぇ」
猫少女:
「!!――――そうなの!マリーのじまん!」
えへへ、と笑う少女。
どうやら名前はマリーというらしい。
老婆は目を細めて少女を眺める。
と、そこへ――。
砂煙が上がった。
老婆が気付いて顔を向ける。
老婆の様子に気付いた少女が顔を向ける。
旗が、はためいている。
黒と白の斜め線の交差――、ミークリッド教の旗印。
ユーシア・ミークリッド連合軍の騎馬隊である。
――老婆はなぜか、『Xのロゴかよ!』という幻聴が聴こえた気がした。
老婆:
「わしももう歳かねぇ……」
マリー:
「おばあちゃんは、おばあちゃんだよ?」
老婆:
「……お嬢ちゃんや。女は、いくつになっても、女なんじゃよ」
マリー:
「なぁに、それ!当たり前じゃない、――って!そうじゃなくて!逃げて!!」
マリーは、老婆を庇うように半歩進み出た。
マリー:
「ミークリッド教――――ッ」
老婆は、少女の丸まった背中を見た。震える手足を見た。
それでも、前に出た少女を見た。
老婆:
「お嬢ちゃんの名は。マリー、と言うのかい」
マリー:
「マリーは、マリーだよ」
―― 猫人 『マリー』 ――
老婆:
「わしの名は――。ジル、という」
老婆――ジルは、わらった。
・・・・・・
騎馬隊の兵たちに緊張感はなかった。
ろくに戦力の残っていない里を襲って、少々おこぼれにあずかるだけ。と。
だから、
騎馬兵:
「なんだぁ……?あの婆さん」
老婆が、馬の進路上へと歩いて向かってくるのが見えた。
痴呆で逃げ遅れた婆さんだろ、とでも考えたかもしれない。
騎馬兵:
「曳かれても知らねーぞぉ!ババァ!」
理不尽は誰の身にも起こりえる。
例えば、平和に暮らしていた里を襲撃に来る敵国の兵隊であるとか。
白い装備の騎士:
「…………」
騎馬隊の後列を走っていた白を身に纏う少女だけが、馬の轡を引いた。
例えば、雑魚だと思って殴りかかった相手が――
ジル:
「風刃」
古の英雄であるとか。
騎馬隊の男たちは、嘲りの表情を浮かべたまま。
大きな鎌で薙ぎ払われたかのように、一様に首を切断され絶命した。
錘のバランスが崩れた馬たちが、抗議の嘶きをあげつつどこかへ走り去っていく。
マリーは、
のこのこと前に進み出るおばあちゃんを止めようとして、
でも怖くて、脚が震えて、
守らないといけないのに、兵士たちが怖くて、
足がもつれて、こけて、手も痛くて、情けなくて、涙目で、
マリーは見ていて、
さらりと宙に舞う九つの生首は、グロテスクで、血とかいっぱい噴き出して、
怖くて、吐き気がして、
おばあちゃんの曲がった背中は小さくて、絶対マリーの方がおっきいのに、
かっこいいなと思った。すごいなと思った。
マリーの琥珀色の瞳は、涙に滲んで揺れていた。
ジルと白の少女は、視線を合わせた。
ジルは無表情だ。白の少女は無表情だ。
ジルはゆるりと手招きをした。
白の少女は、馬首を返して走り去っていった。
ジル:
「…………五分五分かねぇ」
マリー:
「おばあちゃん!おばあちゃん!」
ジル:
「ジルでいいよ」
マリー:
「ジルおばあちゃん!」
ジル:
「ジルでいいんだよ」
マリー:
「ジル!すごい!ね!すごいね!」
マリーがジルに抱きついて、ジルは揉みくちゃにされた。
ジルは体毛と体液に塗れながらも、したいようにさせた。
マリー:
「マリーを弟子にしてください!」
ジル:
「ふぉ。ふぉ。気が向いたらの……」
マリー:
「うん!ありがとう!」
ジル:
「――やりにくい、のぉ……」
ジルは天を仰いだ。