オンリーワン
神聖ミークリッド教国は小規模な宗教国家であった。
領地も広くなく、信者も多くなく。影の薄さで存続していた国であったが、
聖女の誕生で激変した。
断罪の聖女、シャルナ・ザッハークは瞬く間に実権を掌握。
あまねく大地をミークリッド教の威光で照らすべく――。
未開の地を教化せんと――。
彼女は小国の殻を破り、世界を掌握せんとする。
Tips:
『ミークリッド教』
・『主』のみが唯一の神である
・偶像を作ってはならない
・殺人をしてはならない
・姦淫をしてはならない
・窃盗をしてはならない
・偽証してはならない
・但し、異教徒に関してはこの限りではない
その特徴は戒律と選民思想。庇護対象は人間で信徒であるもの。
人間で異教徒である、あるいは魔族である場合は救済の対象とならない。
・・・・・・
騎士:
「むむむ……。まさか城攻めに失敗するとは……」
―― ユーシア王国騎士団長 『ブーチ・カマッセ』 ――
ブーチは頭を抱えた。
攻城に攻め入った兵たちが吉報を持ち帰るのを、城外を取り囲みながら待つだけでよかったはずが。
物言わぬ躯となった兵士が投石の如く、一つ、また一つと城から投げつけられる。
損害はもとより、士気の低下が著しい。
ブーチ:
「撤退せよ!」
敗戦。の二文字が脳裏をよぎる。
ブーチ:
(――――武の名門、カマッセ侯爵家の名折れだな)
ワールウィンド公国側に脅威となる戦力は存在しない見立てだった。
先代のワールウィンド公が崩御しており、跡取りは頼りない娘一人と聞いていた。
簡単な勝ち戦で勲功を増やすつもりが……、いや、
ブーチ:
「フランキスカ殿――」
ブーチの呼びかけに、宣教師風の男は肩を竦め、
フランキスカ:
「はて。我らは城攻めに手を貸す、という契約で動いております。――義務は果たしましたが?」
―― 神聖ミークリッド教国宣教師 『フランキスカ』 ――
ブーチ:
「……、分かっている。増援をお頼みできないかという相談だ」
フランキスカ:
「それは――あなた様の権限でもなければ、わたくしの権限でもありませんな」
ブーチ:
「王に相談する。聖女殿にお取次ぎ願えまいか」
フランキスカはにやりと笑った。
フランキスカ:
「宜しいでしょう」
・・・・・・
ロイ:
「は、はぁ~~……。何とかなった、の?」
ロイは割れた窓から外を、城を包囲している兵団が引き上げていくのを見ていた。
連合軍全軍が撤退していったことを確認し、膝から崩れ落ちる。
ジョルジュ:
「この程度。我の敵ではない」
ジョルジュは単騎で無双の活躍をしながらも傷一つみえない。
――負傷はすべて再生されたので。
ロイ:
「助けてくれて、ありがとう」
ジョルジュ:
「なんの、これしき。我が主のためならば」
ロイ:
「主……、なんで?私、何もできないけど……」
ジョルジュ:
「我は――遠い昔、『マオハルト』様に仕えておったのだ」
ロイ:
「遠い……昔……」
ロイはジョルジュを見た。
気障ったらしく感傷に浸っている少年。
……どう見ても、自分よりも年下にみえる。
ロイ:
「……坊や、いくつ?」
ジョルジュ:
「さて。二百より先は数えておらんな」
ロイは半信半疑ではあったものの、長命な魔族がいてもおかしくはないか、と思い直した。
というか、
ロイ:
「なんで鞄の中に入ってたの?」
ジョルジュ:
「それは我にも分からん、が――」
ジョルジュの脳裏に、悪鬼羅刹の冷めた瞳がフラッシュバックする。
ジョルジュは頭を振り、思い出そうとするのをやめた。
ロイ:
「ジョルジュは、私のご先祖様のことを知ってるの?」
ジョルジュ:
「恐らく知っている、が――、ムネモシュネ・マオハルトの名に心当たりは?」
ロイ:
「分からない」
ジョルジュ:
「ふむ。汝からは、……何代前に当たるか分からんが――」