少年テイマー、点の下へ急ぐ
「な、何よあれは!?」
「空に二つの点……おそらく転移用の魔法だろう。今から何かがここに来るようだな。」
私とジャンヌが同時に斬りかかろうとした時、急に異常な魔力を感じた。その場所を確認する為に上を向くと、空に丸い点が二つ出現していた。
「貴様達は後回しだ。アレの正体を突き止めなければ!」
「ま、待ちなさいよ!」
「行かせてやれ、サリア!我らも奴に構っている暇はない!」
「ギル!?」
ジャンヌはすぐに走り出してしまった。私は戦闘を止めたギルを見ると、ブルブルと体が震えているようだった。
「もしかして武者震いかしら?この感じ……あそこから出てくる奴は、かなりのやり手のようね。私でも分かるわ。」
「いや、違うぞ。」
「違うの?それなら何?」
ギルは深呼吸して、私の方を向いた。
「我はあれが怖いのだ。何故かは分からぬがな。」
「……えっ?」
◇◇◇
「おい……何かあの点、段々と大きくなってないか?」
「あれは転移魔法!何か来るわよ、迎撃準備を!」
「何が来ても問題無い。俺達は勇者パーティーなんだからな。」
シャーユ達三人は空中の点を見て、武器を取り出している。おそらく、出てくる物と戦うつもりだ。でも、僕は一目散にここから逃げ出した。まずはレルに合流しないと!レルの力を借りなきゃ、危険すぎる!
「レルー!こっち来てー!」
「わん!?わん、わん!」
僕が大声で呼ぶと、街の角から慌ててレルが走って来た。僕でも怖く感じる位の魔力、レルにとってはパニックになるような衝撃だよね……。
「ごめんレル!力を貸して!」
「わふ!?わふ……わん!」
僕はレルの背中に手を当てて力を借りる。レルはやっぱり震えていた。何か得体のしれない物が来るって分かってるんだ。
「……よし!レル、僕はあの点に向かってみるよ!レルはここで待ってて!」
「わ……わん。」
レルに無理はさせられない。今は僕が行かないと!
僕はレルをギューッと抱きしめた後、点に向かって走り出した。
◇◇◇
「おいおい何だあれ?」
「空に何か浮いているわね。」
街の人達も異変に気づき始めた。これはまずい、何か出てくる前に避難しないと!
「皆さん!ここにもうすぐ敵がやってきます!誰かは分からないけど、ものすごく強い何かが来るんです!早く逃げましょう!」
「何だお前は!?ゴミテイマーが俺達に指図するな!」
「ぎゃっ!?」
「あれはアンタの仕業ね!勇者様に追い出されたのを根に持って、嫌がらせに来たのね!」
大声で叫ぶ僕に、街の人達は石を投げたり、叩いたりしてくる。今はそんな事してる時じゃないんだ!早く逃げないと!
「本当に危ないんです!あそこから強い魔力を感じるんです!」
「黙れ!テイマーの言う事なんて信用できるか!そもそも何が出てくるかも分からないのに、避難なんて馬鹿げている!」
「そ、そんな……。」
僕が注意しても、誰も言う事を聞いてくれない。どうしよう……。
「見つけたわよ!どうしたのよ、立ち止まって。」
僕が困っていると、サリアが屋根を伝って移動してくるのが見えた。彼女は僕を見て、すぐに下に降りて来た。
「ティム、無事かしら?」
「サリア……どうしよう、皆避難してくれないよぉ……。」
「ティム……。」
「僕、ちゃんと説明したよ……?あそこは絶対危ないんだ。だから……。」
「ちょっと待ってて。……すうーっ、はあーー。」
するとサリアは深呼吸した後、屈んで僕の目線の前に来た。そしていつもの口調で、優しく話しかけてくれた。
「これで落ち着いたっす。ではティム、街の人達を助けたいっすか?」
「サリア……。」
「皆でティムの事をバカにして、レルも酷い目にあったんでしょう?それでも、助けたいと思うんですかね?」
「そりゃ、僕だって嫌な思いをしたけど……今はそんなのどうでもいいよ!今なら逃げられるんだ、早くしないと!」
サリアは腕を組んでうんうんと頷いていた。
「そうっすか……やっぱりティムは優しいっすね。それなら、あーし達のやる事は一つっす。あそこから出てくるバケモノを、この街から引き離すっすよ!」
「サリア!?そんな事出来るの!?」
「無論、上手くいくかは分からないっす。でも、やらないで泣くよりやって泣くっす!」
「サリア……。」
「さあ、行くっすよ!ついでにここでティムの力を見せつけて、街の人達もギャフンと言わせてやれっす!」
「……うん!」
僕とサリアは一緒に、二つの点に近づく事にした。街を守るなら、出てきた物に攻撃して、それから上手く引き付けないといけない。出来るかは分からないけど、とにかくやらなきゃ!
「あ、あれは……。」
「ティム!お前も来たか!」
僕達が点の近くまで来ると、既にシャーユ達がそこにたどり着いていた。その側には騎士団長のジャンヌも一緒にいる。
「勇者様、気をつけて下さい。何が来るか分かりませんから。」
「任せておけ!俺達が転移してくる奴を倒して、より実績と名声を高めてやるさ!」
「流石です。お任せします!」
「喋ってる暇は無いっす!……いよいよ来るっすよ!」
シャーユとジャンヌが話し終わるのと同時に、空の点はより大きくなった。そして点の周りには、稲妻がほとばしり、ピカピカと光っている。
「き……来た!皆構えて!」
僕達は武器を持って点を攻撃する体勢に入る。すると点がピカッと輝き出し…………
「来たぞ来たぞ!ここが勇者のいる国、グランド王国じゃな!早速先生を探すのじゃ!」
「もう……早めに済ませて下さいよ?あまり迷惑をかけないようにして下さいね?」
そこから出てきたのは、二人の女性だった。
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