閑話 よぞらに想った日
「あ、アオハさん、リッチさん……どうしてこちらに?」
青い髪の男の子はアオハさん、ローブを纏った方はリッチさん。ティム様から話は伺っていますし、リッチさんとは一緒に特訓もしました。そんな二人とも私を見て、手を振ってくれています。
「うん、何だか眠れなくて散歩してたんだ。そうしたらサキを見つけたんだ!そうだ、ちゃんとした挨拶ってしてなかったかも!」
「じゃな。せっかくじゃ、ワシももう一回挨拶しておこうかの。」
二人は私の所にジャンプして、隣に座ります。わ、私も屋根に座って二人の話を聞く事にしました。
「では改めまして……僕はアオハ!見た目の通り僕はエルフなんだ。特技は魔法で矢を飛ばすこと!シュバッと撃って、ドカーンと敵をやっつけるんだ!……威力はあんまり無いけどね、将来はきっとそうなるよ!」
「ワシはリッチじゃ!サキは魔物じゃから予想はつくと思うが、スケルトンの上位種じゃ。魔法の事なら任せておけ!みたいなおじいちゃんかの?」
「……ふふっ。」
二人の自己紹介を聞いて、私は何だか楽しい気持ちになってきて、思わず声が……!
「笑ったね!やっぱりサキには笑顔が似合ってるよ!」
「さて、サキも眠れないのかな?サキュバスは夜行性の子が多いイメージじゃな。」
「わ、私は考え事を……ちょっと緊張してしまって。」
な、中身は言えません。だって私は……
「ではリラックスのために、一緒に空を見よう!ここ、スタージウムって夜空がとっても綺麗で有名なんだって!ほら、見てよあの空。星がいっぱい光ってるよ!」
「星と闘技場が名物らしいから、それで名前がついたのかもしれないのう。」
一緒に空を見ると、星がキラキラと輝いています。ずっと見ていたい、そんな気持ちになってきました。
「サキ、ちょっと時間ある?」
「え?は、はい。」
「そう?なら!」
あ、アオハさん、こちらを見てニッと笑って……
「なら少しお喋りしよう!いいかな?」
「は、はい。」
「さて問題です!どうして僕がここに居ると思いますか?」
「え、えっ!?えっと……しょ、賞品目当てでは……?」
「正解!ではどうして僕はサリアと一緒に居るかは分かるかな?」
どうして……確かに配信を見ていると、アオハさんはサリアさんと行動してる場面があるけど……
「と、友達だからでしょうか……?」
「うーん、惜しい!」
手で小さくクロスさせ、違う事をアピールするアオハさん。
「では、どうしてですか?」
私が質問すると、アオハさんは顔を地面に向けて、寂しそうにしていました。
「いやー、恥ずかしいからあんまり言いたくないんだけどね……元々僕は、サリア達を利用しようと考えてたんだよ。」
「っ!?」
そ、それは一体どういう事なんですか!?
「僕達は小さい集落で暮らしてたんだよ。そこには他の場所に居られない魔物達が集まってたんだけど、周りには他の魔物や人間達がたくさん居るから、常に警戒してたんだ。」
「そ、そうなんですか……」
「それでね、良い手が無いか考えてたら、あの配信を見たんだよ!あのテイマーが、あの魔王と戦っている所をね!」
「それって……」
「それを見た瞬間、僕は考えたんだ。こんな強いテイマーと友達になれば抑止力になるって!それでサリアの住んでるストーレの街へ行ったんだ!」
「そ、そんな酷い事を……!」
アオハさん、そんな考えでサリアさん達に近づいたんですか!?まるでテイマーを道具みたいに……!
あっ……
「だけどね。実際にサリア達、ティム達に出会って、僕は本当に、本当の友達になりたいと思ったんだ。打算とか一切関係なく、ちゃんと友達になりたいって!」
「そ、それは。」
「だから僕はこの大会で、彼女達に自分の気持ちを伝えようと思うんだ。まあサリア達の事だし、勘づいてるとは思うけどね。」
「そ、そんな話をどうして私に?」
アオハさんの目が、私を捉えて……
「サキ、もしかして緊張だけじゃない悩みがあるんじゃないかな?お節介ならごめんね、でも悩みがあるなら、ティム達に相談してみようよ!」
「で、でも私は」
「ティム達はサキの話をちゃんと聞いてくれるし、一緒になって考えてくれると思う。サキが一番分かってるんじゃないかな?」
「わ、私は……!」
私にはそんな資格なんて……
「恥ずかしいって気持ちも分かるよ。でもティム達にとって、サキは大切な友達なんだ。もちろん、僕達にとってもね。」
「アオハさん……」
「なんてカッコつけちゃったけど、本当は僕の練習のためなんだ!サリア達にこんな事言うの恥ずかしいから、サキで練習しちゃった!ごめんね!」
「あ、アオハさん!?」
驚いてアオハさんを見ると、彼はにっこりと笑っていました。
「だからサキも気楽に相談してみよう!何なら僕が練習相手になってあげるよ!」
笑うアオハさんと、それを見て目を細めるリッチさん。二人を見ていたら……私のもやもやした気持ちが少し落ち着きました。
「あ、あの!」
「何かな?」
「ありがとうございます、緊張がほぐれてきました!明日の大会、私も頑張ります!」
「それは良かった!……ふぁー、僕も話してたら眠くなってきちゃったー。そろそろ帰ろうかな?あれ、リッチ?」
「ぐぅぐぅ……わ、若者達の友情はいいのう。サキの表情も明るくなったし、ワシらも帰ろうかの?」
「それを今言ってたの!絶対寝てたでしょ……何かごめんね!じゃあサキ、また明日!」
「健闘を祈っておるぞ!では!」
そして二人は地面に降りて、手を振りながら宿屋に帰って行きました。
「アオハさんみたいに、私もティム様に……」
二人の気配が無くなってから、私は部屋に戻りました。ベッドに入って、今日の事を考えます。
でも一人になって……またもやもやした気持ちが湧いてきました。
「私……私は!」
私はティム様と一緒に居たい、私はティム様の事が……!
「でも言えない……言えないよぉ……!」
私の任務はティム様の監視、定時報告以外で向こうからの接触は一切無い。でも……
「ティム様……」
相談できればどんなに楽でしょうか。でもジャンヌに気づかれたら、ティム様が危険な目に……違う。私は、自分の自由の方が大切なのかもしれません。
「ごめんなさい、ティム様ごめんなさい……!」
それでもいつか……
ティム様に本当の事を言える時が来たら、その時は……。
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