少年テイマー、昇格試験の依頼を受ける
「そうそう、コイツが先生に会いたがってた奴なんだ!」
「こ、この人が……?」
僕はもう一度、目の前の人をじっと見てみる。筋骨隆々の体つき、でも着ている服はどこか落ち着いていて、気品がある。
「ラルフさん、この人は役場とか、偉い人の所で働いてる人でしょうか?」
「そうなんだよ。コイツはこんなムキムキだけど、仕事はキッチリと出来る職員なんだ!」
「おいおい止せよ、照れるじゃねぇか!」
すると彼はこっちに来て、僕と同じ目線に立つよう体を縮めた。
「俺はロットン、街役場の職員をしてるんだ。今回はラルフに着いてきて、一目君の顔を見ようと思ったわけだ!」
「は、はじめまして!僕はティムと言います。今は配信者をやってるんです。」
「そんな緊張しなくてもいいんだぞ!でも、もしそんなに怖いなら……食っちまうぞ!」
「わっ!?」
両手を挙げてジェスチャーをとるロットンさん。何だろう、おもしろい人だなー。
「それでお二人はどうしてこちらに?」
「リースちゃん、それは今から説明するから安心しろ!」
ロットンさんはジュースを飲むと、勢いよくコップを机に置いた。
「旨い!堪らねぇぜこの一杯は!」
「やめろ馬鹿!酔っぱらいみたいじゃねえか!」
「分かったよ。んじゃ、始めるかな。」
そして彼は急に真面目な顔になって、椅子に座った。
「今回来たのは、君の顔が見たくてって言っただろ?実はそれ以外にも目的があるんだ。」
「も、目的?」
「ああ。ラルフに関する事だ。」
「ラルフさんにですか?」
僕はラルフさんの方を見るけど、ラルフさんも分かってないようで首を傾けていた。
「ああ……コイツはこの度……ランク昇格試験を受けられる事になったんだ!」
「ほ、本当ですか!?」
「……マジか!?聞いてないぞ!」
「だって言ってねえし。タイミングは俺に任されてたから、ここで言おうと思ってたんだ。」
ロットンさんは急にハンカチを取り出し、顔を拭う動作をしている。
「俺は嬉しいぞ!万年Dランクなんて言われてたラルフが、遂に上のステージへ行けるんだ……長年見てきたからな、何か不思議な気分だよ。」
「お、おめでとうございます……。」
「だからティム、君にも相談したい事があるんだ。」
「は、はい!?」
「良ければ君にも、ラルフの昇格試験に付き合ってもらいたいんだ。」
「ぼ、僕がですか!?どうしてですか?」
「いや、昇格試験を受けれるとは言え、コイツはまだまだ未熟だからな。元勇者パーティーであり、コイツの先生でもある君に見守って欲しいんだ。」
「そ、そうなんですか。ラルフさんはどう思いますか?」
突然の事で驚いた僕は、真っ先にラルフさんの方を見た。僕が試験官をやるって事なのかな……。
「俺はいいぜ!先生が見てくれるなら、力がみなぎってくる!だろ、タルト!」
「かめ!」
「こういう事なんだ。魔物と一緒の試験なんて俺達は初めてだからな。テイマーの視点から試験に協力して欲しいんだ。頼めるかな?」
試験官……ちょっと難しそうだけど……うん、僕なら出来る!僕はテイマーとしてずっと頑張ってきたんだ!ラルフさんの為にも、協力しないと!
僕は決意し、大声でロットンさんに声を掛けた。
「わ、分かりました!よろしくお願いします!」
「ありがとうな!君に手伝ってもらえれば百人力だ!」
ロットンさんは僕の手を握ってブンブン振り回す!あ、危ない!体が引っ張られちゃうよ!?
「じゃあ俺は書類を書いてくるから!リースちゃん、部屋借りるぞ!」
「はい!ご自由に使って下さい!」
ロットンさんはそう言って、二階の部屋に向かって歩いていってしまった。
「先生、びっくりしただろ?アイツはあんなだけど、とてもいい奴なんだ。頼りになるんだよな。」
「は、はい。でもラルフさん、試験については聞いてなかったんですよね?」
「ああ。俺も突然だったから驚いたよ。ま、そういう訳で、よろしくお願いします!ティム先生!」
「こちらこそ、よろしくお願いします!」
それから僕達は、景気づけにジュースを一杯ギュッと飲み干した!レルは……今寝てるね。後で教えてあげなきゃ!
「よし!なら今日は軽く運動しておくか!先生、一緒にストレッチしようぜ!先行ってるよ!」
「す、ストレッチ!?ま、待って下さいー!」
◇◇◇
「よーっし、書類作成終わり!面倒な物は早めに済ますべきだな!」
ロットンは書類を書き上げ、机の上に放り出した。一見デタラメだが、適当に置かれた書類には綺麗な字で複数の文が書き込まれていた。
「ラルフの昇格試験……楽しみだなぁ。この数ヶ月で、ここまで力を付けたのは驚きだぜ!」
彼は椅子の背に寄りかかり、欠伸をしながらくつろいでいた。
「ようやくここまで来れたんだ。ちゃんとアイツが試験に集中出来るように、火の粉は払わないとな。」
ロットンは天井を見上げながら、試験について考えているのだった。
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