勇者の愚行、或いは栄光への道
ストーレの街から離れた場所で、勇者シャーユが街を睨んでいた。その側には、彼の連れてきた部下達がいる。
「ゴミクズ共が!このシャーユ様に逆らうとは!まあいい。俺に従わない奴らがどうなるか……教えてやるぞ!」
シャーユはポケットから手紙を取り出す。それを部下に持たせ、指示を出していた。
「これを勇者パーティーに届けてくれ。作戦を決行する!」
「ゆ、勇者パーティー……ですか?しかし……どうしてあのお二人に?」
「うるさい!俺は勇者だ、俺の言う事には絶対服従だ!」
「は、ハッ!」
部下は慌てて王国に走り出す。勇者パーティーであるシャーユがここに居るのには、ある一つの理由があった。
◇◇◇
クエスト失敗の翌日、王国の街で一日過ごした勇者パーティーは街の外へ。今からダンジョン攻略を行うため、目的地へと歩いていた。
「前回のリベンジだ!行くぞマーチ、ケビン!」
「任せなさい!私の魔法で今度こそ全員倒してやるわ!」
「俺も気合を入れ直した。もう負ける事は無い!」
三人は意気揚々とダンジョンに向かうのだが……。
「う、嘘だろ……。」
「何でこんな事になってるのよ!?」
三人が前回のリベンジを果たすべく向かったダンジョン。そこには異常な光景が広がっていた。
「ゴォォォ……ゴォォォ……。」
ダンジョンの入り口には、何故かアイアンゴーレムが佇んでいる。そしてその周りには、とても直視出来ない光景が広がっていた。
「あ、辺り一面……血まみれになってる……。」
「こ、これは俺達のせい……なのか……?」
アイアンゴーレムの周りには、様々な魔物の死体が散乱していた。潰された物、体がバラバラになった物……ダンジョンの入り口は赤一色に染まっていた。
「ゴォォォ……?」
「や、やばい!」
「馬鹿!声を出すな!」
ケビンがシャーユを止めるも、その声は遠くのアイアンゴーレムに届いていた。
「ゴォォォ!ゴォォォォォォ!」
アイアンゴーレムはシャーユ達の存在に気づく。そして赤く染まった腕を振り上げながら彼らに迫って来た。
「駄目だ!逃げブベェェ!?」
「「シャーユ!?」」
アイアンゴーレムのパンチが当たり、遠くに吹き飛ばされるシャーユ。それを見た二人は慌てて逃げるが、アイアンゴーレムはしつこく追いかけてくる。
「シャーユ!しっかりしろ!肩に掴まるんだ!」
「わ、悪い……このまま王国に逃げよう!」
「これで止めるわ!ブリザード!」
「ゴォォォ!?」
マーチは氷の魔法を撃ち込み、アイアンゴーレムの足元を凍らせる。そして氷を壊す為にしゃがんだ隙をついて、三人は街へと逃げるのだった。
◇◇◇
「いや、危なかった。二人とも悪かったな。」
「気にするな。お前も無事で良かったよ。」
「でもどうする?クエスト、目的地にすら着けずに失敗よ?」
「なに、俺達は勇者パーティーだ!何も問題無い。さあ、報告に行こうぜ!」
三人は街役場へ直行。そして受付嬢の所に歩いて行った。
「貴方達!本当にいい加減にして下さい!前も言いましたが、勇者パーティーには影響力というものが……。」
「仕方ないだろう!?何せ血だらけのゴーレムに追われたんだから!」
「あのですね!最近クエストの失敗が続いていて、勇者の実力について疑う人が出始めてるんです!だから早く実績……ちょっと待って下さい。今何て言いましたか?」
シャーユの言い訳を聞いた受付嬢は、先程とは違う真剣な顔で三人に話しかけた。
「だーかーら!ゴーレムに追われてたんだよ!あんな血だらけの奴、見た事無いぜ?」
まさかアイアンゴーレムに負けたとは言えない。そんな事を言えば勇者パーティーの権威は更に落ちる事になる。しかし、この返事を聞いた受付嬢は顔を真っ青にしていた。
「貸して下さい!」
「あ、おい!何をするんだ!?」
彼女は勇者パーティーの依頼書を引ったくり、その内容を確認する。その後魔物の生息地を調べると、その中にアイアンゴーレムが居るのが判明した。そして彼女は一つの結論に至った。
「もしかして……ブラッドゴーレム!?貴方達、アイアンゴーレムから転移魔法で逃げましたか!?」
「え!?い、いやまさか、そんな訳ないだろ!」
シャーユは誤魔化すが、受付嬢は彼に詰め寄り、強い口調で迫る。
「とぼけないで下さい!アイアンゴーレムには、ごくごく稀に執念深い物が居るんです!もし敵が足で逃げたのなら、奴は勝利の優越感に浸るだけでしょう。でも、転移で逃げたとなると……。」
「ど、どうなるのよ……?」
「……奴は決着がついてない相手を探し回り、辺り一帯の魔物を殺して、その血で体を染めるのです。だから視界から外れるまでは走って撤退するのが定石です!まさか……知らなかったんですか!?」
「あ、ああ……。」
受付嬢は真っ青を通り越して真っ白な顔をしていた。深呼吸を行い、クエストの依頼書にペンで何やら書き込んでいる。
「すぐにクエストの手配を!場合によっては王国の騎士団にも出てもらうわ!」
「は、はい!」
別の受付嬢の女性に依頼書を持たせ、それを掲示板に貼らせている。緊急クエスト、その報酬は……100万ゴールドと記載されていた。
「おお!ブラッドゴーレムって、こんなに稼げる相手なのか!?」
「良いわねこれ!私達も受けましょうよ!」
「ああ、早速行こう!」
「あっ!待ちなさい!貴方達にはまだ言う事が……!」
受付嬢の話も聞かずに外に出た勇者パーティー。彼らはブラッドゴーレムを倒すべく、策を練るのだった。
「しかしどうする?真っ向からでは勝てない相手だろう?」
「そうよね。かと言って他の冒険者に取られたりしたら、私達の手柄にならないわね。」
ケビンとマーチは頭を捻って方法を考えているが、いい方法は思いつかない。しかし、シャーユはニヤリと笑っている。
「いい方法があるぞ。ブラッドゴーレムを倒して、手柄を手にする方法が!」
「何よそれ!聞かせなさいよ!」
「俺も興味がある。聞かせてくれ。」
ケビンとマーチはシャーユの策について話すよう急かし、シャーユも得意げにその策を話し始めた。
「ああ、利用するのはストーレの街だ。」
「あそこ?ゴミの溜り場じゃない?」
「そう。あそこには王国から逃げ出した奴が街を構えている。そこにブラッドゴーレムをぶつけるんだ。」
「どういう事だ?」
「役立たずの処理とブラッドゴーレムの討伐、両方を一気にやるのさ。ゴーレムにあそこを襲わせ、疲弊した所を一気に叩く!これで一気に二つも手柄が出来る!」
「いいわねそれ!早速やりましょう!」
マーチは大喜びでその策に乗る。ケビンも賛成したかのように頷いていた。
「俺があの街に行って、ブラッドゴーレムを誘導する。そこで街を襲わせ、一気に始末するんだ!今から早速行ってくるぜ!」
「頑張ってね!期待してるわよ!」
「大丈夫とは思うが、しくじるなよ。」
◇◇◇
「今から滅ぶんだから、俺に金を寄越せばいい物を。まあいい。早速ブラッドゴーレムを呼んでくるか!行くぞお前達!」
「「ハッ!」」
シャーユは馬に乗り、部下を連れてダンジョンへ向かう。かなりの距離になるが、報酬と手柄がかかっている。今のシャーユには、そんな移動は苦にならないのだった。
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