少年テイマー、メイドとの決着!
「う、うーん……。」
「お、起きたかマーチ。」
「ケビン?私達は……?」
地面で気絶していたマーチとケビンは大きな音で目を覚ます。そこでは、もふもふの鎧を着たティムと、魔王のメイド・ルーがお互いに武器をぶつけ合っていた。
「や、やっぱり……ティムは私達よりも、ずっと強かったのね……。」
「そうだな……。」
「ね、ねえケビン?」
「どうした、こんな時に?」
「その……。」
二人は動けない中、目の前の光景を見ながら、少しだけ言葉を交わしていた。
◇◇◇
「レル、こんな作戦はどう?」
「わふ?」
僕達は顔を近づけ、作戦会議を始めた。ルーは欠伸をしながらこちらを待っている。
「ふぁー。どうします?ここは慎重になって下さいね!次が最期になるかもしれませんよ?」
「わん……ガゥゥゥ!」
「レル!挑発に乗っちゃ駄目だよ!」
「わふー。」
僕はレルの体を押さえながら、耳元で話しかける。レルも少し落ち着き、僕の方へ耳を傾けた。
「わふ?わーん!」
「うん、それなら行けそう!ありがとうレル、早速試してみよう!」
「その様子……作戦が決まったみたいですね!」
ルーは片手をシュッと伸ばすと、その手から骨の剣が突き出す。それをこちらに向けて、ニコニコと笑っていた。
「では、始めましょう!ここでラストです、これ以上時間をかけると、お互いに疲れちゃいますからね!」
「なら、一気に決めるよ!レル!」
「わん!」
僕達は同時に加速、同時にルーの背後に回り、同時に鉤爪とブレードを向けて突進する!
「おお、でもまだまだ!確かに速いですが、見切れないわけじゃありませんよ!」
僕達の同時攻撃を剣で受け止めたルー。それが僕達の狙いだ!
「レル!合わせて!」
「わん!」
僕達は同時に空中を一回転、そして同時に飛び退き、同時に着陸した!
「行くよ!」
「わん!」
そして再び同じ動きで、ルーへ攻撃する!
「さっきと同じ動きですね……。何か意味があるのですか?」
「それは内緒だよ!こっちには考えがあるんだ!」
しばらくはこれの繰り返し。同じ動きで同じタイミングに攻撃を仕掛ける僕達に、彼女は少し苛立ってきたようだった。
「うわっ!?」
「わふー!?」
「くどい!どうしちゃったんですか!?動きが単調過ぎます!そんなので私に……あっ!?」
ルーは僕達を弾くと頭に指を付け、何やら考え事を始めたみたい。今のうちに僕達は魔力を体に集める事にした。
(全く同じ動き……そうか!私が変身した時に動きが乱れるからですね。あの二人なら動きを合わせられるけど、私では合わせられないからすぐに見破れる。これがあの二人なりの対抗策ですか……!)
「ならば、私の作戦はこうです!」
ルーは背中に自分の手を突き立てる。そして何かを探しているのかな……?
「よし、これならどうです?」
背中から引き抜いたのは……な、ちょっと待って!?あれは……!
「これならどうでしょう?」
出したのは骨の剣だけど、何あれ!?数が多すぎる!?
「その動き!お互いのコンビネーション!確かに素晴らしい物です!でも……これならどうですか?」
ルーはまず僕に剣を投げつける。それを僕が弾くと同時に、次はレルに向けて剣を投げる。それを繰り返し、僕達の距離はどんどん開いてしまっている。
「う、うわっ!?重い、それに動けない!レル!」
「わ、わん!?」
しまった!僕とレルの動きがバラバラになって、コンビネーションも取れなくなっちゃった!?
「今です!」
「うわっ!?伏せてレル!」
その瞬間、白い剣は一斉に爆発し、破片が僕達を襲う。それと同時に彼女は姿を消し、僕達は完全に見失ってしまった。
「また消えた!?レル、作戦通りに!」
「わん!」
僕達は地面に伏せ、攻撃を避ける。レルの声はちょっと遠い……さっきの攻撃で思ったよりも距離が空いたんだ。
「落ち着いて……構えるんだ。どこから来ても良いように。」
やがて破片が止み、恐る恐る目を開ける。すると僕の目の前には、ルーの姿があった。
「フフッ!」
「うわっ!?」
彼女は剣を口に咥え、僕を攻撃する。僕も鉤爪で応戦するけど、体格差もあって一気に追い詰められる!
「えいっ!」
「しまっ」
僕は体を掴まれ、地面にぶつけられる。何てパワーだ!?
「このっ![魔技]ハウンドクロウ!」
僕は鉤爪に魔力を送る。すると鉤爪が巨大化し、茶色の光を放つようになった。
「な、わっ!?」
光に気を取られて目を閉じるルー。僕は地面に鉤爪を刺し、一気に抉り取る!
「うりゃぁぁぁ!」
「なっ!?」
僕の巨大な鉤爪は、ルーを切り裂いた!すかさず四つん這いになり跳躍、両腕に鉤爪をぶつけると彼女は剣を落とした。
「これでトドメだ!レル!行くよー!」
「わん!」
レルがブレードを持ち、高速でこちらに突っ込んでくる。彼女は完全にバランスを崩した!
「いっけぇぇぇ!」
「わふー!」
僕達は同時にルーに斬りかかる。そして……。
「今だよ!魔装解除!」
僕は魔装を脱ぎ、いつもの服装に。手の鉤爪はブレードに元通り!でも……レルの姿はプレートの鎧に守られた、変わらない姿だ!
「そこだ!」
「わふ!?」
僕は全力でブレードを振り、レルを斬った。レルはくるくると転がりながら地面を滑り、その場にぺたんと倒れた。
「わ……わふ!?」
「な……何してるんですか!?自分の仲間を!?」
「ううん、これでいいんだ!……だよね、レル?」
すると吹き飛ばしたレルから煙が巻き起こる。その煙が晴れると……そこにはルーが居た。僕は立っているルーを見ると、それはレルへと変化している。喋っていたルーは幻覚で、本物はレルに化けてたんだ!
「な、何で分かったんです?私が変身してたって。レルちゃんにもきっちり幻覚を見せて、同士討ちをしてたはずなのに……。」
「魔装は二人の魔力を合わせて変身するんだ。だから解ける時は二人同時に解けるんだ!」
「そ、そんな……。」
「でも、幻覚を見せて来たら確認出来ないから、レルにはブレードを常に口に咥えてるようお願いしてたんだ!すごく疲れるけど、これで見破れた!後は念入りに魔装を解いて、予想を確定させたんだよ!」
「……。」
ルーは観念したかのように下を向いている。やった……やったぞ!僕達の勝ちだ!
「やったよレル!」
「わん!わん!」
後は捕まえるだけだ!僕達はルーに近づき、拘束しようと手を出した。
「……フフッ。」
「えっ!?」
「アハハハハハハハハハ!」
「な、何!?」
彼女は立ち上がり、こちらを見る。その目はまるで獲物を見つけた時の、凶暴な魔物の目だった。
「凄い、凄いです!こんなに楽しめるなんて思わなかった!もっと、もっと勝負しましょうよ!」
「えっ?」
彼女は尚も骨の剣を取り出して突きを繰り出す。僕は慌ててそれをブレードでガードした。
「……ぐっ!?ガッ!」
……骨の剣はブレードを貫通して、僕の肩を直撃する。い、痛い!パワーもスピードも全然違う!?
「わん!ガゥゥゥ!」
「それーっ!」
「キャン!?」
彼女は次にレルを蹴っ飛ばす。するとレルは、直線の建物を何個も貫通し、飛んでいってしまった。
「れ、レル!」
「さあ、もっとです!かかってきて下さい!」
「も、もう動けないよ!」
「駄目です!まだ楽しみたいんだから!」
彼女は背中から何本も剣を取り出し、一斉にこちらに向かって来た。
「ぶ、ブレードを取らなきゃ!」
「えいっ!」
「そこまでじゃ、このたわけが!儂を注意していた癖に暴れ過ぎじゃ!」
「お、お嬢様!」
骨の剣を両手で押さえ込むのは、魔王ライア!?
「いえ、どいて下さい!こんなに楽しいのは久しぶりなんです!」
「話を聞け!もう勝負は終わった!儂らはここで帰るのじゃ!」
「えっ!そ、そんなー……。」
ルーはその場にちょこんと座り、がっかりした様子。そしてライアはこっちを向いて、手をそっと出す。
「ひゃっ!」
「お主達、本当に強いのう!儂らびっくりじゃ!」
「な、なに!?」
「傷を治してるのじゃ、随分酷くやられたからの。後できつーく言っておくから、許してくれると助かるのじゃ!」
ライアはその場で、しばらく僕の体に手をかざしていた。
今回も読んで頂き、ありがとうございます。続きが気になる、面白かったと思って頂ければ幸いです。もしよろしければ、ブックマーク、評価を入れて頂ければ嬉しく思います。




