少年テイマー、魔王に遭遇する
「どこじゃどこじゃ?早く見つけねばならないのにー!」
「お嬢様、落ち着いて下さい。まずは魔力の探知からです。強い相手を探していけば、先生を見つけるのは難しくはないでしょう。」
「おお!早速やってみるのじゃ!」
指をピンと立てアドバイスするのは銀髪の、メイド服を着た女性。それを受けて、金髪の少女は体に魔力を集め始める。彼女は黒と赤のドレスを身に纏い、どこか高貴な印象を受ける容姿をしていた。
「ゆくぞ!探知開始じゃ!」
少女の手から網のような魔力が広がり、そっと地面に落ちてゆく。すると真下の方向に、何かを見つける事が出来た。
「これは……誰じゃ?何か力が集まっておるのう!」
「どこですか?早く行きましょう!」
「真下じゃ。」
「へぇ、真下ですか。」
銀髪の女性は感想を述べるが、すぐに少女の顔を見て、驚愕の顔を浮かべていた。
「真下!?」
「そうじゃ。今も二つの魔力がこちらに来ておる。何じゃろーなー。」
二人が下を見ると、そこには鎌とブレードを持った冒険者が飛び掛かってくるその瞬間が映っていた。
◇◇◇
「行くっすよ!ティム!」
「うん!」
僕とサリアはそれぞれ得物を持って、空中にジャンプする。敵はまだこちらに気づいていない、今なら一気に攻撃できる!
「真下!?」
「そうじゃ。今も二つの魔力がこちらに来ておる。何じゃろーなー。」
気づかれた!?いや、まだ下は見てない、このまま突っ込むしかない!
「「いっけぇぇぇぇ!」」
僕達が下から攻撃しようとして、上に居る二つの点が近づいてくる……そこに居たのは、二人の女性だった。
「そりゃぁぁぁぁぁぁ!」
「そこだぁぁぁぁ!」
まずはサリアが鎌を、銀色の髪の人に叩きつける。でも彼女は足で鎌を押さえると、そのまま鎌の上に立つような姿勢をとっていたんだ。
「はあ!?」
「な、何なのこの子達!?急に危ないじゃない!?」
僕は金髪の女の子にブレードをぶつける。でも、その攻撃も足であっさりと受け止められてしまった。
「な、何じゃお主達は!?下から来るなんて、予想外なのじゃ!?」
慌てた口調とは逆に、きっちりと攻撃を防がれ、逆に蹴り飛ばされる!
「うわぁぁぁぁ!?」
「ティム!」
サリアはすぐに下に高速移動、僕を抱えて地面に着陸した。
「あーし達の攻撃……全く届かなかったっすね。」
「どうしよう、先制攻撃は失敗だよ!?ここで大暴れされたら……!」
「まだ平気っす。奴らは、[今は]こっちに興味があるみたいっすから。」
「喰らえ、ギガフレイム!」
僕達が上を見ると、二人の女性はこっちにゆっくりと降りてくる。ふわふわと下に来る途中、マーチの生み出した火球が二人を直撃するけど……まるで効いていない。魔法がダメージを与える事はなく、そのまま二人は地面に着陸した。
「ほう、この者達は?」
「ちょっと待ってて下さい。今資料を出しますから。」
銀髪の女性が紙を取り出し、それを読んでいる。すると急に、僕の顔を見て目を輝かせた。
「お、お嬢様……あの方です!あの方が冒険者様の言っていた先生です!」
「何と!やはりここで会えたか!儂らは運がいいのう!」
金髪の女の子は僕に近づいて来て手を握り、ぶんぶんと振り回していた。
「な、なに!?どうしたの!?」
「あえたあえたー!お主があの冒険者さんが言ってたティム先生じゃな!会いたかったぞー!」
「だ、誰それ!?僕そんなの知らないよ!?」
知らない子に手を振り回されて、僕はわけが分からなくなってしまった。でも……僕を先生って呼ぶのは……。
「あ、あの!?もしかしてラルフさんの知り合いですか!?」
「うむ!儂らあの人の配信を見て、お主の事を知ったのじゃ!男の子だと思っていたが……可愛いのう!お肌つやつや髪もなめらかなのじゃー!」
髪をわしゃわしゃと揉みながら、彼女は僕にくっついている。お、落ち着かなきゃ……この子はすごく強いはず、レルが怯える様な相手なんだ!僕はブレードを手に取って、もう一度攻撃を……。
「おい!そこの魔族!」
「……なんじゃお主達は?儂は今先生と話したくて忙しいのじゃ。」
「何を訳の分からん事を!貴様のような魔族は、この勇者、シャーユ様が成敗してくれる!」
「……ほう。お主が当代の勇者、か。」
女の子は僕の側を離れて、勇者パーティーとジャンヌの方へ向き直る。僕はブレードを掴んだ手を動かそうとしたけど……動かない。
「さ、サリア。」
「分かってるっす。あの子はとんでもない奴っす。」
サリアも鎌を拾おうとしたけど、動きが止まっている。あの子は一体……。
「儂は一応これが目的で来たのじゃ。よかろう、見てやるぞ?お主達の力を!」
「先手必勝!消し飛ばしてやる!」
シャーユは魔力を纏い、女の子に突撃する。速い、それに体全体が輝いている!魔力が鎧代わりになってるんだ、これならカウンターも狙える!
「もらった、ブレイブアタック!」
シャーユは剣を抜き、女の子を斬りつける。でも女の子はそれを右手で受け止め、左手で剣を殴った。
「ふんっ!」
「な、何だと!?だが!」
剣を飛ばされたシャーユはすかさず纏った魔力を手に集め、渾身のパンチを繰り出す!でも女の子は顔を少しずらして、それを避けてしまった。
「その程度か?当代の勇者の力、大した事は無いんじゃのう?」
「な、なんぷきゃる!?」
シャーユの胴体に、女の子の拳が突き刺さる。……嘘でしょ……体が、貫通している……?
「ぎょぉぉぉ!?」
「勇者様!」
吹き飛ばされたシャーユをジャンヌが受け止め、手を当てる。すると体の傷が塞がり、元通りになっていた。今のは……幻覚?
「お、俺は今……何があった!?」
「衝撃波で吹き飛ばされたのです。しかしあの魔力……一瞬死を連想させられた。正気を保って下さい、でなければやられます!」
「あ、ああ!おい、貴様は一体何者だ!名を名乗れ!」
「名を名乗れ、か……。そういうのは、そちらから最初にする物じゃろう。自分は言わずに人に言わせるとは、ちょっとずるいぞ?」
「黙れ!魔族に名乗る必要は無い!」
あの子、今は大人しいけど、何が起こるか分からない!何とかこっちに引き付けて、街から遠ざけないと。
「あ、あの!」
「うん?」
「もう知ってるみたいですけど、初めまして!僕はティム、テイマーをやっています!今は配信者として色々やってます!貴方は……誰なんですか?」
「……そうかそうか!やっぱりお主は先に名乗ってくれるのじゃな!ならば儂も答えねばなるまい!」
「ええ!私もお答えします!」
女の子はニコリと笑った後、ドレスの端を両手でつまみ、お辞儀をするような格好で僕の前に向き直る。それに倣って、銀髪の女性も同じ動きをしていた。
「……ではお答えしよう!儂の名はライア。魔王を務めておる、ただの小娘じゃよ。」
「……同じくお答え致しましょう。私の名はルー。ライアお嬢様の側近を務めさせて頂いている、ただのメイドです。」
聞こえてきたのは魔王という言葉。勇者パーティーの倒すべき目標。それが目の前にいる子だと分かり、僕達は驚きで動けなくなってしまったんだ。
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