魔王、勇者達を圧倒する
「ま、魔王だと!?こんなガキが!?」
「あ、あり得ない……。そんな事あり得ないわよ!」
「勇者様、マーチ様。私も信じたくは無いですが、アレはおそらく、本当に魔王かと思われます。しかし勇者様が手も足も出ない。これ程の物とは……。」
ジャンヌはシャーユ達と一緒に目の前の少女、ライアを睨みつけている。剣に手を掛け、いつでも斬り込めるよう準備していた。
「お主は聖騎士か。どうじゃ、儂と勝負するか?」
「ふ、ふざけた事を。勇者様達は貴様よりも強い、私の出る幕は無いんだよ。」
「そ、そうだ!俺達はまだ本気を出しちゃいない!」
シャーユ、マーチ、ケビンは三人でライアを囲む。一斉に攻撃する気だ。でも、ライアは呑気にあくびをしながら三人を見ていた。
「思ったよりも弱かったから、眠くなってきたのう。ほれ、全員で掛かってくるといい。」
「な、舐めやがって!行くぞマーチ、ケビン!」
「ええ!」
「任せろ!」
まずはケビンが拳を握りしめ、ライアに殴りかかる。
「喰らえ、アイアンナックル!」
魔力で強化された、銀の輝きを纏った拳がライアの腹部を捉える。そこで力を更に強め、ケビンは彼女を吹き飛ばした。
「……な、何!?」
「それで終わりか?魔力を込めれば受けるのは容易いのう。」
すかさずライアは手をケビンにかざす。呆然としたケビンに向け、光の光線が突き刺さる。
「か、きょぶ!?」
「い、嫌ァァァ!?」
そ、そんな!?奇妙な声を発しながら、ケビンの体が空中で爆散した!?マーチが絶叫しながら杖をライアに向け、巨大な魔力を練り始める。
「よ、よくもケビンを!死になさい、ヘルブリザード!」
マーチが放ったのは、とてつもなく冷たい吹雪。実際に放たれた吹雪は地面を凍らせ、それが一瞬で砕ける事で深々と地面を抉っていった。
それでも……ライアには届かない!?
「ぬるいのう。攻撃とは……こうやるのじゃ!」
ライアがかざした手からも吹雪が現れ、マーチの吹雪とぶつかる。でも、ぶつかったのは一瞬だけ。たちまちライアの吹雪が突き抜け、マーチの胸に直撃した。
「がっ……えっ……?」
胸の部分が凍り、マーチはその場に倒れ込む。すると同時に全身が凍りながらひび割れ、バラバラに砕けてしまった。
「う、嘘だ!?マーチ、ケビン!?」
「ティム、落ち着いて前を見るっす!奴はまだ何もしてないっす!」
「でも、二人は……あっ!」
僕は自分の目を疑った。爆散し、粉々になったはずの二人は、目を回しながら地面に倒れているだけ。今のは……もしかして幻覚!?
「きゅー……。」
「ぐう……ぐう……。」
「全く、この程度で勇者パーティーとは……。それで勇者、お主はどうする?まだ戦う気か?」
「お、俺は……。」
シャーユは剣を握り、ライアの下に。タイミングを測ってるんだ。でも、彼女は剣をじっと見ている。おそらく攻撃のタイミングは読まれているんだ。
「あっ、体は動く。今ならブレードで……。」
「ティム、今は動いたら駄目っす。」
「サリア!?何でよ、今がチャンスなのに……。」
「いいから静かにしてるっす。勇者が仕掛けて、奴が迎撃したその瞬間を狙うっすから。あーしに合わせて下さいっす!」
サリアも鎌を拾わず、足で自分の前に移動させた。ここはチャンスを見極めないと……。
「お、俺は勇者だ!魔王を倒す力を持った勇者なんだ!こんなガキに負けるものかぁぁぁ!」
「……ふん。」
シャーユが剣を振り、ライアはつまらなそうに片手を出す。その一瞬を突いて、サリアが鎌を蹴り飛ばした!
「もらったっす!」
「ほう!不意打ちか!」
「うりゃぁぁぁ!」
首をクイッと動かし、鎌の先端を避けるライア。そこに僕はブレードを思いっ切り投げつけた。
「おお!?それ投げる物じゃないじゃろう!?」
ここでライアは両手を出し、ブレードを挟んで防御した。今なら背中ががら空きだ!
「今だよシャーユ、攻撃してー!」
僕はシャーユに呼びかけた。そしてシャーユは……。
「お、俺はこんな所にいられるか!俺には王国を守る義務があるんだ!俺は王の城に行くから、後は勝手にやってくれ!」
えっ。
「勇者様、私もお供します!」
えっ!?
「な、何ふざけた事言ってるんすか!?ここでやらなきゃ街の人達全滅するっすよ!?」
「貴様には一度言わなかったか?王や勇者様の為なら、他の有象無象がどうなろうと知ったことではない!」
「そ、それをアンタが言うんですか!?アンタはこの王国の騎士団長でしょう!?」
「くどい!さあ、行きましょう勇者様!早く王の下へ!」
「ああ!」
二人はこの場を走って移動し、王様のお城へ向かってしまった。この場に残されたのは僕とサリア、眠っているマーチとケビンの四人になった。
「な……何て奴らじゃ……。民を置いて逃げるとは……。」
「わ、私もあんな勇者、今まで見た事がありません……。」
ライア、そしてこの様子を観察していたルーの二人は、シャーユ達の行動に顔を引きつらせていた。
「いや、そもそも儂らが用があるのは勇者達であって、ここの者達に何かする気は無いのじゃが……。」
「と、とにかく目標は達成出来ましたね!では後は。」
二人は僕達の方を向く。そして……。
「お主達はどうするかの?」
ライアがニコリと笑って、こちらの様子を伺っていた。
今回も読んで頂き、ありがとうございます。続きが気になる、面白かったと思って頂ければ幸いです。もしよろしければ、ブックマーク、評価を入れて頂ければ嬉しく思います。




